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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(35)「 海外赴任者のストレス~夫婦の危機に応えきれない心療内科 」
NL05110102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~夫婦の危機に応えきれない心療内科

シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

東京で診療を行っていた頃、60歳代後半の女性Aさんが、家族に付き添われて外来を訪ねてきた。Aさんの訴えは「うちの主人が外で女遊びばかりするので、私は安心して眠れない。色々と近所を調べなければならないので、落ち着いて家にも居られない。」とのことだった。

ご主人は、奥様と同い年。ご自分の会社を経営する現役の社長さんであった。60歳を越えても、外でお客様に会うことも多く、多忙な日々であったようである。奥様の訴えを、「またか・・・」とうんざり顔で聞いていたご主人。ついに一言、「そんな事ないでしょ。」と口を挟んだところ、奥様は「あなたは病院まで来ても、私に嘘をつくの!」とものすごい剣幕で怒り出した。

Aさんが検査に行っている間、同じマンションの下の階に住む長男夫婦とご主人から再度詳しい状況をうかがってみた所、「お母さんの抱えている心配は、現実的でなく、そういった事実は一切ない。」とのことであった。結局、Aさんは、老人性痴呆症の初期と診断され、継続的サポートが開始された。

シンガポールでは、夫婦の浮気問題・夫の女性遊び・パートナーの夜遊びなどといった問題も、心療内科に持ち込まれることが少なくない。

特に、「確実な証拠はないけれど、どうも夫の行動がおかしい」「シンガポール近隣諸国に頻繁に出張するが、その際バイアグラなど手に入れている。家で夫婦生活はないのに・・」「自分が出張中に、妻が夜中まで外出を繰り返し、信用できない」「不明の出費が多額にある」など、訴えは色々であるが、「夫婦として相手を信用しきれずに、自分ひとりでイライラしたり、不安を強く感じている。」「相手に不満をぶつけても、否定されたり、開き直られるだけで、何の解決にもならない。」という苦境が強く感じられる。

日本では、親類・兄弟姉妹・成長した子供たちが、「客観的な評価者」として近くもなく遠くもなく、緩やかにサポートし、緊急避難的な逃げ場になることも可能である。Aさんの場合は、長男夫婦の客観的評価が治療の適正を支えてくれた。

Cさんは、40歳代後半の女性で、在星2年半。「日中に考え事ばかりして、意欲的に活動できない。動悸・不安感を感じる」ということで外来を受診された。症状のきっかけははっきりしていた。「夫が海外出張中のはずなのに、1日早くシンガポールに戻り、外泊していた」ということに気づいた日からであった。後日、当然ご主人もいきさつを説明しているが、芽生えた不信感は、Cさんを動揺させ続けた。Cさんは、元来健康な女性である。このことに気づかなければ、今もなお普通に生活することが可能であったであろう。

海外赴任中は、夫婦二人の世界が密室になりやすい。現地日本人社会は大変に狭く、周囲に「夫婦の苦境」を相談することは大変に難しく、また、全くの他人が友人夫婦の問題に深く関わる限界も感じる。

心療内科もあまり役立ったことがない。夫婦カウンセリングなり試みるが、「芽生えた不信・疑念」を消すことは難しい。そして、訴えが「猜疑心に基づく不安」なのか「深い根拠に基づく事実」なのか、どこまでも平行線である。アジアでは、地域的特徴からこういった「夫婦の危機」を起こしやすく、厄介な問題である。

何が、解決のサポートになるのか? 誰に問題解決のアドバイスをもらえばよいのか? 未だ模索中である。