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ニュースレター(機関紙)

クアラルンプールとフランクフルトにおいて実施した歯科健康相談
NL03110103
歯科、医療事情

東京都喜望園病院
田中健一 (BXU00436@nifty.ne.jp)


 私は10月に海外邦人医療基金の事業として実施されたクアラルンプール歯科健康相談に続き、ドイツにおける医療制度改革の調査の合間に、邦人社会への貢献としてフランクフルト在住の邦人を対象に歯科健康相談を実施しました。本稿では両都市で経験したことを踏まえながら、両都市に在住する邦人の相談内容に共通する点および異なる点を紹介し、今後検討すべき点を考察します。

両都市の邦人に共通する点

1. 最も多い質問は、必要性に迫られて医療機関を受診したくても、医学用語がわからないから受診しにくい、どこへ行けば良いか、です。外国である以上、言語的問題は避けて通れません。さらに外国の医療機関の技術的評価となると、基準をどこにするかも絡み非常に困難です。だからこそ、外国生活においては「予防」が重要なのですが、健康を維持するための講演会を企画しても参集する方は共に多くありません。特に男性の関心の低さは顕著であり、この層への対応には工夫が求められます。昨今の企業業績を考えても、増大する医療費の動向に対し、なんらかの策を講じる時であると考えます。

2. 誰かがやるであろう(自分から率先しては動かない)フリーライドの姿勢もよく見受けられます。私は訪問の度に、現地医療機関の情報の集積は不可欠であり、これは各人の協力なくしてできないと話していますが、その情報提供に対し邦人は非積極的であるのが現状です。医療機関情報ノートなどを作成することにより、各人が受診した医療機関の経験を披露し、それを次の人が受診するためにフィードバックすることが必要です。

両都市の邦人で異なる点

 ドイツでは日本の健康保険では認められていない矯正治療(歯並びの治療)が保険適応であるため、矯正治療の治療法や所要期間に関する質問が多いです。保険の給付範囲が受診動向に影響を与えていることがわかります。一方、クアラルンプールでは治療費が安いことが治療の誘因にはなりますが、フランクフルトに比較すると治療の必要性を認めている邦人は少ないです。

 またクアラルンプールでは医療機関の衛生面に関する質問が出ましたが、フランクフルトではその種の質問はありませんでした。その他、フランクフルトでは全身麻酔下での治療の是非など高度な医療内容に関する質問が少なからず出ました。

邦人社会に期待されること

 昨今の経済状況において「人間の命は貴重だから治療費にいくらかかってもいい」姿勢がいつまで許されるでしょうか。海外邦人が使う高額な医療費が健保財政を逼迫している点を真剣に考える時期にあります。在留邦人として有効性、安全性、経済性、QOLの評価を加味し、医療費を適正化する努力が求められています。

 そのためには国・企業・医療機関が個別に有する断片的情報の統合が必要です。企業は情報を自社だけに留めるのではなく、大所高所から医療情報を持ち寄り、公開することを希望します。この情報が日本人団体で外国医療機関と交渉し治療価格を決定するという保険者の役割を担うことにつながります。

 健康相談に参加する医療関係者は、在留邦人の医療不安解消という道義的見地から健康相談に参加している方が多数です。しかし、受診者の熱意が感じられない場合もあり、医療関係者を落胆させることもあります。これはタダなら受けるけど、金を払うならイヤだという姿勢です。今後、受けるサービスに対しある種の対価を求めざるを得ないのかもしれません。

 虫歯や歯周病を始めとした歯科疾患は、病状に気がついてから受診するのでは、症状が進行していることが多く手遅れである場合が多いです。しかし、相談内容から推察すると悪くなってから相談もしくは受診する傾向が顕著です。特に幼児・子供においては自分で認識することができない場合が多いため、早期発見から予防に重心を移していくべきであると考えます。そのためにはさらなる健康教育の充実を含めた啓蒙普及が必要です。

企業内健康管理室に希望すること

 今回の原稿の要旨は(財)ファイザーヘルスリサーチ振興財団が実施する第10回記念事業としてのヘルスリサーチフォーラムに採用された内容です。現地医療機関との提携、日本への引継ぎは本来派遣元企業の健康管理室が担う内容です。赴任者には公衆衛生的見地からの健康管理(実際に医師として治療をするのではない)が必要です。今後、管理栄養士等を登用し、栄養学的見地から邦人の健康管理をするのも一つの方策であると考えています。

将来への展望

 相談者が自分の健康を維持するために自分で身銭をはたいて知識を得、このようにやっているがチェックして欲しいという内容の質問が増えれば、私も医療従事者の1人として望外の幸せですが、実際には虫歯かどうかチェックしてくれ、悪くなったけどどうしようという内容が多数を占めます。歯科の渡航前検診は未だ多数を占めるにはいたらず、常日頃からの定期検診の習慣は両都市でも少ないです。

 医療サービスの受給者として積極的に意見を発信してほしい。この姿勢こそが今の日本の医療改革に求められていることであり、医師と患者の間における双方向の信頼構築に必須なのです。

 厳しい内容を書いております。会員企業よりの反論を含めたご意見歓迎します。