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ニュースレター(機関紙)

小児医療の現場から(3)~小児科場所~
NL05120103
小児科

小児科場所

鈴木こどもクリニック院長
鈴木 洋

<初日>

この原稿を執筆中、大相撲九州場所は朝青龍が7連覇をとげ、同時に琴欧州が大関昇進と久しぶりの華やかな話題で終わりました。朝青龍?琴欧州?とお思いのことでしょう。

この「小児医療の現場から」シリーズ、まず国立成育医療センターの広瀬先生が琴欧州のように未来の大関、横綱を目指す勢いで小児科と精神科の子どもの心に関する扱いの違いをするどい上手投げで書いています。次に小児科医の横綱にふさわしいお茶の水女子大教授の榊原先生がわかりやすく発達について安定感ある押し出しで書かれています。

ところが今回登場した私こと鈴木こどもクリニックの鈴木洋はかろうじて小児科医の幕内の末席で十両に落ちないよう日々死なない病気「かぜ」を診ながら内股や小股すくいなど裏技を駆使して多くのお母さん・子ども達と楽しく過ごしています。相撲をだしにした理由は国技館がある墨田区で開業しているのでついつい話題が相撲に行くのです。

約10年前、榊原先生の紹介でこの海外邦人医療基金を知りました。そしてこの基金の事業の一つである海外巡回健康相談に参加し、平成7年1月にインド5都市を訪問しました。その後毎年参加し今までに訪問した国26か国、54都市になります。そんな経験から東京は下町の小児科診療所から見える世界と皆さんが実際活動している広い世界を土俵の中に引き入れ行司よろしく「はっけよい、のこった、のこった」で行きましょう。
 
<呼び出し>

昔、妻の祖母(94歳)が入院していた老人病院での話。

私「おばあさんの状態いかがですか」
院長「年ですから特に変わりありません」

私「食欲は?」
院長「年ですからそこそこです」

私「最近検査しましたか」
院長「年ですから少しは悪い値があります」

私「何か治療していますか」
院長「年ですからすぐには良くなるわけでもありませんが」

私「年ですから仕方ありませんね」

このとき老人病院では「年ですから」はいろんな意味を含んでいることを知りました。「年ですから」ですべてが納得してしまうのです。

一方、墨田区は「鈴木こどもクリニック」でのお母さんとの会話。
私「どうしましたか?」
お母さん「昨夜から熱を出して」

私「食欲は?」
お母さん「少し落ちています」

私「他に症状は?」
お母さん「鼻水と咳が少し」

私「では診察しましょう」
お母さん「のどは赤いですか?」
私「のどはもともと赤いですよ。白いと貧血で大変な病気もあるんですよ」

お母さん「扁桃腺は腫れていますか」
私「この子はもともと扁桃腺は大きい子だから」

お母さん「どうですか?」
私「風邪でしょう」
お母さん「どうもありがとうございます」

「風邪」は病名であっても安心できる病名、それ以上深い話は必要ないのです。

子どもさんをお持ちの方はこのような場面を何度か経験されたかと思います。診療所の小児科はこのような患者さんがほとんどです。しかし、小児科医は話さない子ども、うまく表現できない子どもを多く診るため言葉以外の情報を出来るだけ多く得ようと体のすべての感覚系を働かせています。

小児科では年齢の区分はかなり細かく意識します。生後1か月以内の赤ちゃんであれば日令何日か、1歳以下であれば何か月か、入学前の幼児であれば何歳か、小学生であれば下級生か上級生かそして中学生と年齢と共におおざっぱになっていきます。その年齢をまず確認しないで職人小児科医は推測します。ほとんどが大体あたりますが間違った時はなぜか考えます。系統立てた発達チェックではない本能的発達チェックをしているのです。

子どもだけでなくお母さんの状態も診察対象です。健全な子どもは健全な家庭が必要だからです。

次に子どもとお母さんの関係です。いわゆる母子相互関係もチェックするのです。お母さんと子どもに一体感を感じるのかそうでないのか。一体感のない時にはどちらかに問題ありきと考えるのです。

そして子どもの全身状態です。病気は何であろうとやばいかやばくないかの感覚は非常に大切なのです。ゆっくり余裕を持って診察する時と緊張を高め迅速に事を運ばなければいけないかを即時に判断しなければいけないのです。それらの観察の結果が問題なければ「風邪」となるのです。時には金星のような病気のこともありますが。

