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ニュースレター(機関紙)

小児医療の現場から(5)~慢性疾患の子どもたちと~ 
NL06020103
小児科

慢性疾患の子どもたちと


東京西徳洲会病院 小児難病センター
小林 美由紀

毎年年明けになると、小児科の外来は体調をくずした子どもたちであふれかえります。少子化と騒がれる中で、どうしてこんなに病気の子どもたちがいるのだろうと思うくらいです。

冬場に流行するインフルエンザや嘔吐下痢症だけでなく、最近は、夏場にはやる咽頭結膜熱や水痘もまぎれこんでくるので、冬の小児科は大はやりとなるのです。ほとんどが所謂「風邪」の類の急性疾患で、自分の免疫力で自然に治ってくるので、薬で治すというよりは、本人の治癒力を助ける療養指導をしていると言っても良いのかもしれません。

こうした急性疾患のあいまに、似たような症状で発症して、ときに慢性疾患が紛れ込んできます。悪性腫瘍や糖尿病、心疾患など、成人では日頃の生活習慣の影響が徐々に現われて疾患となることが多いのですが、小児の場合は、ある日突然症状が出て、びっくりすることがあります。

私が専門としている血液腫瘍疾患でも、小児ではほとんどが急性に発症し、なんだか体がだるい、熱がなかなか下がらないといった症状で外来を訪れ、血液検査をして、「すぐ入院してください。」と言われてしまうということがほとんどです。

まさに、晴天の霹靂という状態で、頭が真っ白になるのも無理はありません。大概の方は、すぐに病気の話や治療の話を聞いても、ほとんど上の空で、頭に残っていないということもよくあるので、何回かお話をする機会が必要です。

これから続く長期にわたる入院生活や付き添いのこと、他の兄弟の世話をどうするか、学校生活はどうなるのかなど、途方にくれることばかりです。そんなとき、日本では「小児慢性特定疾患」の制度があって、健康保険の自己負担分も公費でまかなえますよとお話すると、皆さんほっとした顔をされます。

実際は差額ベッド代や保険のきかない薬剤の費用や、子どもの看護のつきそいに伴う費用のもろもろがかかってくるので、出費が全くなくなるわけではありません。それでもご家族がほっとされる表情をされるのは、突然の病に見舞われた子どもたちのことを考えてくれている、せめてもの制度が日本にあるということで救われた気持ちになるのかもしれません。

この制度は、悪性腫瘍だけでなく、糖尿病、慢性腎疾患、先天性心疾患、喘息、膠原病などにも適応されています。日本に住民登録のない海外の方には適応されず、いざ治療しようとすると、費用の面からも心配しなければならず、病気の話のほかに経済的な話をしなければならない時は本当に切ない気持ちになります。ただ、この制度も病気になったら自動的に受けられるわけではなく、どうやったらその制度の恩恵を受けられるか知らない方も多いようです。

日本の社会福祉制度は、障害者年金や育児手当など十分とは言えないまでもそれなりに整えられてあるのですが、利用者が知らなければ恩恵を受けられない、また面倒な手続きを根気強く申請しなければ受けられない制度です。病気になったら自動的にそうした社会福祉制度が受けられるようになると、家族はどんなに救われるかと思ったりします。

昨年の春より、小児の慢性特定疾患の自己負担が導入され、さらに他の医療費の自己負担の増額が議論されていますが、突然の発病に経済的負担が追い打ちをかけるといった「泣きっ面に蜂」のような医療改革は進められないようにと祈るばかりです。

前回の岡本先生のエッセイにありましたように、最近の小児科の診療室は都心でなくても、どんどん国際化しています。

海外の方への説明は通常より時間が必要なことも多いのですが、これは、最初は欧米人の方が、納得いくまで説明を要求するからかと思っていたのですが、実際は、お隣の韓国や中国の方々も、言葉が十分でなくても、病気の治療方針を決めるにあたって、自分たちの考えをきちんと伝えようとする姿勢があるからだとわかってきました。

私の専門とする白血病などの悪性腫瘍の病気の説明では、1回に1時間以上かけてお話しますが、一通りの説明を終えて何か質問はありませんかと尋ねると、日本人では「先生にお任せします。」という答えが返ってくることがしばしばありますが、日本人以外でこの言葉を言う方にはめったに会いません。

日本語が十分理解できなかったところがあったとしても、自分達は子どもの治療をこうして欲しいと思っているがどうしてこの治療が良いのかというふうに、はっきりと聞いてきて、納得しようとする方が多いのです。

以前、中国出身のお子さんにお兄さんの骨髄提供者になることをお願いしたとき、どうしてその治療が必要か、また健康な子どもの安全を守るためにどのような配慮をするか、何日にもわたって説明をし、納得いただいたことがありました。

