• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(35)「 海外赴任者のストレス~システムと継続性 」
NL05100102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~システムと継続性


シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

2005年度JOMF主催の情報交換会に出席させていただいた。
本年度は、「生活習慣病」をテーマに、国内で活躍する産業医の方々の取り組みとアジア各拠点診療所医師の活動を伺うことが出来た。
各企業産業医と海外在住の内科医師との連携を元に、赴任者の健康管理が維持され、より良い海外勤務に役立つことは非常に大切であろう。
自分が海外で行っている心療内科診療を「孤独な診療」と嘆いている場合ではないようである。
海外での心療内科診療は、今後どうあるべきであろうか。その連続性・継続性などから考えてみたい。

在外機関のメンタルヘルス

在外の邦人医師一人の力で、メンタルヘルス全体を把握することは困難である。
数年前、ある大学の医師に、「メンタルヘルスの手を広げすぎると担当した医師が破綻しますよ。」とアドバイスを頂いたことがある。

確かに、一見患者の話を傾聴し、肉体的負担を必要としない仕事ではあるが、メンタルヘルスは決して楽な仕事ではない。
問題は常に持ち込まれ、解決は単純ではなく、判断やケアは繊細かつ的確でなければならない。

患者さんの自傷行為や自殺願望に触れることも少なくなく、予断を許さない一面もある。
家族内の壮絶な葛藤や患者さんの長い病気の歴史に触れることもある。
4人家族の言い分を伺うだけで、1時間過ぎてしまうこともあり、長時間きちんと向き合う忍耐力も必要となる。

医師個人の孤立した力では無理があり、ある一定のネットワークあるいは広い意味での医療チームとして支えてゆくことが重要になるであろう。「Overseasメンタルサポートシステム」という一定の概念が必要である。

現時点で妥当と思われるOverseas メンタルサポートシステムとは

当然、日本国内のように現地診療所で医療チームを作るわけではない。
現地は、日本人担当医が一人、勤務地に日本人医師がいなければ会社の上司が部下の状態を客観的に判断する医師の役割を担うこともあるであろう。
どの勤務地であっても、担当医あるいは担当者が「緊急・困難」と判断した時に対応してもらえる現地精神科医師・病院の確保は必要不可欠である。
まず、これは、現地ネットワーク情報として確保したい。

日本サイドには、産業医の方々の理解はもちろんのこと、的確な診断と緊急一時帰国時にも対応してくれる医療機関情報の確保は重要である。

海外に居て、日本と同じ医療システムを母国語で受けられることは、もちろん期待できない。
インターネットの活用などで、遠方であっても日本と現地の医療チームの中で対応できれば大変に好ましい。

もう一つは、「継続性」である。
2005年シンガポール日本人会診療所ではJOMFの援助を受け、2度の小児発達健康相談を実施した。
日本の最先端医療を知る医師に、医療講演・こどもの発達を評価してもらえることは海外在住者の大きなメリットになったと実感している。

しかし、問題点も浮き彫りになった。
「継続性」である。

専門家に診断・対応法を説明してもらい、「そうか、わが子はそういう状態だったのか。」と、理解が深まるが、次に、「じゃあ、どうする?」と親は混乱してしまう。
実際に、診断を知って、更に将来への不安感を深めるお母さんや「お子さんは正常範囲内」と太鼓判を押され、すごくうれしいはずなのに「この子が正常なら、今の問題は自分の子育てが悪いから起きているの?」と自責の念に駆られるお母さんなど、診断を聞いた後、より深いサポートを必要とするケースは少なくない。

こども相談会のようにピンポイントで専門家受診によって大きなきっかけが与えられた後、どうやってその後をサポートし、点を線に繋げ、日本に帰国するまでの継続に変えてゆくシステム作りは急務である。

担当医が変わったら、提供する医療の質が大きく変動するようでは、医師一人で患者を支える「旧式」の医療システムに近い。
海外赴任者が増加するこの時代に、世界中どこに赴任者を派遣しても、何らかの不調を発症した患者を孤立させないシステム作りが重要である。