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ニュースレター(機関紙)

留学に際して必要な健康診断書について(2) 感染症の証明について
NL04060103
予防接種、感染症

日比谷クリニック 
奥田丈二


●はじめに

前回は健康診断書の目的、内容の概略について簡単に説明させていただきました。
今回は、健康診断書にて証明が要求される感染症の項についてさらに詳しく説明させていただきます。
この項は健康診断書を作成するにあたって最も手間と時間がかかる部分であり、ここが記入されれば健康診断書は8割方完成したといっていいでしょう。

●感染症の証明について

1.ワクチンを接種した記録(接種した正確な日時が必要)があること。
2.過去にその感染症に罹患した証明があること。
3.その感染症に対する抗体があることの血清学的証明
のいずれかが要求されます。

 1のワクチン接種の記録については、接種した医療機関が発行する予防接種証明書、もしくは母子手帳に接種の記載があればそれをそのまま転記することができます。
 2の過去に罹患した証明については、前述した通り実際それを診断した医師が、診断した正確な日時を記入する必要があり、実際にはほぼ不可能です。
 上の1、2に該当しないものについては、血液検査をおこない、その感染症の抗体価を調べる必要があります。その感染症の抗体価が陽性であり、現在罹患していなければそれで完了です。
 抗体価が陰性であった場合、そのワクチンを接種する必要があります。接種が必要なワクチンの数、種類によっては全てを接種し終わるまでに最悪の場合2カ月以上かかることがあります。

●〔Required〕と〔Recommended〕の項について

 証明が要求される感染症は通常、〔Required〕 と 〔Recommended〕 の項に分けて記載されております。重要なのはRequiredの項にある感染症で、証明がなされないと正規科目の登録をさせない、学校の敷地内へ入ることが禁止される、などの処置をとられることがあります。Recommendedの項にある感染症については証明の義務はありませんが、証明がないと医療関係などのアクティビティーを制限される場合があります。

●〔Required〕の項で要求されるものについて

 先進国の健康診断書において必ず要求されるものとして

〇Measles(麻疹)
〇Rubella(風疹)
〇Mumps(おたふく風邪)

があります。

 とくに麻疹と風疹は感染による死亡率が高く胎児への催奇形性のリスクがあるため、かつての天然痘と同じようにWHOを中心とし、予防接種(MMRワクチン)の普及により世界的な撲滅を図っている感染症です。しかしながら先進国以外での接種率がまだ十分とはいえず、海外からの人の出入りが多く人が密集している学校では非感受性者(抗体保有者)の比率を高める必要があります。したがって海外から入学する際は、ワクチン接種もしくは抗体保有の確認は先進国、特に米国の健康診断書ではかならずといっていいほど要求されております。

 米国を含めた先進国では幼少時にMMRワクチン(Mumps Measles Rubella 3種混合ワクチン)を2回接種することが義務付けられております。

 日本においても1989年4月にMMRワクチンの導入がなされましたが、おたふくかぜワクチン株による無菌性髄膜炎の多発により、1993年4月に接種が中止されたまま現在にいたっております。したがって日本ではMMRワクチンは認可されておらず、それぞれのワクチンを個別に接種しなくてはなりません。接種は任意なので未接種者も多く、いまだ自然感染による抗体獲得者が多く見られるのが現状であり、日本は麻疹、風疹の輸出国の扱いをうけております。

 これら3つの感染症に対するワクチンは全て生ワクチンという種類に属します。生ワクチンとは経代培養にて弱毒化した(生きた)ウイルス株を実際に感染させることにより、免疫力(抗体)を獲得するものです。生ワクチンは不活化ワクチンやリコンビナントワクチンにくらべて免疫力が長期にわたって保持されます。一方、接種後の発熱やワクチンに混入する卵やゼラチン成分に対するアレルギー反応がみられることもあり、ワクチン接種が忌避され未接種者が多くなる原因となっております。

 不活化ワクチンやトキソイドを接種した後に生ワクチンを接種する場合は1週間以上の間隔が必要であり、生ワクチンを接種した後に次のワクチン接種するには4週間以上の間隔が必要です。よって、万が一これら3つ全てのワクチンを接種しなくてはならない場合には2カ月ほどの期間が必要となり健康診断書の完成まで日時を要することになります。

 なお女性の場合、風疹の生ワクチンによる催奇形性のリスクがあるため風疹のワクチン接種後2カ月間は妊娠をしないように注意する必要があります。

要求されるものとして次に多いものは

〇Tetanus(破傷風)
〇Polio(小児まひ)
〇Diphteria(ジフテリア)

です。

 日本ではDPTワクチン(Diphteria=ジフテリア、Pertussis=百日咳、Tetanus=破傷風 3種混合ワクチン)の2期-接種、およびPolioの生ワクチンの経口接種を義務付けており、これらの接種記録については、母子手帳に記録されております。

