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ニュースレター(機関紙)

海外巡回健康相談に参加して(パキスタン、バングラデシュ)
NL03080103
パキスタン、バングラデシュ、医療事情

産業医科大学  産業医実務研修センター副所長 織田 進
九州労災病院  整形外科部長 前川正幸
門司労災病院  看護師長 吉田眞理子


1. はじめに

 海外巡回健康相談事業が労働福祉事業団ならびに海外邦人医療基金によって毎年実施されている。今回、パキスタン(イスラマバード、ラホール、カラチ)およびバングラデシュ(ダッカ、チッタゴン)の2ヶ国5都市における海外巡回健康相談に参加したので、織田、前川および吉田の報告書をもとに、各都市の一般的状況および健康相談結果を主に報告する。

2.イスラマバード(国名 パキスタン)

1)都市別一般的状況
 イスラマバードは1960年に新首都として建設され、道路は整然と区画されており、高級住宅街は、大きくりっぱな家が並んでいる。馬車の乗り入れは禁止されており、自動車、単車などはそれほど多くなく、人口も首都にしては少なく感じた。ただし、交通マナーは悪く、事故には十分注意する必要がある。

 気温は、到着当日から40℃を超える暑さで、ホテルの廊下も蒸し風呂(34℃)のようであり、適時水分の補給を必要とした。

 マーケットについて、裕福な人や外国人が利用する店と一般の市民が利用する店を見学したが、食品は後者では買う気持ちにはなれなかった。

 宿泊したホテルは、Cape Grace Guest Houseであり、高級住宅街の中にあるが、冷水、温水の給水状態はあまり良くなかった。蚊はいなかったが、ゴキブリが徘徊していた。電源はコンセントが複数あるが、半分は差込が機能していなかった。また、コンピュータを使用時電気は安定して供給されており、問題はなかった。

 水質、水量ともに満足すべきものではなく、すべての相談者はミネラルウォーター、沸騰水、哺乳器用殺菌剤、浄水器を使用していた。

2) 健康相談結果について
 日本人学校で健康相談を実施し、尿検査の際、込み合い、臭いなどトイレに関する問題があった。

 日本人学校の児童・学童に脊柱側湾などの異常は認めず、1名高熱および頚部リンパ節が腫大あり、咽頭ないし扁桃炎と思われるが、現地の小児科医で診察を受けていた。今後も繰り返す可能性があることを告げ、のどの痛みや高熱発生すれば同医師に相談するよう指示した。その他、とくに重篤な疾患はなかったが、下痢など胃腸疾患(いわゆるパキ腹)が多い。多くは病院に行くまでもなく、市販の薬や日本から持参した薬で症状改善していた。

 蚊やゴキブリが多く、マラリアやその他感染症に注意する必要がある。ほとんどすべての日本人は予防接種を受けていた。小さな子どもはA型肝炎ウイルスのワクチン接種は必要ないと説明されており、多くの子どもは実際にそのワクチン接種を受けていなかった。

 日本人がよく利用するシーファ病院は、民間の病院で、裕福なパキスタン人が投資しており、日本からの支援はない。アメリカで修練した医師がいるが、看護師は十分教育を受けていない。現在200床であり、さらに500床の病棟建設中であった。腎臓移植ための設備や10台の血液透析の器械が装備されており、ICU,CCUも完備していた。一般の検体検査(尿,血液)、エックス線検査、CT等の検査に加え、近くMRが導入予定である。輸血は10%くらいが、献血によるものであり、B型およびC型肝炎ウイルス、HIVが検査されていた。医師と患者の関係は、以前の日本と同じで、治療をしてあげているとの考えが強く残っているが、日本人が利用できる病院としては最もソフト、ハード両方に優れていると紹介された。なお、日本人は友好提携病院のPIMSはあまり受診していないとのことであった。


3.ラホール(国名 パキスタン)

1)都市別一般的状況
 ここは、最高50℃近くにもなるとのことで、冷凍庫やエアコンが必需品であり、停電も多いことから、邦人家庭では自家発電を備えていた。マーケットは一般市民が利用するところと、富裕層が集まるスーパーマーケットを見学したが、野菜や果物は豊富にあり、食料品については外国製品も含めて何でも入手できる。

 治安に関して、日本人男性が空港近くで殺害された。犯人を逮捕した当局の話では、強盗に遭い、逃げる犯人を追いかけたとのことであるが、ほんとうの犯人を逮捕したのか疑問の声も聞こえてきた。

