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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(43)「 海外赴任者のストレス~人格障害と海外赴任(6)自己愛性人格障害;海外の困ったナルシスト」
NL06070102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~人格障害と海外赴任(6)~自己愛性人格障害;海外の困ったナルシスト

シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

「ナルシスト」という言葉は、随分と、一般的に使われるようになりました。自分の才能やアイデア、学歴の素晴らしさに自信過剰で、うぬぼれ屋の人を指します。日常の会話の中では、「気取り屋で、恰好をつけたがる人」を意味することもあります。
「自分を認める気持ち」「自分を大切に思う気持ち」は、すべての人にあるものですが、それが過剰になると、周囲の人との感覚に温度差が生じ、「周りから浮いた人」になってしまうのです。

シンガポールでは、日本人に対する国民感情が友好的で、日常生活から不快感を感じることは多くありません。さらに、海外駐在員として赴任した場合には、環境のよい住居を提供されたり、一般の国民よりも高い給与を保障されたり、インターナショナルスクールに子息を通わせたり、会社の庇護の元、自己愛を満たしやすい環境を得やすいようです。この様な環境の中でも、どうしても自己愛が満たされず、不適応を生じて典型的なケースを示してみます。

1.周囲の日本人同士の人間関係で生じる自己愛の傷つき

Bさん(40歳 女性)は、1年半前に夫の赴任に伴い来星しました。海外留学経験をもつ高学歴のBさんは、英語には全く困りません。3カ月先に来星していた夫が決めた、日本人が多く居住するマンションで、子供(10歳)と3人の生活が始まりました。当初は、子供をインターナショナルスクールに馴染ませようと、得意の語学を駆使して学校に日参していたBさんでした。それも、3カ月が過ぎたころより、子供自身が学校生活に慣れ、母の援助を多くは必要としなくなってきていました。

つぎは、Bさん自身が、周囲に溶け込み、友人を作る番です。ところが、Bさんは、「外国に来ても日本人同士で群れているなんて、私には合わないわ。」と思っていました。近所の人に「英語が上手ね。どうしてそんなに話せるの?」と聞かれる度に、Bさんは「勉強をしたからに決まっているでしょう。どうして、全員が同じ質問をしてくるの?」と、とても不愉快で、イライラしていました。

「自分は特別で、他の人と一緒にされたくない。」という強い思いが、周囲の人にも自然と伝わり、他の人の輪に、上手に加われません。自分が出している「特別オーラ」が周囲の人を遠ざけているのに、Bさんには、周囲から疎外されていると感じられ、シンガポール生活が大変な苦痛になりはじめました。

2.海外で自分のキャリアを伸ばしたい;自分の思いと現実の間で揺れる自己愛

Cさん(30歳後半 男性)は、オーストラリアの大学を卒業し、その後、台湾で生活した経験をもち、英語・中国語ともに会話には困りません。日本で就職し、前職には5年間勤務していましたが、色々とトラブルがあり、転職を決意しました。Cさんには、「自分は絶対にアジアで成功する」という自信がありました。

日本の人材派遣会社から「シンガポールで、あなたの語学を生かせる仕事がある。この会社では、マーケットの拡大に伴い、日本人スタッフを急募している。」という話を聞かされたCさん。この時、「自分のことを高く買ってくれる会社で、存分に力を発揮したい」というCさんの自己愛は満たされました。ところが、実際に職務に着いてみると、事務仕事もあれば、些細な交渉事も含め、日本に関する仕事はすべて自分に回ってくることに気づきました。

Cさんは、来星4カ月で、シンガポールの自分の現状にひどく落胆し、「こんな会社を紹介した人材派遣会社が悪い」と、強い不満を抱く様になりました。Cさんは、現在、アジアでの転職を模索中です。


この2例は、シンガポールで経験される典型的なトラブルです。自己愛の傷つきに、自らが気づかなければ、場所を変え、条件を変えても、必ず同じパターンのトラブルを引き起こします。転職を繰り返したり、対人的なトラブルを繰り返したり、「なかなか満足した環境を得られない」場合には、ご本人も家族も、周囲の人も、「この人の自己愛は、傷つきやすいタイプかな?」と、客観的に考えてみる必要があるでしょう。