 ただ米国を含めた先進国では、ジフテリア、破傷風のワクチンは10年毎に接種を受けることになっており、日本ではDPTワクチンの2期接種は11歳か12歳に終了しているので、21歳か22歳以上の人はDTワクチン(Diphteria=ジフテリア、Tetanus=破傷風 2種混合ワクチン)の追加接種が必要となります。
(Pertussis=百日咳ワクチンの接種は日本特有であり、百日咳の頻度、危険性およびワクチンの優秀さにもかかわらずなぜか他の国では義務付けられておりません。)

 DPTワクチンはトキソイドという種類に属し、菌体ではなく菌が作り出す外毒素を化学的処理により無毒化したものです。接種により菌体に対する抗体ではなく、毒素に対する抗体が獲得されます。トキソイドワクチンは生ワクチンのように熱発などの副反応が少なく、比較的長期にわたって確実な免疫力を得ることができますが、生ワクチンほどは持続しません。

 Polio=小児まひワクチンは日本と欧米で接種方法が異なります。
 日本では幼少期に経口生ワクチン(OPV)を経口投与します。OPVは生ワクチンなので、免疫をつける力が強いのですが、ごくまれに(240万人に1人の割合)で実際にポリオにかかる子供がいます。また、接種後1から2カ月は糞便中に弱毒ポリオが排泄されるので、予防接種を受けていない子供がポリオワクチン株に感染する(すなわち予期せずワクチン接種をうけてしまう)ケースがごくまれにあります。2000年よりアメリカでは経口ワクチンは原則として使わなくなり、代わりに注射タイプの不活化ポリオワクチン(IPV)の接種がおこなわれております。ただどちらの方法であれ、母子手帳に接種の記録があればそれで問題はありません。昭和50年から52年の間に生まれた人はポリオに対する免疫がない場合があるので注意が必要です。もし、ポリオワクチン接種の既往がない場合でも上記の理由から経口生ワクチンを服用することは本来望ましくないのですが、日本にはIPVの製造は認可されておらず仕方がありません。経口投与後2カ月間は排便後の手洗い等を徹底する必要があります。

●〔Recommended〕の項で要求されるものについて

〇HepatitisB(B型肝炎)
〇Chicken pox(水痘=みずぼうそう)
〇Haemophilus Influenzae type b(インフルエンザ桿菌タイプB)
〇Meningitis(髄膜炎菌)
〇Typhoid(腸チフス)
〇Rabies(狂犬病)
ETC..

 免疫獲得を推奨(Recommend)される感染症は学校が独自に決めているもので、内容は学校により千差万別です。

 これらの感染症については入学に際して証明の義務はなく、大抵の場合は空欄のままで問題はありません。ただし、血液に触れる可能性がある医療関係のアクティビティーに参加する場合にはB型肝炎のワクチン接種もしくは抗体の証明が要求されることがありますし、要求されなくてもワクチンの接種はしておくべきだと思います。

 困るのは、ごくまれに敷地内の宿舎に入所するにあたり、髄膜炎菌のワクチンの接種を要求(Required)される場合があることです。日本には全くない感染症ですが、髄膜炎菌の好発地域からの持込みを避ける為、(地域によって差別するわけにいかないので)海外からくる全ての学生に義務づけているわけです。これらのワクチンは日本では未認可であり、日本国内で接種するのは極めて困難です。私どものクリニックでは、事情を書いた書類を別途添付するようにしておりますが、現在のところそれで問題になったことはありません。

●母子手帳について

 幼少期のDPTワクチン、ポリオワクチン、BCGの接種記録については接種日を含め、母子手帳に記入されております。任意接種である風疹、麻疹、おたふく風邪のワクチン接種の記録については記入されていない場合もあり、記入がなければ抗体の検査が必要となります。
無いようで意外とあるのが母子手帳であり、大抵の場合母親が大事にしまってあるものです。
これにより無駄な検査が省ける可能性があります。お母様にお尋ねください。

●ツベルクリン反応について

 米国の場合、大抵の健康診断書でツベルクリン反応(Mantoux skin test, PPD test 以降ツ反と略します)が要求されます。

 日本と違い結核が極めて少ない米国では幼少期にBCGをうつ習慣がなく、ツ反が陰性であるのが通常です。一方、日本人やヨーロッパの人は幼少期にBCG接種を行うため、ツ反はすべて陽性となるのが普通です。ツ反陽性である場合、米国では過去に結核にかかったことがある、もしくは現在結核にかかっているとみなされます。問題となるのは後者であり、現在activeな結核ではないという証明をするため、医師によるレントゲン診断を要求されます。レントゲンフィルムそのものが要求される場合もあり、当クリニックでは小さい間接写真に医師のサインを入れて同封するようにしております。日本人はツ反応が陽性になるのがわかりきっているので、最初からレントゲンにて確認すればよいのではないかと思われるかもしれませんが(私もそう思いますが)、なぜかあえてツ反のステップは省略してはいけないと明記されている場合が数多くみられます。

 ツ反の判定は、PPD液を皮下注射してから48時間後に判定する為、2日後に来院できる日に検査を行わなくてはならないので注意が必要です。

●追記

今回は健康診断書のハードルである感染症の項についての説明をさせていただきました。
次回は、実際に健康診断書を作成するための流れを、当クリニックでの体験を含めて説明させていただく予定です。