ところが、そのお子さんが骨髄提供のために入院され、翌日の全身麻酔についての説明をしていた麻酔科の先生から、突然連絡があり、「お母さんが、提供者のお子さんの、明日の麻酔は受けたくないと言っているのだけどどうしたら良いか?」と尋ねられたことがありました。

骨髄移植の説明は何度も行っており、お兄さんはすでに全身に放射線をあてられて、無菌室に入っており、骨髄移植をしなければならない状態であることは良く知っているはずなのにどうしてなのだろうといぶかしく思ってお母様に尋ねたところ、

「麻酔科の先生は、全身麻酔のリスクをあれもこれもあげて、それで、同意書に署名してほしいというのは、納得いかない。患者や家族は、処置の前日で不安になっているのが当然であり、その不安に対する配慮もなく、署名がなければ麻酔をしないというのはおかしい。」と言われました。

まさに、当然のことで、本来患者さんが受ける医療行為をわかりやすく説明し、安心して納得していただくためのインフォームドコンセントを単に患者さんの同意書をとるための場と心得違いしている医療者が時にいたりすることを鋭く指摘されたのです。


日本語で「あうんの呼吸」と言われる医療者と家族の間の言葉にできないお互いの思いを汲んだ医療というのがありましたが、医療が高度になるに従って、同意書をいくつもとって、それでよしという風潮が出てきていないかということが不安です。

国や言葉が違っても、病気の子どもをかかえる親の不安にかわりはありません。医療行為にリスクがつきものなのは当然だとしても、そのリスクに対して、医療者側がどのような予防と準備をしているかを説明して、不安を取り除いてから同意書をとるべきではないかと、担当の麻酔科医をこんこんと諭したお母さんは実に立派だったと思いました。

反対に、日本人が海外で診療を受けるときのコミュニケーションはどうでしょうか?

欧米では、ホームドクター制度というかかりつけ医をあらかじめ決めておくという制度がありますが、初めて海外赴任して経験した方ではとまどった方もいるのではないでしょうか? 

オーストラリアに赴任された方からの電話相談で、耳鼻科の疾患にかかったので、耳鼻科の先生に診てもらいたいのだけど、ホームドクターがなかなか紹介状を書いてくれないので、どうしたら良いかという相談がありました。オーストラリアでは、救急車を呼ぶのも有料だったりと、医療機関へのかかり方が患者サイドでなかなか決めづらいシステムになっています。

自由に医療機関を選べて、病院をいくつも受診することも可能な日本から見ると随分不自由な感じもします。ただ、長くホームドクターとおつきあいすると、家族全体の健康状態を理解してくれて、入院が必要になったときも病院まで出向いてくれるという良さもあります。

日本のように、症状が良くならないからと何軒も病院を替えて、薬や検査を二重にやるという無駄はなくなります。
日本の小児科の外来では、ただの「風邪」と思っても、診察だけをして薬を出さないと、あの病院は「風邪薬」も出してくれなかったと風評を立てられて患者さんが来なくなることを恐れてか、処方を全くしない診療をすることをためらう小児科医が多いように思えますが、解熱剤にしろ、鎮咳剤、止痢剤にしろ、本当に必要かどうか疑問の薬もたくさんあります。

これが顔見知りのホームドクターに「風邪」のときの家庭でのケアの仕方の指導を受ければ、薬の処方が全くなくても納得して帰れるのではないでしょうか? そうすると、冒頭の小児科の外来で「風邪」の子どもたちであふれることも少なくなるかもしれません。
そうして実際に本当に診療時間が必要な慢性疾患や心理相談に十分な時間をかけることができるようになるかもしれません。

以前、私が訪問したスウエーデンの病院では、慢性疾患の外来診療では忙しいと言いながらも、1人の患者さんにつき、1時間近くの時間をかけて診察したりお話したりしていました。しかも、この外来は応接室のような広々と空間で、親子で腰をおろして主治医と話をするという実にうらやましい診療でした。

日本では、大勢の患者さんを次から次へ診なければならない忙しそうな担当医に、つい聞きたいことも聞きそびれてしまったという人も多いのではないのでしょうか? 医療スタッフとのコミュニケーションは、言葉の問題だけでなく、こうしたゆとりのある時間もお互い大切ではないかと思います。

そうして、思いがけない病気を越えて、成長していく子どもの姿を眺めることができるのは、小児科医の醍醐味とも言えるかなと思ったりしています。




編集部より:このシリーズは今回で最終回となります。執筆いただいた先生方による掲示板や電話での相談はこれからも続きます。実際に相談をご利用になった方には担当医が身近に感じられたのではないでしょうか。

海外小児医療相談[キッズネット]についての詳しい説明はhttp://www.jomf.or.jp/iryou_soudan.html
をご覧ください。

「小児医療の現場から」は下記の索引コーナーでまとめて読むことができます。
http://www.jomf.or.jp/jyouhou/jigyou_iryou2/jigyou_iryou2_4.html#o