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ニュースレター(機関紙)

子どもと大人のメンタルヘルス(1)キレる子供
NL05040103
メンタルヘルス

メンタルヘルス問題では子どもの頃からの様々な要因が大人になってからの状態に大きな影響を及ぼすとも言われます。このたび、専門家である沼畑先生からこの面にスポットを当てて短期連載で解説をいただくことになりました。



子どもと大人のメンタルヘルス(1)キレる子供

小児精神科医
沼畑玲子

「キレる子供」は周囲から見て些細なことで、攻撃的になったり暴力を振るいます。「キレない子供」と「キレる子供」はいったい何が違うのでしょうか。「キレる子供」は異常な思考回路や行動パターンをもって生まれてきたのでしょうか。しかし「キレる子供」には、以前は頑張り屋でたいへん従順な、親にとっては育てやすかった子供が多いという事実もあります。

<A君の場合>
小学校5年生のA君は学校でちょっとしたことでキレて、クラスメートに暴力を振るうため、私の働いているクリニックに両親に連れられてきました。A君は、暴力を振るったことを私に怒られるだろうと思っていたようで、ずいぶん緊張し身構えていました。

「今日ここに来たのは、困っていることがあるからだと思うんだけど、A君が困っていることは何ですか?」と私は彼に尋ねました。
「よくわからないけど、お父さんとお母さんに連れてこられた。」とA君は答えます。

「お父さんとお母さんは、A君がどういうことで困っているから、ここにA君を連れてきたんだと思う?」
A君は少し考えて言いました。「僕が学校で暴れるからお父さんとお母さんは困っているんだと思う。」

「A君はそのことで困ってるの?」A君は頷きます。
「すぐカーッとなって友達を殴ると皆に嫌われる。」

「どういう時にカーッとなるのか教えてちょうだい。」
「からかわれるとカーッとしてすぐキレちゃう。」

「そういう時、そのからかったお友達がA君のことをどんな風に見ているって思うの?」
「脳みそ足りないやつ。」

「脳みそ足りないやつって思われてるって感じるのいやだよね。」
「うん。なんとなく馬鹿にした目つきとかするからすっごいムカつく。」

「人によって一番ムカつくことって違うんだけど、A君は脳みそが足りないって思われることなんだね。」
「そう。」

「どうしてそのことが一番ムカつくんだろうね。他にもA君のことを脳みそ足りないって思ってるだろうなっていう人がいるの?」
「いる。」

「誰かな?」
「お父さん。」

「どうしてそう思うの?」
「頭がそんなに良くないんだからもっと勉強しろって言われる。」

「そうなんだ。いつから?」
「小学校に入ったあたりから。」

「どうしてお父さんはそういうこと言うんだって思ってきたの?」
「僕のことがかわいくないから。」

「お父さんがA君のことをかわいくないって思っているって感じるのはどんな気持ちがするの?」
A君は唇をぎゅっとむすんだまま、大きな目に涙をためていました。

A君は幼少期から親に言われたことをきちんと守るいい子でした。小学校に入ってからはお父さんの熱心な教育方針に従い、一生懸命に勉強しました。

しかし、お父さんから課された目標はクラスで一番になることで、彼はなかなかそれを果たせなかったのです。A君は無意識的にも、一番になることで親の愛情を勝ち得る、と信じて疑わず頑張ったのですが、5年生になると、本格的な塾通いで優秀なクラスメートの数は増えていきました。

クラスメートのふるまいが自分は成績が悪い、頭が悪い、脳みそが足りない、と思われていると感じさせる時、A君は親から見離されるかもしれない恐ろしいタブーの領域を刺激され、大きく反応していたのです。 

<頭の理解 体の理解>
「○○であれば価値がある」は「○○でなければ価値がない」という意味を同時に含んでいます。

何かをして親に褒められたり、親が喜んでいるのを感じると、子供がそれを延々と続ける傾向が強いのは、親に愛されているとか、親が自分を価値ある存在だと思っている、と自分に感じられることで、初めて安心感を持って生きていけるからです。

しかし、自分がどう感じているか、どうしたいか、という感覚をなかったことにし、親が自分にどうしてほしいのか、だけに意識が集中すると問題が生じてきます。

自分自身の感覚を細やかにキャッチすることができなくなり、親しい人との間でも自分の気持ちを表出できず、不快感をためることになります。頭が、心でどう感じたかを把握しないことがあっても、体が感じた感覚をなかったことにはできません。つまり、胸がドキドキする感じとか、背中がゾクゾクする感じとか、頭に血が上る感じ等を、初めから消すことはできないのです。どんな感情が伴っていると体が不快なのかを自分自身で把握していないと、その不快感は整理しようがなく、そのままの形でごちゃ混ぜになって体に蓄積されます。

エネルギーに満ち溢れたものが風船の中にひとつひとつ溜まっていくところを想像してください。風船がもうこれ以上入らないというぐらいパンパンに膨らんだら、最後に入ってくるものは特に大きくなくても簡単に破裂します。

