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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(34)「 海外赴任者のストレス~適応障害 」
NL05090102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~適応障害


シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

来月開催されるJOMF情報交換会では、「適応障害」について話をさせていただきます。この病名は、皇太子妃雅子様の病名としても公表され、最近、活字として目にする機会も徐々に増えつつあります。雅子様のように、元来は健康で充実した仕事をされていても、環境が変化すれば体調を壊してしまうという事例は、海外では少なくありません。

「自分がいくら努力しても、変えられない環境・逃げられない環境」の元で、海外赴任者は緊張を持続させ、自分が変わることで周囲との関係を改善しようとか、周囲の期待に応えようと努力をし続けます。その努力や緊張が長引いて、情況が一向に好転の兆しが見えない場合には身体のどこかに不調を来たしやすいようです。

適応障害には、緊張や努力が始まって数ヶ月以内身体の変調を来たす「急性適応障害」と半年以上たってから徐々に不調にいたる「慢性適応障害」があります。

診療に当たっていて、「急性適応障害は特に治癒率が高い」ことに気づかされます。実に診療のやりがいがある疾患です。しかし、病気の発見が遅れたり、重症化してから対応すれば、赴任者にとっても会社にとっても大きな損失になってしまったケースもありました。

例えば、Oさん。家族4人(夫婦と小学生の子ども二人)でシンガポールに赴任してきたOさんでしたが、4ヶ月目に「周りの人が僕を恨んでいる。僕がきちんと仕事をしないから、会社にとって大事な契約を逃してしまった。怖くて会社にいけない。どうしてもシンガポールを離れたい。」と訴えて、上司と一緒に外来にいらっしゃいました。急性の適応障害と診断され、「これ以上現地での勤務は困難」と判断し、急遽日本に帰国することとなりました。

<時間的・経済的ロスを概算してみます。>
・引継ぎ・病気のために発生した仕事の時間的損失
  引継ぎ3ヶ月+赴任者勤務期間4ヶ月+次の人に引き継ぐ時間2ヶ月
  =約9ヶ月間の仕事の空白
・引越し費用(往復)200万円
・初期の発生する住居契約・学費(入学金)ほか100万円
・往復の航空券50万円
これに、赴任者本人の疾病への心理的負担・振り回されてしまった家族・子ども達の心理的負担など数字では現せない無形の損失も重なります。

環境が激変する海外赴任初期では、軽症から重症まで適応障害が誰にでも生じやすいものです。もっともっと、赴任者にもそして赴任者を送り出す日本側会社にも知っていていただきたい疾患の一つでもあります。それは対応こそ誤らなければ、この症状からは必ず回復され充実した海外生活を送ることが可能になるからです。