<仕切り直し>

平成12年はパキスタン、バングラディシュ、ネパールを、翌年13年はオマーン、カタール、アラブ首長国連邦、イランと中東を海外巡回健康相談で訪問しました。この2年間の結果をまとめてみました。健康相談では子ども達を平成12年は162人、13年は214人をみました。合計376人の内、職人小児科医が相談にのった結果何らかの医療的問題のあった子ども達は実に105人に及びました。日本から既に喘息などの慢性の持病を持っている子ども、現地で何らかの病気になった子どもと様々です。

日本で生活していればあまりしないA型肝炎、B型肝炎、コレラ、腸チフス、狂犬病の予防接種をしている子ども達が延べ259人もいました。予防したいものは出来るだけ予防したいとの思いが強く出ているようです。

日本ではさほど気にしない症状も気になるようで痰の絡んだ咳、のどが痛い、皮膚がおかしい、下痢やおなかが痛い、イライラが気になるなど親の子どもの症状を必要以上に心配している状況があるようです。

そんな子どもの健康状態を心配しているため現地医療機関の受診経験をみると、約半数の子どもが受診しています。受診した医療機関の満足度はそんなに悪くないようですが、薬に対する抵抗感、医療に対する考え方の違い、衛生環境を心配と日本では考えないことでのご苦労はあるようです。

日本では「年ですから」「風邪です」の一言ですむことが海外では言葉、文化、環境の違いから不安が不安を呼ぶ一方、実際に医療が必要とされる病気が放置されていることが多々あるようです。

風邪は病気の入り口とでも言えますがすべてが風邪で終わることはありません。風邪の入り口から時には重大な病気への入り口が開いていることもあるのです。日本ではそれが気づかないうちに発見されることがあるのですが海外では入り口に至るまで行かないケースが時にあるようです。健康相談の医師にはその入り口に到達することがあります。私の経験では1回の巡回で2,3人の子ども達が親の気づかない病気の入り口に到達しています。

<水入り>

海外健康相談の会場として多くの日本人学校を訪問しました。

カルカッタ日本人学校補習校、デリー日本人学校、カラカス日本人学校、ジェッダ日本人学校、リヤド日本人学校、アンカラ日本人学校、アブダビ日本人学校、ドバイ日本人学校、カトマンズ日本人学校補習校、ダッカ日本人学校、モスクワ日本人学校、プラハ日本人学校、イスラマバード日本人学校、カラチ日本人学校、テヘラン日本人学校、広州日本人学校、天津日本人学校などです。

日本人学校の子ども達は実に生き生きしています。礼儀も正しく挨拶もきちんとします。学校内でのいじめもないようです。みんな国際人です。日本の未来を期待させる人材の宝庫です。少人数学級のためみんな協力し合い目的に向かっています。子ども達のせいか先生達も皆かっこよく見えます。子ども達を見ていると病気だけでなく全体を見ることの大切さを教えてくれます。まさに砂漠のオアシスです。

<ものいい>

相撲では中日を過ぎると今場所は勝ち越すのか負け越すのか考えるようです。古参の関取となると場所ごとよりも年ごとにさらに数年単位で自分の番付を考えるようです。

小児科医も同じことを考えます。直接は病気のことを考えるのですが、人の人生を病気という窓から眺めている面もあるのです。赤ちゃんには赤ちゃん特有の病気もありますが、赤ちゃんは幼児になり小学生になり中学生になり大人と成長していきます。

そして「年ですから」と言われるまでいき人生を終えるのです。未来を意識して子どもの健康を考えているのが小児科医なのです。同じ風邪でも日本で言われる風邪と海外で言われる風邪の親の思いはかなり違います。そんな風邪の相談にのることも小児科医の仕事と言えます。

<千秋楽>

先生の専門は?と聞かれれば「小児科医です」、小児科の何が専門?と更に言われればやはり「小児科医です」としか言えない番付付け出しの現役の小児科医です。

そんな小児科医は日本にたくさんいます。子どもの安心グッズとして一つそろえてはいかがでしょうか。多くの小児科医は子どもだけでなくお母さんも好きです。そして付け足しにお父さんも。

そろそろ今場所最後の弓取り式です。