人間がその不快感を処理するためには、その体験を「恥ずかしかったこと」「くやしかったこと」「頭にきたこと」「悲しかったこと」「羨ましかったこと」等、その体験を通して持った感情を十分に感じ入り、原始的な体の不快な感覚をより知的な脳の理解に昇華させていく必要があります。

生々しい体の感覚をそのままに持ち続けるだけのスペースを、人は体の中に持っていません。胸がドキドキするのは、みんなの前でからかわれて恥ずかしかったからかもしれません。背中がゾクゾクするのが大声で怒鳴られてこわかったからだとしたら「本当にこわかったなあ。でも、あんなふうに怒鳴られたらこわいのも当たり前だよなあ。」と自分自身を慰められ、そのゾクゾクは収まってくれるかもしれません。

人間の不快感が感情と共に把握され、なぜ今いやな感じを抱えているのかがはっきりすると、それだけで安心することもあるのです。そして、そのいやな体験を終わったことにしてゆくプロセスを踏み出せます。「ああ、あれはいやなことだったけど、もう終わったことなんだ。」と今現在の安心してよい状況に気がつくことができます。

<「キレる」感情の経路>
ここで、友達に馬鹿にされた場合、どのような変化が一般的に起こるのかを書き出してみます。

からかわれる 
頭にカーっと血が上る 
頭にカーっと血が上ったのはムカついたからだと気づく 
4aムカついたと相手に伝え、からかわれたくないことを表明する 
4bムカついたことを誰かにきいてもらい、スッキリする 
4cこの人はもともとムカつくことを言う人だからしょうがないと納得する 
4dムカつくので攻撃する

「キレる子供」は、事実かどうかは別にして馬鹿にされたと感じると4a4b4c4dという一連の経路をとらず、→暴力的になる、というようにを跳びこえて暴れます。事実「キレる」も「跳ぶ」も一瞬に元の状態から別の状態に変わることを意味します。些細なことでも「キレやすい」のは前述したとおり、その事柄ひとつで「キレた」のではなく、すでに「キレる」一歩手前の状態におかれた後、最後の刺激が加えられたのですが、「キレない」ためには爆発するエネルギーとなる一つ一つの体の不快感を風船に溜めこまずに、脳のなかで処理していくことが大切なのです。言葉による感情の表出は「キレる」子供を必ず救います。
 
<どう援助ができるのか> 
「キレる」子供たちに、大人はどのような援助をさしのべられるでしょうか。どのように言葉を利用していけばいいのでしょうか。

子供の表情が居心地の悪さを伝えている時、「今どんなことを感じているの?」と尋ねることで、子供の脳が感情にアクセスする手伝いができます。親が答えを聞き出すことではなく、子供が自分自身の感情を知ることが目的なので、子供がすぐに答えられないなら「どんなことを感じていたのかわかった時に教えてね。待っているからね。」と伝えることができます。

A君のお父さんは貧しい家庭に育って苦学し、独力で大学を卒業した後、一生懸命に働いて出世するという目標を持って、ある有名会社に就職したのですが、出身大学が一流大学ではないということで、能力を認めてもらえずに悔しい思いを抱きながら働いている、ということがわかりました。お父さんはかわいい息子に、決して同じ悔しさを味わわせたくない、と躍起になってA君に勉強させてきたのです。しかし、お父さんはこれまでその気持ちをA君にもお母さんにも話したことがありませんでした。これまでの努力が報われないくやしさを言葉にすることが、お父さんにとっては耐え難いほどつらいことだったのです。

さて、ここに大きな行き違いがあります。当然のことですがお父さんにとってA君はかわいいのに、A君はお父さんが自分のことをかわいくない、と思っていると感じています。親が子供に与えるものがそのままの形で子供に伝わるとは限らないのです。親は、「子供を受け止めているのだ」、というメッセージをどう子供に伝えるか、に心を傾けるのがまず最初かもしれません。

1年半のA君の治療と並行して、お父さんとお母さんそれぞれも治療を受けました。「もう暴れなくてもいいんだよ。今までだってお前のことを大切に思ってきたけど、お前の気持ちをうまく聞いてやれなくてごめんな。これからはもっと話を聞きたいよ。」とお父さんがA君に言ったのは、治療が始まってちょうど1年程たった頃でした。それを聞いたA君は、「お父さんもお母さんも、ぼくのことを嫌いなんだと思ってたから寂しかった。」と、言ったそうです。お父さんはその時、「A君の暴力は心の悲鳴だったんだ」と感じ、涙が止まらなかったことを教えてくれました。

お父さんにとって、治療を受けた1年半は、お父さん自身が何を感じているか、に気づき受け止め、父親として、夫として、また息子としてより成熟してゆく新たな挑戦でした。(続く)


沼畑玲子
小児精神科医。旧国立小児病院、心療内科・精神科にて研修。現在は、東京の吉祥寺にある「さきお英子子ども心のクリニック」を中心に、都内の精神科病院、老人ホームで勤務しており、小児から老人まで幅広い年齢層の患者を診察している。PTSDの治療であるEMDRの経験が豊富で、日本EMDR学会、EMDRIA(EMDR国際協会)の会員である。