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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(44)「海外赴任者のストレス~シンガポールで暮らす子供たち1」
NL06080102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~シンガポールで暮らす子供たち1

シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

<子供たちと夏休み>
日本人小学校・中学校に通う子供たちにとっては、今は、夏休みのシーズンである。この時期になると、子供たちは「夏休みは、一時帰国するんだあ!」「僕は、明日から一時帰国だよ。」と情報交換。お父さんまでも、「家族は、今、一時帰国中なんですよ。夕飯を一緒にどうですか?」と誘い合う。「一時帰国」という言葉は、シンガポール生活で、「夏休み」を連想させる一つの季語のようなものである。

アメリカ駐在をしていた方に伺うと、地理的に遠いなど条件の違いから、頻繁な一時帰国は行わず、現地で楽しめる家族旅行などをして過ごしていた方が多いようである。
この様に、駐在地や条件によって、時間の過ごし方が大きく異なる。こういった違いは、子供たちの成長に少なからず影響を及ぼしていると考えられる。

今後、数回にわたり、シンガポールで生活する子供たちの実像をお伝えしたい。おそらく、これは、南アジアに駐在する家族像の一つであろう。この環境が、子供の成長発達にどのような影響を与えているのかも、考えてみたい。

<0歳から1歳半まで>
この時期は、子供たちは、完全に保護者の庇護の下に置かれる。父親が、海外出張・接待などで多忙にしている場合には、母と子供だけで、この1年半を乗り越えなくてはならない。特に、海外赴任となったばかりで、母親に友人が多くない場合や、子供が長子である場合には、母子だけで、24時間365日向き合う格好になってしまい、「母親」にとって、非常に難しい時期である。

子供は、多くの時間を、眠って過ごしている。外に連れ出しても、暑いベビーカーの中で眠ってしまうことが多く、お母さんの都合で、連れ出すことは、控えられる傾向にある。この生活の支えになるのは、夫や日本の両親・親戚といった、ごく身近な家族である。日常的な電話連絡・子供を撮影したビデオのやり取りなど方法はさまざま。日本から遊びに来てもらったり、母子で一時帰国したり、遠く離れた親類を上手に頼ることも大切である。

子育てに上手に参加するお父さんも少なくない。職場と住居が近いため、昼休み時に帰宅したり、夕食時に戻って、子供の顔を見てから、再度出社したりという話を聞いたこともある。子供の急な発熱や嘔吐など、緊急事態には、お父さんが職場を抜け出し、病院への送迎などを手伝うことが可能である。現地企業もこういった「家族の急変に父親が参加すること」に対して、容認している場合が多い。通勤時間の長い地域では、考えられない形態だ。こういったシンガポールの環境が、乳児を育てるにあたって、家族の一体感を生むようであれば、非常に好ましい育児がなされるであろう。

例:第1子を日本で出産し、第2子をシンガポールで出産した、33歳女性
「シンガポールでは、親の援助がすぐに得られなくて大変ですが、夫が見違えるほど、よく面倒を見てくれています。お姉ちゃんの時は、オムツ替えはしたことがなかった夫。ところが今は、赤ちゃんの夜の授乳を担当し、毎晩添い寝をしてくれています。私が、食事の支度で、台所にいても、夫と子供二人で、なにやら楽しそうに遊んでいる声が聞こえてくるので、幸せです。」

一部には、父親が非常に多忙で、短時間でも育児を担うことが困難な家庭がある。最も難しいのは、父親が長期海外出張でシンガポールに不在がちなケースと父親が近隣のインドネシアなどに勤務していて、週末でないと戻ってこないケースである。母親は24時間、子供から目を離せない。「自分が病気をしても、誰も頼る人がいない緊張感」が、数年の間続くことは、決して容易ではない。この様な場合には、週に2~3回、半日ずつのお手伝いさんを雇うケースがある。この間に、昼寝中の子供を置いて、母親自身の通院を行ったり、赤ちゃん連れでは出来ない買い物をしたり、美容院に行ったり、母親が自分のために時間を使える唯一の時である。こういったサポートを、上手に使いこなす事が、母親のリフレッシュに繋がり、育児の負担、特に精神的負担を減少させる。

子供が1歳になる頃、子供の活動や興味の広がりに合わせ、母親達は、子供を安全に遊ばせる空間や同じ年頃の子供たちと交流させる機会を求めたくなる。妊産婦時代の友人やコンドミニアムの日本人同士の中で、月に一度~二度、お母さんと子供で集まって遊ばせる、「育児の小グループ」が自然発生する。このグループに上手に加われたお母さんは、この後の子育ての苦労が随分と軽くなるようである。自分の家に友人を招待したり、自分が招かれたりする中で、「適度な友人関係を作り出す能力」が、必要とされる。

<1歳半からの4歳まで>
当地では、1歳半から子供を受け入れる「Nursery school」がある。日本で言えば、私設の保育園に当たる。朝9時から午後3時半くらいまで子供を預かってくれ、休日と祝日以外、年中無休である。

家庭の教育方針にもよるが、お母さんが体調不良であったり、子供が第3子で育児の手が回りきらなかったりする場合には、1歳半の時点から、こういった園を利用するようである。予算は、まちまちで、平均的には月額800シンガポールドル程度(5万~6万円)である。幼児の教育に対して、選択肢が非常に多いのもシンガポールの特徴である。母親が仕事をしていないのに、1歳半で子供を園に預けることには、賛否両論あるであろう。この件で、夫婦の意見が合わなかったり、お姑さんから釘を刺されたりしている家族もある。心療内科医として、私は、「賛成」である。

母親という養育者は、子供にとって、本当にかけがえのないものである。母親が、自分の存在を「喜び」として受け入れてくれるのか、子供は無意識に感じる能力がある。一方の母親は、「24時間母性に満ち溢れている」わけではない。子供と、数時間離れていることで、子供が園から戻った後に、十分な愛情を注げるのであれば、こういったスタイルを選択する勇気も必要である。
次回は、シンガポールの幼児教育についてまとめてみたい。