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ニュースレター(機関紙)

小児医療の現場から(4)~言葉の壁と心の壁~
NL06010103
小児科

言葉の壁と心の壁


瑞江大橋こども診療所院長
岡本 曉

私たちのグループは、海外にお住まいの日本人の方々がお子さんの成長や健康に関することでお困りのときに問題解決のお手伝いをしています。一種のボランティア活動です。

方法は三つで、一つは電話による直接のご相談、もう一つはインターネットを利用した掲示板形式のご相談です。第三は全員ではありませんが、JOMFが毎年行っている海外巡回健康相談などに参加しての現地相談です。すでにこのシリーズに登場した鈴木と榊原が参加しています。

世界中のいろいろな地域から様々なご相談をお受けしていますが、中でも現地の医療に対するとまどいについてのご相談が多いように思われます。

外国ですから当然現地の医者とは外国語でコミュニケーションを図ります。この場合、日本人が受診する医療機関などでは現地の言葉よりむしろ世界共通語である英語やフランス語などが多く使われると思います。

英語やフランス語が母国語の医者はいいですが、そうでないと患者も医者もお互いに外国語を使ってコミュニケーションをとることも多くなるわけです。

日本語で聞いても十分に理解できないような医学的な問題を外国語(自国語ではない)を話す外国の医者に説明されても訳がわからず、よけい不安になってしまうというようなことも多いように見受けられます。まず突き当たるのが言葉の壁ではないでしょうか。

さらに、言葉での意思疎通が不十分なままで医療(治療法や予防接種など)の意志決定を迫られるものですから、とまどいが益々増幅されてしまい、私たちへの相談を利用なさるという方も多いのではないかと思われます。

しかし一方で、「もう少し現地の医者とつっこんだ話し合いをなさったほうがよろしいのでは…?」と申し上げたくなるケースもあります。「それができないから相談してるんじゃないか!」とお叱りを受けるかもしれませんが、それに関しては、平成16年の掲示板相談にアメリカ在住の日本人医師の方が大変示唆深い回答をお寄せくださっています。お子さんの目の手術に関するご相談への回答なのですが、以下にその一部を引用させていただきます。

「セカンドオピニオンもいいと思いますが、文面からするとファーストオピニオンさえもよくコミュニケーションが取れていないように思えてなりません。

私のお薦めとしては、まずその診て貰った眼科医に自分達の積極的な希望を言うべきだと思いますし、それに対するその医師の意見を聞いてみるべきと思います。

そしてもし手術をするのなら、時間的にどれくらい掛かり、術後は何を気をつけ、どのように経過を見ればいいのか、元に戻る確率は、これらを最初の医師に聞かなければセカンドオピニオンの意味も無く、また一方的なファーストオピニオンになってしまうだけのような気がします。

日本人の患者さんによくあるケースは、最初の段階で医師と十分に納得のいくまで話がなされていないことがあります。その理由として英語の問題と、日本での医師には質問してはいけないとかいう習慣があると思いますが、アメリカの医者は説明は聞きさえすればしっかりしてくれます。是非通訳をつけてでもしっかり最初の眼科医に聞きたいことを全て聞くことだと思います。

そのために予習として質問を紙に書いていく必要があり、そして当日通訳の方にそれを見せて回答を必ず貰ってください。それでも納得できない時にセカンドオピニオンの意味が出てきます。」


私たちは日本に住む医者としては海外の事情に詳しいほうかもしれませんが、やはり現地のことは現地の医者が一番詳しいし、アメリカに限らず外国の医者は患者さんからの質問攻めに慣れています。

上記の回答にもあるように、日本ではなかなか医者に質問がしづらいという風潮は今でもかなり残っているようですが、せっかく日本を離れたのですから、この呪縛から解き放たれて、得心のゆくまで質問をなさる努力も大切ではないでしょうか。

また、「通訳をつけてでも」というのは、現地に適切な人材がいないとか、経済的な負担があるとか、思うに任せぬ部分はあるかもしれませんが、「通訳をつけてでも訊きたいことはしっかり訊く」という態度(むしろ決意?)も必要ではないでしょうか。

そうやって現地の担当医の意見(ファーストオピニオン)を十分に理解した上でさらに疑問の点をご相談いただければ、私たちのセカンドオピニオンも確かに意味のあるものになるでしょう。(通訳に関しては文末に個人的な思いつきを記しました)