 イスラマバードに比較して、水量は豊富と思われるが、上水道と下水道がどのように整備されているのか不安に思っていた。まだ、水質問題は解決していなかった。上下水道管の破損で下水と上水が混ざり合うことや、水道管に小石や砂が混じり目詰まりするなどにわかに信じ難い話が聞かれた。

2) 健康相談結果について
 健康にはそれぞれ注意しており、とくに問題はなかったが、JICA関連の派遣で、日本の企業を退職されて赴任している方に高血圧が見られた。日本では経験しないストレスも多く、パキスタンに赴任後血圧が上昇することは十分考えられる。日本での健康診断で血圧が高めの方は、高齢者ではとくに注意する必要がありそうである。

ある企業では、日本人が1人で、回りは全てパキスタン人の従業員ということから、毎日の仕事上非常なストレスを受けることが伺えた。
盆地状の地形から高温と乾燥の気候に加えて、この時期風が凪ぐことから排気ガスが蔓延し、夜もエアコンを使用するため呼吸器症状が多かった。

 強い紫外線のもとでの生活のためか、前腕にしみの多いかたがおられ、将来の皮膚癌等の発生を考え、紫外線対策が必要と思われた。

 ラホールでは、予防接種をまったく受けてこない日本人がいることから、日本から派遣される前に、とくに健康診断時に指導すべきと思う。嘱託産業医や企業外労働衛生機関によるその重要性の普及に期待したい。

 ラホールでは、Akram Medical ComplexとDoctors Hospital & Medical Centerを見学した。13年前からすべての診療科を揃えている。ベッド数は35床と少ないが、30人の医師が勤務している。私立の病院で、15時から18時の間、有名な教授が診療しているとのことである。内視鏡は、必要があれば精密検査時のみ実施するとのことである。建物、医療機器が古く、室内も暗いため、日本人が受診するには、少し抵抗があるかも知れない。
 Doctors Hospital & Medical Centerは2年半前に開院した新しい病院で、建物は近代的で、内部も明るく、小児科の診察室には子どもをあやす本、おもちゃが数多く揃えてあり、壁の絵やペイントも子どもに好まれるものが選ばれていた。医師は全員アメリカまたはイギリスの各専門委員会の修了証を取得していた。16の診療科とICU,CCUを完備しており、心筋梗塞のバイパス手術が行われていた。訪問時も心臓の血管造影の教材ビデオを作成中であった。救急車を所有しており、24時間体制で急患を受け付けていた。現在120床であるが、近く300床に増床予定である。看護師の教育はイスラマバードの病院より良いように思えるが、医学に関する知識や技術は不明である。また、歯科はなかった。

 健康相談者との懇談の場でも、パキスタンの医療にはまだ不安を抱いていた。例えば針、点滴セット、輸液など、とくにパキスタン製のディスポも信用していない。これらは今回の病院訪問でも確認できなかった。日本からディスポ製品を持ち込むことも必要と考える。

4.カラチ(国名 パキスタン)

1)都市別一般的状況
 イスラマバード、ラホールと比較し、人口が多い。交通事故など特に注意しなければならない。日本人はほとんど運転することはなく、現地のドライバーを雇っている。しかし、事故が発生すれば、相手の保障能力は期待できない。
雨が少なく、水環境は非常に悪い。ホテルの水道も濁っており、歯磨きもすべてミネラルウォーターを使用した。バスタブの水も濁っているため、浸かるのも躊躇された。

マーケットを見学したが、ハエの多さには驚いた。魚は冷凍したものはなく、氷の上に置かれていた。漁船にも冷凍設備がなく、漁港に入った時にすでに鮮度が落ちており、野菜は、きゅうりなど皮を剥いて食べるものは問題ないが、レタスなどは寄生虫の感染の危険から生では食べないとのことであった。

 日本車は人気があり、盗まれるとのことである。実際、日本商社の車が2台盗まれていた。

2) 健康相談結果について
 医務官(小児科医)に子どもの健康上の問題をよく相談していたためか、子どもに関する相談は少なかった。風邪やインフルエンザなど集団感染症が原因で休校になることはない。また、1名の受診者から予防接種の効果について疑問視しているとのことであった。

