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ニュースレター(機関紙)

子育てのこころ(1) ほめる子育て・その1
NL06080104
小児科

子育てのこころ(1) ほめる子育て・その1


国立成育医療センター こころの診療部 発達心理科
広瀬 宏之


●はじめに
 ご縁があって子育てについて連載をすることになりました。私は、もともと小児科医で神経学を専門にしていましたが、現在は神経にとどまらず、認知・社会面や心理・精神面での発達に問題があったり、病気の症状に心理的な背景があったりするお子さんとそのご家族を支える仕事をしています。昨年のニュースレターでのリレーエッセイ「小児医療の現場から」でも自己紹介をしていますので、ご参照くだされば幸いです。
 今回の連載では、子育ての基本的な考え方、親子関係を含めた心理面の発達、認知神経学的な面での発達など、子育てに関する色々なお話をしようと思います。

●子育ての難しい時代に
 子育ての難しい時代になってきているように感じます。子どものこころの問題への注目度もますます高くなり、各地の大学病院や小児病院では、子どものこころにスポットを当てた診療部門が設置されるようになっています。つい最近、英国のLancetという有名な医学雑誌に、自閉症の有病率が1%を超えたという報告が載りました。文部科学省の調査では、小学校の普通級の中で特別な配慮を要する子どもは6%程度だそうです。児童相談所への虐待通告も年々増える一方です。社会の変化とともに子どもに対する様々なストレスが強まっているのを感じます。そのような環境の中では、子育てをどのように行っていけばよいのでしょうか。

●減点法の子育て
 子育てに限らず、何か新しいことを学習して身につけてもらうやり方には、大きく分けて二つの方向があります。できないところに注目して叱咤する方法と、できたところに注目して励まして伸ばして行く方法です。採点法でいうと減点法と加点法になります。
 減点法ではできなかったところや悪いところに着目し、“駄目出し”を繰り返します。「出来ないと駄目ね」「またそんなことやって、どうしてわからないの」「そんなことばかりじゃお父さんみたいになるわよ」などです。これを毎日繰り返し行うと、子どもはどんどん自信を失い、自己評価や自分を大事に思う自尊心が低下していきます。

●過剰適応の末路
 減点法で採点されても、それを聞き入れて自分を修正する能力のある子どもはどうなるでしょうか。このタイプの子どもは、間違いを叱責されることを恐れて、たえず正解を求めて生きていくことになります。
 ここでの正解とは、しかし、自分の体験から学んだ正解ではありません。周囲がよしとする正解です。求められる正解を追いかけ、これを常に繰り返していると、周囲と合わせる能力が著しく成長していき、過剰適応と呼ばれる状態になります。主体性の無さができあがり、自己主張ができなくなります。主張すべき自分すら、まったく育たないことがあります。

●失感情症・身体化・心身症
 過剰適応が完成するとどうなるでしょうか。いくら、周りの、外界文化に合わせることを繰り返しても、人間としての本質が失われていない限り、自分の内面の気持ちを押し殺すことはできません。成長するにつれて、自分が合わせている外界と、本当の自分の内面とのずれが顕著になります。しかし、自分の体験をもとにした生き方をしていませんし、自己主張も経験していませんから、ずれをずれとして認識することが非常に困難なのです。内面で感じている気持ち(本音)と、合わせなくてはいけない外界文化(建前)との乖離が完成します。
 自分の本当の気持ちをつかまえることができないと言う意味で、失感情症という言葉を用いることがあります。その一方で、からだは本当の気持ちに正直に反応します。こころとからだが乖離し続けていると、からだから何らかのサインがでます。からだの症状でこころを表現することになります。からだには原因が無いのに、からだの症状で気持ちを物語ることを身体化という言葉で表現します。
 緊張すると手に汗をかいたり、胃がキュッと痛くなったりすることがあります。楽しいことがあった日は、気持ちが昂って眠れないことがあります。すべて、こころからからだへのサインなのです。こころで感じる気持ちに呼応してからだ、特に自律神経が反応しているのです。失感情症の人はそれを無視し続け、からだからのサインがエスカレートしていきます。そのうち、本来は悪くなかったはずのからだの機能が悪くなります。気持ちが主な原因でからだの症状がでてくる、心身症と言う病態になっていくのです。

●抑圧の果てに
 減点法で育った子どもでも、もともとの自力のある子は減点行為に対して反発します。批判され、押さえつけられた分だけ反発します。周囲が力で無理に抑圧するようになると、子どもも必死の力で反発します。されたことはやり返す、「目には目を」と同じなのです。かくして、家庭内暴力に発展します。いわゆる「キレる子ども」の多くは、元々がキレやすいというよりも、間違った対応により、さらにキレやすい子どもに育てられてしまうのです。
 ちなみに、「キレる」というのは衝動性や攻撃性という言葉で表現することができます。突発的に激しく行動してしまう衝動性の多くは生まれつきのことが多いのです。衝動性をいかにコントロールするかを学んで行かなければいけない筈なのに、周囲が力で押さえる子育てをしてしまうと、衝動性が解消されるどころか、攻撃性が付け加わってしまいます。

●攻撃性と怒り
 攻撃性の背景にあるのは怒りです。力で押さえつけにかかる周囲に対する怒りは、暴力と言う形で表現されます。一方、押さえこまれてしまった自分を、価値のない、駄目な存在として見なす自分への怒りは、自分に対する怒りとして表現されます。自分に対する怒りの表現形としては、自分の身体を傷つける自傷行為、身体化と呼ばれる様々な身体症状、うつや不安などの精神症状があります。子どものうつについては、のちほどこの連載で取り上げる予定です。
 ほめる子育てのお話でしたが、今回は反面教師のようになってしまいました。次回は、ほめる子育てと、その実際についてお話します。 

:編集部より:
当基金では1996年1月に、会員の皆様のための小児医療相談「JOMF-キッズネット」を開設、東京大学医学部小児科教室のご協力により、医師(有志数名)のボランティア活動として、スタートしました。相談の手段は当時は国際電話のみで後にインターネット掲示板も始まりました(詳細はホームページ会員専用メニューをご覧ください)。
相談担当医の一人である広瀬宏之先生より、特に「子育て」をテーマに1年にわたって連載をしていただくことになりました。先生からは読後の感想、意見、質問などをお受けしたいとのご希望です。どうぞwebmaster@jomf.or.jp 宛にメールでお送りください。
昨年、担当医のリレーエッセイとして掲載した「小児医療の現場から」シリーズは下記の索引コーナーでまとめて読むことができます。

http://www.jomf.or.jp/jyouhou/jigyou_iryou2/jigyou_iryou2_4.html#o