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ニュースレター(機関紙)

英国ロンドンで実施した歯科医療相談会について(3)
NL03060103
ロンドン、歯科医療、医療事情

東京大学医学部国際地域保健学教室
三上ゆう子

ヘクター(Hector)家のおやつに関する条例

むし歯を作る原因は、糖分とミュータンス菌です。ミュータンス菌は「むし歯菌」と表現されることもあります。この菌は、糖分を栄養として酸を生成しますが、この酸がものすごい強酸で、歯の表面を覆う硬いエナメル質の層を溶かして歯に穴を開けるのです。逆に糖分を全く食べなければ、歯みがきやうがいをしなくても決してむし歯はできません。

ロンドンでの歯科医療相談会では、多くのお母様とお話しする機会がございましたが、歯みがきについてはとても関心が高い反面、砂糖やおやつについてはさほど気にしていらっしゃらない様でした。これは日本人の食事-和食を中心とした-が、特に気を使わなくても健康的だからでしょうか?現地イギリス人の食卓には、ジャムやらチョコレートバーやらがあふれていますからね!

お子様がまだ小さいうちは、おやつにもお母様の目を光らせておくことができますが、幼稚園・小学校と進級してくると監視の目が行き届かなくなるせいか、むし歯が増えてきます。でも、おやつを全く食べないという生活は考えられません。そこで、お子様とはおやつのルールを決めておいてはいかがでしょうか。

ここで、一例としてヘクター家の「おやつの取り決め」についてご説明しましょう。ロンドンにある歯学部(Queen Mary’s School of Medicine and Dentistry)小児歯科学の教授、マーク・ヘクター(Mark Hector)は、子供の歯科保健に関する私の共同研究者ですが、小学校高学年の長男を筆頭に3人の男の子のお父さんです。

ヘクター家の男の子たちは、それぞれ自分専用の「お菓子専用箱」を持っています。一緒にお買い物に行って買ってもらったお菓子や、頂き物のお菓子はとりあえずその場では食べないでその箱にしまいます。そして、毎週土曜日のお昼ごはんの後、その箱から“好きなだけ”お菓子を食べて良いことになっているのです。平日のおやつは?というと、冷蔵庫にいつもお腹を空かせた彼らのために果物が用意されていて、いつでも勝手に食べられます。「お菓子の日」には毎週土曜日以外にも例外があり、クリスマスや誰かの誕生日、また田舎のおばあちゃまが訪ねてきた日などもそのお菓子箱を開けることが許されています。私が彼らのお家にお呼ばれした日は日曜でしたが、ユウコが遊びに来た特別な日ということで、お菓子箱を開けて良いことになりました。


お菓子は食事のすぐ後で召し上がれ

砂糖の添加されている“おやつ”、つまりお菓子の与え方で大事なことは、あげるタイミングです。お菓子を1日に何度も食べたり、だらだら時間をかけて食べるとむし歯になりやすくなるという知識は、うれしいことに多くの方に知られる様になりました。

つけ加えて、むし歯を防ぐという観点からですとお菓子は食事と食事の間、いわゆる「おやつの時間」に食べるより食事の後すぐ食べる方が良いのです。その理由は、食事の直後は(お菓子以外の)食べ物がすでに口の中にあり歯に直接糖分が触れにくく、また、だ液もたくさん出ているからではないかと考えられています。一方「おやつの時間」にお菓子を食べると、からっぽのお口にいきなり糖分が入ってくることになり、ミュータンス菌にとって好ましい(歯を溶かしやすい)環境となります。また、食事の後だと、お腹が空いている時に比べてあまり量を欲しがらないのも安心です。


