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ニュースレター(機関紙)

海外巡回健康相談に参加して(中南米)
NL04030103
メキシコ、パナマ、コスタ・リカ、コロンビア、ヴェネズエラ、医療事情

大阪労災病院内分泌代謝内科部長
大橋 誠

<はじめに>
 平成15年10月27日から11月17日まで22日間、小川倫史先生(北里大学医学部小児科)、桟裕子副看護部長(関西労災病院)、九十九英一管理課長(JOHAC)と私の4人のチームで巡回健康相談に参加致しました。当初予定されていましたグアテマラシティ(グアテマラ共和国)は大統領選挙による治安悪化のため中止となり、アグアスカリエンテス(メキシコ合衆国)、パナマシティ(パナマ共和国)、サン・ホセ(コスタ・リカ共和国)、ボゴタ(コロンビア共和国)、カラカス(ヴェネズエラ共和国)の5カ国5都市で健康相談を行いましたので、各都市の一般的状況と医療状況について報告致します。

<アグアスカリエンテス(メキシコ合衆国)>
(一般的状況)
 アグアスカリエンテスは標高1900mで気候のいい都市ですが、訪問時の気候は丁度乾期で非常に空気が乾燥していました。水道水は飲用には適さないため、ミネラルウォーターを使用し、野菜は消毒薬で消毒してから食べるという状況で、衛生状態はあまりよくありません。大型マーケットでは食材は豊富で物価は安いようですが、日本食材は種類が少なく高価でした。治安はメキシコの中ではかなり良いようで、ゴルフなどを楽しんでおられる方もおられました。

 アグアスカリエンテスには日産自動車および関連企業があり、現地のメキシコ人従業員も多いのですが、やはり一部の方は時間の観念にルーズとの事でした。

(医療状況)
 既に乾期に入っており非常に空気が乾燥しているため、皮膚の乾燥や咳・痰などの上気道の症状を訴える方が大変多く、また下痢・腹痛などの消化器症状を訴える方もたくさんおられました。健康相談に検査結果を持参されている方の中には、高脂血症や高尿酸血症の方がおられ、高血圧の方もおられました。また、赴任前は境界型糖尿病であった方が、糖尿病(食後血糖417mg/dl)になっており、内科受診するよう説明しました。甲状腺機能亢進症の方が2名おられました。その他、赴任後まもなく交通事故にあい現地で手術を受けられたのですが手に後遺症が残り日常生活や仕事に支障をきたしている方や、食道再建術後の再狭窄の為に2~4週間毎に拡張術のため通院しておられる方もおられました。

 在留邦人が問題となる疾病では、腸チフスやアメーバ赤痢が時にみられ、寄生虫と診断される方も時々あるようでした。また結核が多いと話しておられました。

 現地医薬品は処方箋なしで購入できる薬もありますが、抗生物質などは医師の処方箋が必要です。常用量が日本人には多すぎるのではないかという不安の声も聞かれました。

 現地には小野医院があり、日本語が通じるので多くの方が利用され、また定期健康診断を受けておられる方も多く、健診項目には腹部超音波や上部内視鏡検査も含まれていました。病状を伝えたり説明を受けたりする時には言葉の問題は大きく、日本語が通じるというのは非常に良いようですが、医療水準についてあまり信用していないという方も一部におられました。

<パナマシティ(パナマ共和国>
(一般的状況)
 パナマシティは海抜0mで高温多湿であり、屋外は暑いのですが建物の中はよく冷房が効いており温度差が大きいため調節が難しいようでした。パナマ運河周囲には1999年まで米軍が駐留していた関係もあり、首都のパナマシティでは高い水準の医療が期待できる反面、地方においてはそうした医療施設が乏しく、地域によって医療事情に差があるようでした。水や食べ物の衛生状態は比較的よく、旧市街は治安が悪いようでしたが、新市街の治安は比較的いいようでした。テニス、水泳、ゴルフなどを楽しんでおられる方も多かったのですが、屋外は暑く例えばゴルフは早朝からラウンドし昼前には終るというように工夫されていました。水道水は飲用できましたが、ミネラルウォーターを使用されている方もおられました。レストランでの生野菜、果物は問題ないとの事でした。魚は新鮮なものは意外に手に入りにくく、日本食材は購入できるようですが高価との事でした。ビールは1本50円以下と水より安いため、赴任後アルコール量が増えている方もおられました。

 ほとんどの方がメイドを雇っており、非常に便利と感じている方と、人を使うことに慣れていないためずっと家にメイドがいることにストレスを感じている方もおられました。また、日本人社会ができており、非常にいいと感じておられる方と、話しの内容が何でもすぐに広がってしまうため会話に非常に気を使い、悩みを相談しにくいと言われる方もおられました。

(医療状況)
 健康相談では高血圧、境界型糖尿病、高脂血症など生活習慣病の方が数名おられました。高脂血症で内服治療を受けていた方が、赴任後治療を中断されていたので、治療を再開するよう説明しました。摂食障害(過食症)の女性がおられましたが、日本人従業員が1人で仕事上のストレスが大きいのに相談相手がないとのことでした。また甲状腺機能亢進症で治療中の方が1名おられました。

