• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(38)「 海外赴任者のストレス~人格障害と海外赴任(1) 」
NL06020102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~人格障害と海外赴任(1)


シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

最近、外来受診者の中で「夫婦関係の相談」が徐々に増えてきています。初回は、奥さんか旦那さんのどちらかが受診し、数回受診が続き、最終的には、ご夫婦で受診してもらうことも少なくありません。

外来経験から、海外で問題を抱えやすい夫婦関係には特徴がある様に感じられます。今後、数回にわたっては、人格の特徴と海外赴任の問題点について考えてゆきたいと思います。

境界性人格障害の妻:
 「自分の意見を譲れない妻」
 「白黒はっきりつけたい妻」


Aさんが心療内科の外来を受診しようと思ったのは、自分の体調相談ではなく、「ご主人の相談」でした。Aさんの悩みはこのような内容です。

シンガポールに赴任してから、数年来、夫と上手く話し合えないのです。主人は、私が『これだけは理解して欲しい』という大事なことでも、聴こうとしないので、こちらも、つい、感情的になって、喧嘩になってしまうのです。

何か大事なことを話し合うと、喧嘩になり、その後、数日から数週間、長いときには数ヶ月冷戦状態が続きます。この間は、お互い会話をせず、関わらずに生活しています。
実は、ここ数年は、このような生活の繰り返しです。やっと、仲直りをしても、私が、つい、溜まっていた「理解して欲しい大事なこと」をぶつけると、また、冷戦状態に再突入です。

現在では、些細な話でも夫は「また、始まった・・」という感じで、とりつく島もありません。夫が、こんなにイライラするのは、夫が精神的に参っているからではないのでしょうか?

海外生活で支えあうべき伴侶とコミュニケーションが取れない状態が、数年間続いているAさんの悩みは深刻です。ところが、Aさんの問い質し方にも、問題がありました。

1:正論で責める。「この件に関しては、私は間違っていない。あなたが100%悪い。どうして、分からないの?」

2:完璧にわかって欲しい。相手が100%反省し、態度が完全に変わるまで許さない。

3:許せない。「約束事」をしたのだから、チョッとした失敗もしないで欲しい。

4:待てない。反省したのだから、その直後から相手の態度が変わって欲しい。


あるご主人の言い分を聞いてみてください。

妻からの要求を僕が10歩譲って、理解し、聞いてあげると、『次の大事なこと』が要求されてくるのです。約束したら、絶対にそれは守らなくてはなりませんし・・・下手な約束をすると、「あの時、○○といったでしょ!」と、喧嘩のネタを増やすだけなんです。だから、聞き流したり・無視したりしていないと、僕が譲り続けないといけなくなってしまいます。妻を、無視して生活してきて、ここ1年は楽でした。衝突しない方がいいようです。

海外、特にシンガポールのように、狭い日本人社会で生活するには、この「竹を割ったような白黒はっきりさせる性格」を、人前ではかなり妥協して振舞わなくてはなりません。そうしないと、すぐに衝突し、子供までも含めて孤立状態になってしまうからです。

だから、その分の『正義感・正論のパワー』を家族にぶつけてしまう奥さんが多いようです。当地赴任者には、幼少から学童期の子供を抱え、子育て・教育など家族として大事な問題を抱える時期の方々が多くいらっしゃいます。
「家族の転換期」に、自分の信念を理解しようとない夫・自分の努力や期待通りに動かない子供、特に長子に、怒りの矛先が向いてしまうことが多いようです。

ある時「冷静に考えると、夫は子育てにもよく協力してくれています。だけど、肝心なところで失敗する。その失敗を私が許せないんです。」と自分を分析する奥さんがいました。

境界性人格障害の傾向がある奥さんの長期の海外赴任は、かなりの配慮が必要です。問題が、潜在化し、家族にかなりの負担が掛かっている可能性があります。日本であれば、両親・親戚・兄弟などに分散される攻撃性が、単一の家族のみに向けられるリスクを忘れてはならないようです。

次回は、境界性人格障害のご主人について考えてみたいと思います。