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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(12)「海外赴任者のストレス~摂食障害」
NL03110102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

「拒食症」「過食症」という言葉は大変一般的になってきた。拒食症・過食症のように、自分の理性ではどうしてもコントロールできない病的な食生活のパターンが続き、体調を崩したり、自信を無くしたり、人間関係がうまくゆかなくなる病気をまとめて「摂食障害」という。
この病気は、症状が潜在化し易いため、一人暮らしの海外生活でこのような症状が出た場合、長い期間自分一人で抱えてしまうことになり、事態がかなり悪化してから病院を受診するケースもある。

症例:16歳・Mさん・女子
Mさんは、両親と弟2人の5人家族であった。家族と共に5年前から、インドネシア赴任していたが、親の勧めもあり15歳の春、シンガポールの高校に入学した。そのことを決断したときには、家族はもう数年インドネシア駐在となる見込みであったため、Mさんは「寂しくなったら週末にでも帰れるよね…」と自分を納得させて、シンガポールに旅立ったのだった。

ところが、高校1年生の6月、会社の都合で、突然、家族が本帰国となってしまった。勿論、両親からは何度も「一緒に日本に戻ろうか?」と尋ねられたが、Mさんは「折角だから、がんばってみるよ。」と明るく答えていたのであった。

学校では明るく、そしてルームメイトとは仲良く会話するMさんだが、就寝前には無性に寂しくなり、涙が出てしまうこともあった。夏休みを日本で家族と共に過ごし、シンガポールに戻った頃から、Mさんの行動に異変が出てきた。家族のことを思い出す感情・そこから湧く寂しさ・孤独感…「自分は何者か?」という不安・「自分は誰にも大事に思われていないのでは?」という疑問。Mさんは心の中に湧く全ての感情を受け止めていたら、自分が壊れてしまいそうになることに気付いていた。

そこで、Mさんは勉強に集中することで「全てを忘れよう」としたのであった。夜中まで食事もそこそこに勉強し、夜も更けヘトヘトになった頃、甘いもの・ご飯を満腹になるまで食べる。そうすると、何も考えずに眠りにつけるのであった。

自分が満腹になるまで食べ続け、ホッとすると入眠出来る。こんな毎日の繰り返しから、Mさんの体重は増加し続けた。夜中に始まる過食のために生活のリズムも崩れ、朝起床時の体調も気分も最悪であった。体重が増えたことで、人に会うことが怖く自分に自信が持てなくなり、下校後は自分の部屋で過ごすことが多くなり、友達とも距離が出来てしまった。

体重が増えることに嫌悪感を覚えるけれども、一日に一度思いっきり食べて、気持ちを満たし安心する行為は止められない。そう感じたMさんは、沢山食べた後、自分で口に指を入れ嘔吐するようになってしまった。

親への明るい口調の電話・授業・勉強への態度では申し分のないMさんの異変に周囲が気付いたのは、翌年の春であった。

嘔吐を繰り返し、体重が減少、体力消失。このため、登校できない日が続くようになり初めて、Mさんがここまで重症であったことが判明したのであった。摂食障害は、外では「いい顔」をしてしまう、頑張り屋なよい子が罹患しやすい。

外で自分を抑えて頑張った分、代償として「食べて」自分を満足させたり、あるいは「自分の体重を少しでも低くすること」で自信を取り戻したり、心の寂しさや哀しさを「食べる」という行為で満たし安定させたりするようである。Mさんのように、仕方のない状況ではあるけれども寂しさをひしひしと感じながら一人で海外生活をする若い世代の女の子では、特に注意が必要である。

治療のなかでは、家族・周囲の人達に現状を理解して、協力してもらうことが非常に大切である。海外にて一人で頑張り抜くことは、10代・20代の世代にとって貴重な経験であろう。と、同時に、こんな病気で心が「ギブアップ」のサインを出してくることもあるのである。海外に飛び出る勇気と、海外をいつでも諦める勇気、その両方を持つことがバランスの良い海外生活を続けるキーワードである。