 在留邦人の問題となる疾病では、以前デング熱の方がおられたようですが、今回はおられませんでした。

 現地医薬品は処方箋なしで購入できますが一部は医師の処方箋が必要で、パナマでも常用量が日本人には多すぎるのではないかという声が聞かれました。

 パナマシティに長期住んでいる方は、社会保険病院や救急病院も利用されていましたが、多くの方は私立総合病院を利用されていました。

<サン・ホセ(コスタ・リカ共和国)>
(一般的状況)
 サン・ホセは標高1200mで年平均気温は20度前後で気候的には過ごし易いのですが、太平洋・大西洋両岸地帯は海抜も低く1年を通して蒸し暑いようです。また比較的治安もよく物価も安いため生活しやすいため、退職後サン・ホセに来られ年金生活を送られている方や、長期間暮らしている方もたくさんおられました。

 コスタ・リカは軍隊を保持しない非武装の国で、自然保護に力を入れておりエコツアーのため海外から多くの旅行者が訪れています。今回訪問中の休日を利用してエコツアーに参加し、世界一美しい鳥として知られ手塚治虫の「火の鳥」のモデルとも言われている「ケツァール」を見ることができました。

 ホテルなどでは水道水は飲用できるようでしたが、飲料水としてはミネラルウォーターを使用されていました。交通マナーが悪く、交通事故が多いようでした。

(医療状況)
 健康相談当日検査結果を持参された方の中には、高脂血症、高血圧、境界型糖尿病の方など生活習慣病の方が数名おられました。狭心症でステントを留置され治療中の方、慢性関節リウマチと高血圧があり治療中の方、子宮肉腫で手術・放射線治療を受け、副作用のため食事がほとんど出来なかったが最近やっと食事がとれるようになったという方もおられました。また2~3週間前に学校で流行性角結膜炎が流行ったとのことでした。

 コスタ・リカではデング熱が少し流行っているとの事でしたが、今回日本人にはデング熱の方はおられませんでした。

 高脂血症の治療中の方で投与量が多いのではないかと心配されていたように、日本人には常用量が多すぎるのではないかという方が何人かおられました。

 パナマと同様社会保険病院もありましたが、費用は安いが長時間待たされるとのことであまり利用されていないようでした。今回私立病院のCIMAを見学させて頂きました。最新のMRI等の機器を備えた病院で、病室は50床で全室個室であり費用はかなり高額とのことでした。その他救急医療や健診も行っていましたが、一般の外来部門は隣に併設されている約100のクリニックで行われていました。しかし以前に日本人の方が手術後に死亡されており、医療レベルに対しては少し不安を持っている方もおられました。

<ボゴタ(コロンビア共和国)>
(一般的状況)
 ボゴタは2600mと高地にあり、年中平均気温は14~15度で気候がよく、物価も安く非常にいい町でした。運動不足解消のためスポーツクラブなどを利用されていましたが、どうしても運動不足になるようでした。しかし、やはり治安の悪さが一番問題で健康相談時にも2年前にゲリラに誘拐された方の事が話題になっていましたが、我々が日本に帰国後にその方が亡くなられたとの訃報を聞きました。非常に残念であり今後二度とこのようなことが起こらないでほしいと思います。

 ホテルなどでは水道水は飲用できるようでしたが、飲料水としてはミネラルウォーターを使用されていました。日本食材はコロンビア国内でも作られており、時々手に入るようでした。

 パナマと同様ほとんどの方がメイドを雇っており、便利と感じている方と、逆にストレスを感じている方がおられました。治安がかなり悪いため自由に外出できず、健康相談に来られた家族の方はエスコルダと呼ばれるボディーガードの運転する車で会場の日本人学校へ来られており、一人では外出できないようでした。好きなところへ自由に出歩けないと訴える方がたくさんおられました。

(医療状況)
 ボゴタでも健康相談では高血圧、高尿酸血症や境界型糖尿病といった生活習慣病の方が何名かおられました。また肝機能障害、胆石症の方、心房細動のため治療を受けておられる方がおられました。学童の中に肥満及び肥満傾向の方がおり、やはり肉中心の食事や運動不足の影響ではないかと思われました。

 2600mと高地のため高山病が問題のようでした。蚊はほとんどいないようでマラリアやデング熱はないようでしたが、シラミが多いとの事でした。

 現地医薬品については、処方箋が必要だが2回目以降は処方箋なしでも購入できるとのことでした。

 私立病院は設備が整っていて欧米で教育を受けた医師が働いているので医療水準はほぼ先進国と同水準との事でしたが、現地医療機関に関する情報はあまり得られませんでした。

<カラカス(ヴェネズエラ共和国)>
(一般的状況)
 空港は海岸にありますが、カラカスの町は標高約900mで気候はいいのですが日中の日差しは強く暑く感じました。ガソリンは日本の約1/20と驚くほど安いのですが、住居費は治安のいいところではかなり高いとの事でした。週末はゴルフ、テニス、サッカー、ソフトボールなどスポーツを楽しんでいる方が多くおられました。