シンプル・ブラッシングのための3つのコツ

相談会には、小さなお子様をお持ちのご両親様が多かったせいか「子どもが嫌がって歯みがきをさせてくれない」「ちゃんとみがけていない様で不安」といったご相談が多くございました。でも、実際にお口の中を見てみるとたいていはむし歯もなく、歯もきれいにみがけていました。乳歯は、永久歯に比べて小さく、きれいに並んで生えています。大人が永久歯をみがく様に丁寧にあっちこっち歯ブラシを動かしてみがかなくても、十分きれいになります。時間をかけ過ぎて子供が歯ブラシが嫌いになるより、雑な様でも手早く終わらせてあげましょう。そんなシンプル・ブラッシングのコツは、次の3点です。

1. 膝に子供の頭を乗せて寝かせ、子供の顔を真上から見る(この姿勢だといちばん見えにくい上の奥歯まで見えます)

2. 奥歯のかみ合わせの面、上の前歯をとりあえずみがく(むし歯ができやすいのはここ!ここをきれいにしておけば、歯みがきの途中で子供が逃げ出しても安心)

3. いつも新しい歯ブラシを使う(毛先が開いた歯ブラシではブラッシングの効率が悪くなります。セールで安い歯ブラシをまとめて買っておきましょう)

「歯みがきをするといつも子供が泣いてしまうんです」というお母様方、この仕上げみがき法だと乳歯はものの3秒できれいになります。お子さんの目から涙が落ちる前にもう終わってしまいますよ。
 この連載の1回目でも書きましたが、歯みがきで最も大切なことはフッ素入りの歯みがき剤を使うことです。お子様に最初の歯が生えてきたら、早速フッ素入り歯みがき剤をほんの少量つけてブラッシングをしてあげて下さい。


妊娠期間中に注意しておきたいこと

「子供をひとり産むたびに1本歯を失う」と昔は言われたものです。現代では歯を失うほどひどく悪くする女性はいませんが、妊娠期間中に歯のトラブルを生じやすくなるのは本当です。海外にお住まいの間は、日本と比べ、歯科を受診しにくい状況でしょうし、受診するまでに時間がかかることもあるでしょう。そこで、特に注意しておいてほしいのは、つわりと妊娠性歯肉炎です。つわりは、症状の重い場合、嘔吐することもあります。嘔吐した後はすぐに歯ブラシで歯をみがかないで下さい。嘔吐物には強酸である胃液が混じっていて、歯の表面のエナメル質を一瞬溶かしてしまいます。傷んだエナメル質にブラッシングをするとますます傷がついてしまいます。嘔吐した後は、うがいをしっかりして下さい。しばらくすると、唾液に含まれるカルシウムが傷んだエナメル質に沈着して修復されます。また、水だけでのうがいではさっぱりしない時や嘔吐が頻繁に起こる時は、市販の(お口の)うがい薬でフッ素入りのものを使用して下さい。エナメル質がより早く修復されます。

 妊娠による歯肉炎は、多くの妊婦さんに見られる様な気がしますが、症状が軽く気づかない妊婦さんも歯肉が真っ赤に腫れてしまう方もいらっしゃいます。私も妊娠中のある朝、歯肉が赤く腫れて痛みまであり、鏡の前でびっくりしたことがあります。この歯肉炎は妊娠によってホルモンバランスが変化することによって起こると言われています。できれば歯医者さんで歯石を取ってもらい、歯と歯肉の間をていねいにブラッシングすると歯肉の腫れは軽減します。なお、自分の体験ではずいぶんきれいにしていても症状が全くなくなったわけではなく、出産するまでずっと多少の腫れと出血がありました・・・。
 今回の相談会を実施したイギリスでは、妊娠期間中と産後は歯科治療が原則無料です。妊娠中の母体を考慮した素晴らしいサービスです。現地にお住まいの妊婦さんは、ぜひ受診してみましょう。


(編集部より)
三上先生は大和日英基金の助成により、今年2月に5日間に渡りロンドンで英国在住の邦人の小児を対象に無料の歯科医療相談を行ってきました。
その時の様子や印象、これからの対処の仕方についてまとめてもらいましたので、3回のシリーズでお届けしますが、今回はその最終回です。