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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(45)「海外赴任者のストレス 注意欠陥性障害ADD~落ち着かない子ども達と慌てん坊の大人達」
NL06090102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス 注意欠陥性障害ADD~落ち着かない子ども達と慌てん坊の大人達


シンガポール日本人会診療所
小川原 純子


「うちの子、全然集中して宿題やらないのよ。すぐ、他のことが気になっちゃって・・・本当に、落ち着きがないんだから。」という、お母さんの愚痴はよく耳にします。「分かる。うちの子も同じよ。」多くのご家庭で、このような悩みを抱えているものです。子どもの集中力は、年齢と共に成長してゆきますが、同年齢の子ども達に比べて、特に「集中力にばらつきがあり、注意が他に逸れ易い」子ども達に、最近注目が集まっています。

はっきりと「多動」の傾向があり、授業中、ジッと座っていられない・終始、活動的で、落ち着いて課題に取り組めない等、顕著な問題行動があれば、家庭や学校でも、早期に気付かれ、診断を受けることもあるでしょう。ところが、授業中、立ち歩く程でもないけれど、こういった問題を軽度に抱えている子ども達もいます。「快活で、なかなかのアイデアマン。」「積極的に発言し、恥ずかしがらない子。」「あまり、くよくよ失敗を引きずらず、思ったとおりに自分を表現する純粋な子。」「天真爛漫。」など、長所として評価されることもありますが、実際に注意してみると、下のような特徴があります。

・ 順番を待てずに、思いついたことをストレートに発言してしまう。
・ 気になる物に、さっと手が伸びてしまう。
・ 目の前の授業に集中せずに、気になったことに、思考が勝手に移ってしまう。
・ 空想好き。
・ 授業中、ノートがきちんと取りきれない。落書きが多い。
・ 「好きなこと」には集中し、かなりの実力を発揮するが、「やらなくてはならない事」に取り掛かることが難しい。
・ 真剣にやれば出来るのに、なかなか真剣に取り組まない。
・ ひどく注意されたのに、すぐに同じ間違いをしてしまう。
・ 怒られたことを、すぐに忘れ、気にしていないように見える。
・ 片付けが出来ない。
・ 忘れ物が多い。

こういった行動特徴が、場所を選ばずに見られる時には、注意が必要です。学校では、とても良い子で、きちんと先生の指示が入るのに、家庭では、全く、親の期待通りに動かない子ども達もいます。子ども達は、「甘えの天才。」だから、家庭学習・家庭生活だけでは、子どもの状況を正確に判断することができないものです。実際に、子どもを評価するには、学校や塾・習い事の先生に、「同じ年齢の子ども達と比較して」客観的に評価してもらうことが、大変参考になります。

大人のADD~その1

今日の本題はここからです。実は、極軽度のADD傾向があって、今まで指摘を受けることなく大人になっている人たちもいます。中には、とても優秀な人やアイデアや発想力が豊かで、社会的に成功している人も少なくありません。
一方で、とても苦労している人もいます。機転や発想は良いのだけれど、雑多な事務処理・片付け・整理整頓・家事が、とても苦手で、日々の生活を「自分にがっかりしながら」過ごしている人たちです。

例:ご主人に「だらしない」と言われてしまう31歳・Aさん(女性)

Aさんは、とても明るく人付き合いの上手な女性です。生来、くよくよ考えず、多少の失敗をしても「まあ、そう言う事もあるか!」と、気分の切り替えが早いことが、自分の長所であると思っていました。

ところが、結婚して退職。ご主人と共に、シンガポールに赴任し、主婦として腕を振るうことになりました。Aさんは、機転が利きすぎてしまいます。電話に出ると、話しながら、近くに置いてある手紙に気付きました。電話を切ると、早速、手紙を開けようと、はさみを取りに行きます。はさみ置き場の近くに、昨日使った鞄が置いてあったので、レシートを整理しようと、手紙とはさみを置いて、レシート整理に取り掛かりました。レシートの中に、クリーニングの引換券が出てきました。「そうだ、今日受け取りに行きたいから、主人の汚れたズボンをまとめてしまおう!」と、寝室に向かいます。ズボンをまとめていると、携帯電話が鳴り、友人から送別会の連絡が入り、色々な相談をしているうちに、新しい仕事が増えてしまいました。

Aさんは、決して、不真面目に生活しているわけではありません。人一倍努力しているのですが、一つ一つの用事が完結しないのです。だから、一日努力して、たくさんのことを手掛けましたが、完全にきちんと終了するものが少ないのです。だから、Aさんが努力をしているのに、ご主人から「君はだらしないね。一体、日中、何しているの?」と言われてしまいます。他の奥さんが、軽々とこなしている事なのに、自分は何故できないのか、最近は、自分が情けなく自信喪失中です。

例:アイデアはあるけれど、持続力のない30歳・Bさん(男性)

Bさんは、大学時代にはサークルのリーダーをするほど、活発で、話し上手、仕切り上手です。皆が喜ぶような企画なども、労を惜しまず提案・実行するなかなかの活動家です。学力的にも、優秀な方です。Bさん自身も、自分の性格に自信を持っていました。昨年から、シンガポール支社(日本人2名)に赴任になり、事務処理・連絡など細々とした雑用全般をこなし、自分で判断しながら、上司をサポートすることを期待されています。ところが、来星4ヶ月目位から、「期待される役割」を十分にこなせていないことに、自分でも気付き始めました。

大学時代や東京本社で勤務していた頃、Bさんは、その人柄から友人に恵まれ、さりげないサポートを得ていたのです。もちろん、友人が、Bさんの仕事を直接、手伝うわけではありません。「今日は、○○会議だろ。昼飯は、簡単に済まそうぜ。」友人のこんな一言が、Bさんの集中を一点に絞り、段取り良く仕事をこなすリズムを作ります。
ところが、シンガポールでは、集中が一点に絞れません。山のような事務処理を前に、「そうだ、これは、今日中にやろう。あれも、なるべく早くやらなくちゃ。」と、あっちもこっちも、頭の中は大忙しになるばかりで、能率は全く上がりません。そして、その内、疲れきって、仕事に集中できなくなってしまうのです。

上司からは、「要領が悪い。」「もっと、真剣に仕事と向き合え!」と喝を入れられ、自分でもこの1年間、何度も心を入れ替え、「仕事に専念しよう。」と決意しますが、数日努力すると、頭が疲労し、集中が切れてしまいます。特に、上司が不在の時には、一向に仕事がはかどりません。夕方になると、自分が、今日一日で何も達成していないことに気付き、自分自身にがっかりしたり、あせったり。だから、毎日、遅くまで残業することになってしまうのです。
最近では、「自分にはこの仕事が合っていないのでは?」という疑問や「上司との相性」まで考え込んでしまいます。

大人のADDは、重症な疾患ではありません。ですが、日々の生活の中では、深刻な問題です。こういったADDの傾向を持つ人は、決して稀ではないのです。本人はもちろん、周囲にいる人たちもその特徴を知らなければ、「要領が悪い」「真剣さがたりない」「怠けている」と感じられて、必要以上にイライラしたり、叱責したり、人間関係に葛藤を引き起こします。とにかく、多くの人に「ADD:注意欠陥性障害」がどんな状態なのか、知っていただくこと、認知していただくことが大切です。(次回に続く)