 足白癬など皮膚科疾患の相談があった。また現地の学校に通学する子どもに頭シラミの発生があった。

 マンゴーはうるし科のため、食べたあと口唇などが腫れることがある。従来より、蕁麻疹が出ていた受診者は、原因は不明であるが喉頭浮腫を起こし、救急病院を受診し、副腎皮質ホルモンと思われる点滴を受けて改善した。

 海に近いこともあり、風も強く砂などを舞い上げており、空気は排ガスによっても汚染されている。喘息や気管支炎には十分注意する必要があると思う。

 プールの水はあまりチェックされておらず、子どもはゴーグルをして泳いでいたが、眼の感染症など問題になったことはないとのことであった。

 高温多湿のためか、皮膚疾患が多い印象であった。また、ゴルフなど野外のスポーツで熱中症にも注意する必要がある。

 腎結石の経験者は、現地の医師の指導もありカルシウムの少ないミネラルウォーターを飲用していた。

 カラチでの、薦められる病院としては、アガカーン病院がある。企業によっては、日本からの医師がアガカーン病院を訪問し、その評価で医師のレベルについては日本の標準に達しているとの事であった。

 日本人会のある都市では、企業からの派遣者は横の繋がりが強固である(例えば、ゴルフ大会や夕食会など)が、パキスタン人と結婚している日本人女性はそのようなお付き合いがない。このため情報交換が難しく、近くの医師または病院を受診しており、診療に対する不安が大きい。

 現地の妊婦健診では、日本と指導が異なり、運動など一切禁止されているとの事であった。

5.ダッカ(国名 バングラデシュ)

1)都市別一般的状況
 空港からホテルまでの景色はスラムなど貧しいバングラデシュを思い起こさせるものであり、排水が悪いためか側溝には汚水が溢れ、周囲にはごみが捨ててあった。蚊の発生はまだ最盛期でないそうであるが、健康相談を実施した学校ではすでに蚊が見られた。
カラチから到着して、雨季になっていたこともあり、暑さはそれほどでもなかった。風も適度にあり、思ったより過ごし易かった。クーラーもパキスタンより効きが良かった。

 水は豊富で、ホテルの水もパキスタンのように濁っていることはなかった。飲み水はミネラルウォーターを使っているが、歯磨きなどは水道水を利用している日本人もいた。

 交通事情は非常に悪く、車、ミニタクシー、リキシャ、オートリキシャ、バスなどが混在して流れているのには驚かされた。多くは信号が機能しておらず、どのようなルールのもとに運転しているのか不思議であった。それでも事故に一度も遭遇しなかった。オートリキシャの燃料をガソリンから天然ガスに変更し、市内の空気はかなり改善したとのことである。しかし、車のクラクションによる騒音公害が問題となっており、新聞によるとダッカで大きな病院であるBSMMUHとBIRDEMにおける入院患者の睡眠を妨害しているとのことである。なお、病院は夜の10時ごろまで開いている。

 かなり長い停電も経験した。ホテルでも停電は覚悟しておく必要がある。

 ダッカ空港では、国内線と国際線との間にはまだ通路がなく(すでに連絡通路建設の予定あるそうですが)、一度外に出なければならない。

 バングラデシュに着いて、最初に経験したのはハルタル(hartal)というストライキであった。一般に急に決まり、連休になるように木曜日に実施するそうである。我々もこのため、一部健康相談の日程の変更を余儀なくされた。ハルタルの時は日頃おとなしいバングラデシュ人も群集で行動することがあり、最近2年以内に2~3件の自動車に対する投石事件があった。車でそのまま通り過ぎた場合はそれだけで終わったが、停止したものは現地の人々に取り囲まれたとのことである。危害を避けるためには、車を停止すべきではないと思われる。また、ハルタルというゼネストが突然発生することから、スケジュールの変更を余儀なくされることを覚悟しておく必要がある。

2)健康相談結果について
 ダッカでは、日本に留学し、日本語の話せる医師がいるため、受診者の方はあまり健康に対して不安をもっていなかった。
日本で湿疹の治療を受けていたが、当地でも続いており日常の注意(例えば、水を扱う時手袋を使用するなど)また感染症の合併に注意する必要がある

 こどもの健康相談では、学校医の記録があり、身長体重などの経過、視力の変化など参考になった。

 バングラデシュで初めて、自営業の日本人にお会いした。ストレスが多いためと思うが、高血圧がみられ、昨年より増悪していた。頭痛など自覚症状もあり、日本にー時帰国して精密検査を受ける必要がある。

