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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(27)「海外赴任者のストレス~転勤辞令」
NL05020102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~転勤辞令

シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

海外赴任者・その家族にとっても、転勤辞令は大きな決断のときである。海外赴任歴9年のOさんは、次はそろそろ日本に呼び戻されるであろうと、ひそかに期待していた。タイに2年・シンガポールに2年・フィリピンに5年・・・・家族と支えあった9年という年月は、決して短い道のりではなかった。

Oさんには、昨年、高校受験を控えたお嬢さんがいらしたが、「あと1年くらいで異動があるであろう」と家族で話し合い、お嬢さんは先行して日本の高校を受験。家族がフィリピンから戻るまで、祖父母の家で頑張ることになっていた。
そのOさんに、この1月、「ヨーロッパ転勤」の辞令が出た。次の任地も5年以上の予定。

「どうして・・・・」Oさんは、足元がぐらぐらするようなめまいに襲われた。
「自分は帰国したら、一戸建てを購入しようと思っていました。来年は長男も高校受験だし、両親もだんだんと年を取ってきて、『海外赴任もそろそろ潮時かな』と、思っていたんです。」
「会社にとっては、自分は、一つの駒でしかない。こうやって、便利に使われて自分は終わってしまうのでしょうか。自分の人生はそれでよいのでしょうか。」「これで、5年10年とヨーロッパ勤務をしていたら、ヨーロッパは遠すぎる。東南アジアとは異なる地域でまた一から作り上げてゆく自信はないです。不安で怖さすら感じます。」

Oさんは、なんとなく自分で思い描いていたコースと、会社が新たに提示してきた新たなコースの開きに戸惑い・怒り・不安になり、どうやって受け止めるべきか、自分を見失いそうになっていた。

Oさん自身は、会社との直接交渉・赴任期間の短縮・条件の向上などを通して、徐々に落ち着きを取り戻し、少量の内服で自分を落ち着かせて新任地へと出発した。ヨーロッパに赴任して、6ヶ月ほどで「これで気持ちを切り替えて、何とか自分を鼓舞してやってゆけそう」と気持ちは前向きに切り替わりつつあったようである。

ちょうど、この頃からです。日本で高校生活を行っている長女の食欲がなくなり、吐き気を訴え、頻回に嘔吐をするようになった。
この症状は数ヶ月にわたって続き、お祖母ちゃんではどうして良いか分からず、母親が日本に一時、長期滞在し看病を要するほどであった。

以下は、お姉ちゃんが病気から半年後に、心の中を整理してまとめてくれたものである。
「お父さんが、ヨーロッパ行きを渋って、会社の不満を口にしていた時は、『私はどうなるの?』と言わなくても、お父さんの応援をしているだけで、気持ちが伝わっているように感じていました。『家族と私は同じ気持ちなのだ』って。ところが、しばらくすると、お母さんもお父さんも弟も、結構楽しそうにヨーロッパで生活するようになって・・・安心したはずなのに、一方では『じゃあ、先に帰国して一生懸命みんなを待っていた私はどうなるの?』と本当に吐き出したい気持ちだった。仕方ないことだし、自分が不満を言ったって何にも変わらないのに・・・」

以前のNews Letterに記したように、海外赴任は赴任者個人の実力が企業業績に直結しやすい。だからこそ、適時に適した人材を派遣できることが企業にとっても望ましい選択ではないだろうか。Oさんはもちろん新任地でも全力で仕事に取り組んだことであろうが、赴任直後から100%の実力を出せたとは考えにくい精神状態であった。

赴任者をマラソンランナーに例えるなら、「凡そここまで走ったら、ゴールだよ。」と予定を告げられる方が走りやすい。ゴールにそろそろ到着しそうになったら、「40km後方にゴールを移動しました」と告げられたら、皆さんは次のゴールを信じて全力で走れるであろうか?