ところで、私たちは国内で外国人の診療をする機会も少なくありません。私個人の経験では、10年ほど前まで勤務していた病院では来院する外国人とはほとんど英語でコミュニケーションをとっていました。英語圏ではない国の人たちも英語を話しました。

開業してからは地域の特性から日本人と結婚した外国人女性と日本語でコミュニケーションをとることがほとんどになりました。これらの経験から、日本人の医者にかかる外国人を観察した感想のようなものをお話ししてみたいと思います。

外国人の特徴を率直にしかも短絡的に言えば「外国人はわがままでしつこい」ということになります。これは以前私と一緒に働いていた若い医者が言った言葉ですが、実は私も同感です。でもこれは逆の見方をすれば「日本人は聞き分けがよくてあっさりしている」ということになります。そしてこれも実感です。

外国人に治療法を説明すると、「そういうとき自分の国ではこうするが日本ではやらないのか?」と質問されることは珍しくありません。ただ単に「やらない」とだけ答えると「なぜやらないのか?」と問いつめられることは目に見えていますから、適当な理由をつけて納得してもらいます。

あるとき、日本では法定伝染病だけれどその国では単なる感染症であるという病気の子がいました。「この病気にかかったら感染症専門の病院に入院しなければならず、そこでは家族の付き添いは認められない」と説明すると、まず「この病院(私が勤務していた病院)では治せないのか?」と訊かれました。そういう問題ではないのですが、いささかプライドが傷つけられました。

次に「家族が付き添えない病院なんか自分の国にはない」と言い張ります。結局「法律で定められたことに医者は逆らえない」という国会答弁みたいなことを理解してもらうことはできましたが、自分の説明を自分で聞いていて「ああ、自分は日本人なんだなあ」と実感しました。日本人同士ならたとえ相手が法定伝染病のことを知らなくても「法律で決まっているから…」でほとんど解決するでしょう。

もちろんお互いが母国語で話し合うことができれば、もう少し簡単に理解してもらえたかもしれないのですが、外国人に対する医療では、言葉の壁以前に心の壁とでも言えそうな歴史や文化に根付いた考え方の違いがあるように思えるのです。そしてそれは異なる心と心が接触したとき、極端にいえば衝突したときにわかることです。そのときに医者と親御さんがお互いに「ああ、この心の壁を乗り越えなければこの子の健康を守ることができないんだな」と理解し合えるような気がします。

「以心伝心」という言葉があります。日本人同士でさえなかなかそこまではいかないものなのですから、外国人との間に「以心伝心」というような関係を築き上げることは極めて困難なことだと思います。でも、言葉の壁に尻込みすることなく、言葉を以て心を伝える「以言伝心」の心構えを持つことは重要ではないでしょうか。そしてそのプロセスの中で心と心がぶつかったときに、心の壁を乗り越えて「以心伝心」の第一歩が始まるような気がします。

外国の医者たちが口を揃えて「日本人の患者はわがままでしつこい」と言うようになってもいいのではないでしょうか。私たちも「外国人はわがままでしつこい」とは言いながら、手を抜いたりごまかしたりすることなく、外国人に納得してもらえる医療を誠心誠意行っているのですから、外国の医者たちもきちんとつきあってくれると思います。親御さんたちのわがままやしつこさは、我が子の健康を願う親御さんの真心ゆえだということを、世界中の医者が共通して理解しているからです。

でもそうなったら、相談が減ってしまって、私たちはお役ご免になってしまうのかなあ?


<通訳についての単なる思いつき>
海外では民間の医療保険に加入なさる場合が多いと思いますが、保険の種類によっては、診断書などの文書料や通院のための交通費をカバーするものもあるようです。加入なさるときに通訳の費用もカバーするかどうか、「駄目でもともと」の気持ちで確認なさってはいかがでしょうか。
また、引用させていただいた回答医の方の病院では、通訳サービスを無料で提供することも可能のようですので、そのような病院がお近くにないかどうか探してみるのも一法かと思います。


編集部より:文中の相談アドバイスは、当基金ホームページ会員用メニューの中にある小児掲示板相談からの引用で、ミシガン大学医学部家庭医学科助教授 佐野潔先生による回答の一部です。佐野先生には今回のニュースレター掲載に関しご快諾いただき感謝申し上げます。