 空気が悪いため、呼吸器の疾患が多いが、パキスタンに比較し下痢を訴える受診者は少なく、日本から持参した下痢止めを内服する程度で改善していた。

 医務官のお話では、デング熱、腸チフスなど日本人にも感染者がいるとのことであった。新聞によると、当局は、蚊の幼虫や成虫を殺す薬剤が十分確保できないことから蚊の駆除計画を延期し、デング熱のサーベイランスを、理由は不明だが、中止していた。これからプールや水溜りが蚊の大量発生場所となり、また、民家の中や周囲にも蚊が発生することから、今年のデング熱の脅威が指摘されていた。

 日本では花粉症に悩まされた受診者も、バングラデシュでは発症していないが、皮膚病変を発症していた。

 NGOの日本人はA型肝炎に罹患し、現地の病院に10日ほど入院して、日本に帰国したとのことであった。数名のNGOの日本人が受診したが、全員予防接種をしておらず、現地の人々と同様の食生活をしていることを考えると、日本で予防接種を済ませておくべきである

 ダッカにはヤマガタ・バングラデシュ病院とアイチ小児病院に日本に留学した医師がいるため、日本人にとって受診しやすいと思われる。歯科についても、受診しやすいとの意見であった。病気の場合、バンコックの病院を受診する相談者もいた。

6.チッタゴン(国名 バングラデシュ)

1) 都市別一般的状況
 新しいチッタゴン空港(日本の建設会社が建築)から市内への道路は、ダッカと違い緑の多い田舎の風景であった。またしばらく車を走らせると大きな港があり、沢山の船が寄港しており、街は活気があった。また、市内の幹線道路は、ダッカよりごみも少なかった。

 パキスタンでは、ごみの中に多くのビニール袋があり朽ちないため街を汚していたが、バングラデシュでは、ビニール袋の使用を最近禁止したそうである。

 何でも揃うという4階建のマーケットを紹介してもらったが、雑貨、衣類・生地、宝石、電気製品の階などに分かれており、夕方には賑わうそうである。ダッカの町のマーケットよりきれいに維持されていたのが印象的であった。

 停電は頻回にあるようですが、一度も経験しなかった。

2) 健康相談結果について
 家族を帯同している日本人が少なく、子どもの相談者はいなかった。チッタゴンの日本人会の方々は、非常にお付き合いが多く、全員が同一地区に住んでおり、日頃から夕食、ゴルフ、カラオケ、マージャンなど息抜きをしていた。単身赴任の日本人にとっては、ストレスを貯めないために、とても良い環境と思った。

 ほこりが多いこともあり、目薬の希望があったことから、抗生剤入り目薬に加え、洗眼用の薬が必要と思われた。

 たばこは安く、喫煙者が阻害されるような環境ではないことからも喫煙者が多く、毎年の健康診断で胸部レントゲン写真の必要性を感じた。

 下痢をしても、日本からの下痢止めで改善していた。高血圧症、糖尿病など生活習慣病を治療中の方がいたが、日本から継続的治療薬の入手に苦労されていた。一方、帰国回数の多い人では年3~4回あり、帰国時に処方してもらっていた。

 予防接種を受けていない方が数名おられた。今のところ大きな病気に罹っていないが、長く滞在する場合、予防接種の必要性を感じた。

 会社を経営している相談者は、現地の従業員から個人的に給料の値上げ交渉をされたり、慰安の為の行事をすると非常に喜ばれるが、疲れたから翌日休暇を要求されることがあったりと、日本人には馴染まない性格がストレスになることもあったとのことである。また、経営に関しての当局との交渉でも、正確なルールがないため苦労するそうである。

 現地の病院を利用している人はいなかった。街から1時間の所に、日本人医師が1名派遣されていたが、最近帰国された。後任の医師はまだ決まっておらず、継続的に医師を確保するのは、至難のことと思う。

7.おわりに
 今回、5都市を巡回して共通していたが、大企業より派遣されている邦人や政府関連の仕事をされている邦人に関しては、巡回相談で我々がお役に立てる場面は少なかった。

 日本人会の方々やパキスタン人と結婚されている日本人女性から、お仕事や日常生活上の習慣などを聞き、帰国して「イスラームの日常世界」(片倉もとこ著岩波新書、1991年)を読んでみたが、出発前に予備知識としてあればもっと良く理解できたであろうと後悔している。