 水道水は飲用には適さず、ミネラルウォーターを使用されていました。魚介類は新鮮なものは手に入りにくいようでした。仕事がゆっくりで、例えばホテルのフロントでは両替に10分、チェックアウトには30分以上かかるため、出発前夜に前もってチェックアウトを済ませました。

 治安は悪くスラム街では殺人が頻発しているとの事でした。自由に出歩く事は出来ませんでしたが、大使館周辺など比較的治安のいい所では昼間は一人でなければ歩くことができました。治安悪化のため一時日本人学校が閉鎖されその後再開されましたが、学童数は少ないとの事でした。

(医療状況)
 健康相談では高血圧・高脂血症の方、糖尿病の方がおられました。また肝障害(脂肪肝)の方や心房細動で治療中の方もおられました。またウルグアイ在住の79歳の女性が健康相談に来られました。カラカス在住の家族から健康相談があることを聞き家族訪問を兼ねてレントゲンフィルム、検査結果や薬を持参して相談に来られました。高血圧、骨粗鬆症などで治療中でしたが、主治医の説明が言葉の問題で充分理解できないとの事でした。

 ヴェネズエラで黄熱が発生したため、中南米からヴェネズエラへの入国に際しイエローカードが必要で、今回全員黄熱病予防接種をしました。実際入国時にはイエローカードのチェックはなく、カラカスではあまり問題にはなっていませんでした。デング熱の発生もあるようでしたが、日本人の方にはおられませんでした。

 主に私立病院を利用しておられましたが、健康診断は米国へ行って実施し、その結果を持参されている方もおられました。

<まとめ>
 巡回都市はどの都市も比較的赤道に近く、パナマシティは海抜0mで暑かったのですが、他の4都市は標高900m~2600mの高地にあり比較的過ごしやすいところでした。ただ高地では高山病という特有の疾患にも注意が必要で、ボゴタでは1名軽い高山病になりました。雨期と乾期に分かれていますが、最近ははっきりとした区別が出来なくなったところもあるようです。乾期には乾燥に起因する症状や疾患がみられ、現地特有の気候に対する対策も必要なようです。

 交通手段はどの国も車が主ですが、排気ガス規制が十分でないためか空気が汚く呼吸器症状を訴えられる方が多くみられました。また運転マナーの悪いところが多く、少しでも車間があれば割り込んで全く譲ろうとしないため、当然のことながら交通事故は多く、事故にあわれた方もかなりおられました。

 中南米では、日本ではほとんど経験する事のない黄熱、デング熱、アメーバ赤痢、腸チフス等がみられるなど感染症対策が大切で、派遣前には現地特有の疾患に対する知識とともに、予防法や治療法についても知っておく必要があります。蚊など昆虫を介するものの他、食物や飲料水を介しての感染も多く、特に日本とは衛生状態が非常に違うところもあり、生水や生野菜などにはかなり注意が必要です。飲料水としてミネラルウォーターを利用されている方が多いのですが、ミネラルウォーターよりビールの方が安いところもあり、ついついビールの量が増えてしまうという方もおられました。海が近い割に新鮮な魚が手に入りにくく、肉が安いためどうしても食事は肉が中心で高カロリー高脂肪食となる傾向があります。家族で赴任されている場合は、少し高いのですが日本食材を手に入れ和食を食べておられる方が多かったのですが、単身赴任の方はどうしても外食が増え肉料理中心の食生活になりやすいようです。赴任地での食事療法は難しいのですが、特に赴任前には生活習慣病の方については充分な食事指導が必要と思われます。中南米では治安の悪いところが多く、自由に出歩けないため散歩やジョギングが出来ず、どうしても運動不足になりやすいようです。先ほどの食事とも相俟って生活習慣病になりやすく、日本での生活時よりさらに生活習慣病予防対策が必要と思われます。

 治安の悪さとも関係するのですが、自由に出歩けないために生活範囲が限られ非常にストレスを感じておられる方が多くみられました。特に赴任者よりも同伴されている家族にその傾向が強く、ストレス解消のための対策が必要と思われます。日本人社会が形成され、いろいろと情報交換をしたり習い事をしたりされていましたが、狭い閉鎖的な環境にかえってストレスを感じておられる方もおられました。企業では日本からの現地派遣社員は減っており、日本人社員は1人または2人だけというところもありました。メンタルヘルスでは最初に気づくのは回りにいる方の場合がよくあるのですが、派遣社員が1人でしかも単身赴任となると、対策が難しいようです。こういった非常にストレスの多い環境にありながら、日本人学校の子供たちが皆元気で学校生活を送っている姿を見てほっとしました。

 巡回健康相談では、本当にたくさんの方にお世話になりました。出入国では大使館の方々に、また健康相談の準備やお手伝いは日本人会や日本人学校の先生方にお世話になりました。この場をお借りしてお礼を申し上げます。この健康相談は現地の方々の協力なしでは到底できない事業であり、これからも引き続きご協力頂き、さらに内容の充実した健康相談ができることを願っています。