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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(40)「 海外赴任者のストレス~人格障害と海外赴任(3) 依存性の強い駐在員妻:依存性人格障害 」
NL06040102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~人格障害と海外赴任(2) 
依存性の強い駐在員妻:依存性人格障害


シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

「依存性人格障害」という名前は、一般にあまり知られていません。一体、どの様な病態なのか、まずは知って頂きたいと思います。

皆さんの知人・親戚に、「非常に辛抱強く、非常に我慢の良い人」はいませんか?例えば、ワンマンで我がままな社長さんに付き従い、時には、周囲で聞いていて、「あれは言葉の暴力じゃない?」という発言を受けても、反発・反論を多くしないで、ジッと耐えている人。別の例では、気分屋で、短気で、何でも家族のせいにして、文句の多いご主人に、あまり反論せず、そばで暮らし続ける奥さん。

このような人の中に、依存性人格障害と診断がつく人たちが散見されます。「私だったらそこまで言われたら、絶対に我慢しない!」と、多くの人が感じる状態でも、「そこで、反論したら、今のこの生活ですら失うことになり、生活の拠り所をなくしてしまう」という恐怖を強く感じ、相手に意見を言ったり反発したり、あるいは、相手のそばから離れてゆくことが出来ないのです。

夫から渡される月の生活費は、$500(3万2千円)。この中で、長年、自分(一人)の食費・被服費・交通費・交際費をねん出し、生活してきている奥さんがいらっしゃいました。シンガポールは、日本に比べて物価が安いとはいえ、かなり苦しいやりくりです。夫は長期国外出張・接待などが多く、安全とはいえ一人で海外生活するに当たり、「何かの時に、支払う現金がない不安感が常にある」とおっしゃっていました。

診察で、「それは不安が伴いますね。」と患者さんを応援する発言をしたところ、「でも、夫に任せておけば大丈夫です。私は、何とかなりますから・・・自分の昔の貯金もあるし・・」「夫の言うとおりにしていれば、今までの人生、上手く行ってきましたから。」と急に、ご主人立場を弁護するお話になってしまいました。

辛い仕打ちや、理不尽な指示であっても、自分の生活に責任をとってくれる相手に『依存』して生活することを必要としています。喧嘩や口論をして、相手と自分の精神的距離が、一時的にでも離れてしまうことが、耐えられない不安となってしまいます。
自分が強く主張する自信も、自分が強く主張したいという気力がないことも特徴です。

ご主人の海外出張中に、あるいは、出勤中に必ずパニック発作を起こしてしまう奥さんもいました。今までの海外赴任には、子供さん(一人息子)が常に同行し、『子供の世話』=『自分の集中すべき依存対象』でしたが、息子さんも大学生になり、今回はご夫婦のみでの海外赴任となりました。

来星当初は、一人で買い物に出ると、めまい・呼吸困難になってしまいそうな不安があり、全く外出できませんでした。その後、徐々に「誰かが誘ってくれて、予定があれば外出できるが、予定がないとほとんど外出できない」という状態が長く続いています。

時には、習い事の先生や強力な指導力のある友人を見つけて、その人が誘ってくれるままに、団体行動に入る糸口を見つけられる方もあります。しかし、こんなこともありました。

自分をどんどん誘い出してくれる友人に出会い、一瞬は、非常にはつらつと外出できるようになったのですが・・・。シンガポールは生活範囲が狭く、行動や時には発言までもが、筒抜けです。
「○○さんが△△と言っていたわよ。」と、陰で言われてしまうので、依存性の強い人は大変です。行動も会話の内容・人の評価も、依存対象の人と「大きくずれては大変・・・」と、無意識に気を遣うので、時には本当にそうは思っていないのに、他人を批判・非難しなくてはならなくなってしまいます。

いつの間にか、「シンガポールの自分は、本当の自分とかけ離れている」と感じてしまうほどです。こんな状態は、長続きしません。結局は、依存性の高い人が精神的に疲労し、パニックや精神的混乱・抑うつ状態に陥ってしまうことも少なくありません。

シンガポールの心療内科の外来では、依存性障害と診断される男性の受診は、この6年間ありませんでした。全体の発病率も、女性に多いと言われていますし、企業に属し、一定期間勤務して、海外赴任の辞令を受ける方々は、ある程度篩にかけられているということでしょう。