• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(29)「 海外赴任者のストレス~笑顔に涙 」
NL05040102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~笑顔に涙

シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

先週の診察室で、私は何人の患者さんの涙を見たことであろう。「スミマセン。」と謝りながら、堪え切れずに涙を流す患者さんに「いいんですよ。」と答えるのが精一杯。医者12年目になっても、この時にかける良い言葉など未だに見つからない。
涙が一段落すると、みんな普通の表情に戻って診察室を後にする。もしも、待合室に顔見知りでもいれば、普通に世間話でも出来そうなご様子である。
こんな姿を見ながら、診察を担当する私自身ですら、「心療内科の患者さんは大変な苦労をされているなあ」と実感する。

内科の病気で「ある臓器」の不調を来たした場合、病気の程度によって、患者さんの表情は決まってくる。胃潰瘍を例にとって考えよう。歩いて外来に来られ、食事も摂れる場合なら、まあ軽症。世間話の一つでも出来るくらいの体調である。おなかを常に押さえ、うなっているようなら重症、すぐにでも救急車に乗って来院し、入院した方が良いかもしれない。

こんな風に、患者さんの表情や立ち居振る舞いの姿勢を見ていると、「大体の病状が把握できる」ようである。
外科の病気は、もっと簡単。「大腸を切りました。」「手術は4時間でしたよ」と言われれば、「それは大変でしたね」とすぐに言葉が出てくるものである。足や手に包帯が巻かれてあれば、一目瞭然。包帯が取れてくると、外部から見ていても「順調に回復」を実感できるものである。
ところが、心の病気はそうは行かない。

私達が「心の病気」と表現する疾患は、脳の細胞や自律神経の不調である。脳は優れた臓器で、少しのことでは簡単に不具合が生じないように作られている。もし、脳細胞の機能に不具合が出たときには、他の細胞がサポートしたり、脳の他の部位の細胞を利用したり、いろいろな方法を使って、バランスを崩さないようにしている。
海外で心療内科に通院してくださる方は、特に、この「とにかく表面上だけでも、安定を保っていよう」という防御機制が著しい。

「心療内科に通院していることは、家族にも内緒にしている」と症状をひた隠し、自分一人で病気と向き合い続ける患者さん、「この症状が始まって、実は十数年になります。」と話してくださる方、泣きたいほどつらいのに、無意識に笑顔を作ってしまう人など、いろいろな形の苦労がある。「笑顔に涙」この矛盾した状況をこなしてしまう脳細胞が、心療内科の治療対象臓器である。