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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(25)「海外赴任者のストレス~医療連携」
NL04120102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

「海外赴任者のストレス~医療連携」

シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

私は、内科研修を大学病院で1年・関連病院で2年行い、その後心療内科を専門とするようになったが、東京で診療に当たったこの6年間は、実に、いろいろな医療連携体制に恵まれていたと思う。リウマチで治療に苦労する患者さんがあれば、カルテもレントゲンもすべて持参して、その方面で実績を上げている医師に直接相談に伺った。難しい症例では、医局全体のカンファレンスに取り上げてもらい、数十人の医師で治療方針を話し合っていただくことも可能であった。

実績と経験に裏打ちされたアドバイスは、困難な治療に明確な礎を与えてくれ、難病といわれる病態にも立ち向かう自信を与えてくれたと思うし、「困ればいつでも相談に来い」「治療方針を話し合うのは時間を惜しまず」という大学の姿勢は、関連病院に出た私に常に刺激を与えてくれていた。
最も幸運であったのは、私が勤務していた関連病院は、大学からタクシーで10分以内の距離であったことであろう。

いま、シンガポールに来て思うことは、こういった医療連携の重要性である。海外邦人医療基金主催の「情報交換会」に出席させていただくことで、南アジアで活動する医師らに直接会い現地情報を交換し合えること、そして、「横の繋がり」を確認できることは重要である。「かの地では○○先生が頑張っているのか。」ということは、海外診療の励みにも、刺激にもなる。

心療内科の現場では、海外邦人医療基金が果たしてくださっている医療連携の役割は、非常に大きい。日本国内の海外赴任者医療に関心の高い医師や、実際に海外赴任経験を持つ言語療法士を紹介し、相談の手配まで行っていただいている。これは、非常に有難い事で、海外在住の患者さんにも専門家のアドバイスを受ける機会が徐々に増えつつある。また、物質面では、日本でしか入手できない心理テスト・知能テストなどの用紙の供給等も積極的に仲介していただき、質のよい診療が保たれるための大きな役割を担っていただいている。
「共通の情報の開示・人的ネットワークの提供、そして医師と医師を繋ぐ役割・海外で孤立しがちな患者をこの連携に乗せる」という基金の果たすこの役割は非常に重要である。

しかし、海外メンタルヘルスにおける人的ネットワークは依然として小さく、その機動力・活動力・認知度は極めて低いのも現状である。一つは、国内での紹介先病院の問題である。

マレーシア在住の適応障害の患者さんが、3週間の休暇で日本に戻り休養することになった。実家の近くで、心療内科を標榜する大規模病院を紹介したところ、「ここは、心身症しか診ないから、あなたは近所で開業している精神科を自分で探して受診しなさい。」と言われて、マレーシアに戻ってきた。

海外で勤務し、療養目的で日本に戻って治療の継続を願う患者さんにとって、理屈は合っていても、この対応が適切であったとは思えない。赴任者にとって、3週間の日本療養ということがどれほどに重要で、どれほどに貴重な治療の機会なのか、医師が理解し切れなかった為、患者さんがネットワークからこぼれ落ちてしまった1例である。

メンタルヘルスの分野では、東京近辺では、基金の介在・私の旧知の関係から細くとも専門医との繋がりが保たれているが、その他の地域となるとネットワークは皆無である。今後は、このような人的ネットワーク作りも私たちの重要な役割になるであろう。海外赴任者の健康が海外と日本の医療連携という大きなネットワークの中で保障されれば、これは確かな安心である。