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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(39)「 海外赴任者のストレス~人格障害と海外赴任(2) 境界性人格障害の夫 」
NL06030102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~人格障害と海外赴任(2) 境界性人格障害の夫


シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

前回の続き。今回は、ご主人が境界性人格障害の場合です。

境界性人格障害」は、当初、海外生活に適応するために、職場では周囲の話題に合わせ、陽気に振舞っています。ところが、その反動で、家に帰ると、些細なことで激しく怒りを露わにするようです。

奥さんの出費が少々かさむと、「お前は、どうゆうつもりだ!」「俺の金を何だと思っている!」「遊んで暮らして、いい身分だ!」などその怒りは留まるところを知りません。

怒りはじめるきっかけは、何でもいいようです。お金だったり、相手の言葉遣いだったり、態度だったり、「自分が見下されている?」「軽く見られている?」「馬鹿にされている?」と、本人が感じてしまったときに始まります。

この、「本人が感じてしまった」という部分が重要で、いくら相手が「そういう意味じゃないのよ・・・」と訂正・追加を加えても、本人がそう感じてしまったら、怒りを抑えることは出来ないのです。ここが、普通の喧嘩と違って、厄介なところです。

怒りの爆発が、あまりにも著しいので、周囲が恐怖を覚えるほどです。周りが、相手に気を遣って、「今度は怒られない様に・・」様子を見ながら生活することになりますが、きっかけは『何でもいい』というところも、またまた問題です。
一つのことに気をつけても、他の些細なことでまたまた、大きくもめてしまいます。

「さっきまで、普通に暮らしていたのに、そこまで怒らなくても・・」という怒り方も特徴です。

例えば、家族でドライブに行って、助手席に乗った奥さんが、地図を少々見間違え、道を一本手前で曲がってしまいました。すると、ご主人の怒りに急に火がつきます。

「そんなことも分からないのか?」
「どういう頭している。」
「ちょっとでも遅刻したら、お前のせいだ!」

ハンドルを叩く、急に運転が荒くなる、急停車して地図を奪い取る。

家族にしてみたら、「どうして、『ちょっと迷ってしまったね。車を止めるから、地図を見せて。』と、穏やかに問題解決にならないのか・・」不思議でなりません。
ご主人の怒りのせいで、道にはどんどん迷い込み、時間はどんどん過ぎていってしまうのです。

あなたの周囲に、こんな人は居ませんか?
そばにいると、周りの人に、物凄く気を遣わせます。


海外の職場では、この人格傾向が顕在化する場合と潜在化する場合があります。

問題が軽くなる場合:
まずは、英語でのコミュニケーションのため、言語的に深い意味合い・ニュアンスが読み取りにくく、職場でのトラブルが回避される傾向にあります。「それ、どういう意味?」と爆発的に反応することが出来ないことで上手くゆきます。

また、自分の意思をはっきりと相手に伝える文化の中では、「Yes」「No」をはっきり言い、自分の妥協できないところ・許せないところを表面化させて付き合います。部下と言えども、自分の意見をはっきり言ってくるので、論理的に戦わなければなりません。

シンガポールでは、地元雇用者の転職率が高いことも一つの特徴です。地元雇用者は、「上司・職場が合わなければ」、数カ月~1年の勤務でも我慢はせず、どんどん転職してゆく傾向にあります。最終的に、境界性の人に上手にあわせることが出来る部下が残ってくることも予想できます。

シンガポールでの勤務には、周辺諸国への頻繁な出張などが伴うことが多く、時には、月の半分以上をシンガポール国外で過ごしている赴任者もいます。このように、仕事場が固定されないこと・スケジュールを自己で管理できること・家族との接触が濃厚になりすぎないことなども、感情的衝突や爆発を避ける助けになります。

海外出張に出たときに、遊興・飲酒など自分の楽しみを存分にできる可能性があることも、シンガポール内での衝突を避ける因子になるかもしれません。

もちろん、海外赴任を命じられる赴任者は、選任の時に一定のバイアスが掛かり、重度の境界性傾向を持つ赴任者は非常に少ないように思います。境界性の傾向があっても、このように適応を助ける因子にもなる可能性があります。

問題が顕在化する場合:
日本人2~3名のみの小規模な事業所では、トラブルが生じやすい素地があります。後から来星した後輩や部下に、激しい怒りの爆発やこき下ろしが向けられると、部下が体調不良を起こしてしまうのです。