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ニュースレター(機関紙)

英国ロンドンで実施した歯科医療相談会について(1)
NL03040104
ロンドン、歯科医療、医療事情

東京大学医学部国際地域保健学教室
三上ゆう子


本年2月18日から2月22日にかけて、英国ロンドンにおいて在英日本人児のための歯科医療相談会を実施しました。 Blomley、Central、Finchly, 日本クラブの各会場を訪問し、82組のご家族様にお会いすることができました。

Finchly地区会場は、予想をはるかに上回る方にお越し頂き、予定時刻より早くに受付を終了してしまいまして、みなさまには大変ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。Finchly会場には、Royal London Hospital小児歯科教室のDr.Nina Dollanが、その他の3会場には同じ教室のDr.Helen Liversidgeがそれぞれ同席し、英国人歯科医師の立場でご質問にお答えしました。

ご両親様から寄せられた相談内容を振り返ってみますと、日本とイギリスの歯科医療に対する考え方の違いが浮かび上がって見えてきます。私、Dr.Liversidge、そしてDr.Dollanにとって、ご両親様のお話を伺うまで気がつかなかった点もいくつかありました。私たち日英の小児歯科医も、参加されたみなさま方から大変勉強させて頂きました。

泣く子は治療できない英国

イギリスで小さいお子様を歯科に連れて行かれても「もっと大きくなったら来て下さい」と言われてしまうことがあります。ご両親様としては「できるだけ早いうちに受診した方がむし歯にならなくてすむのでは?」と思われることでしょう。これは、子供の人権を守るため、という理由で泣いている子供を無理矢理治療してはいけない、というイギリスの規則に関係がある様です。

日本では、治療しなくてはならない虫歯があると、歯科医は子供が多少泣いたり騒いだりしても体を抑えてとにかく治療しようとするでしょう。イギリスの診療室にこの様な子供が来ますと、歯科医や歯科衛生士が治療する道具に慣れさせたり、治療内容を説明したりして泣かさない様努力しますが(もちろん日本の歯科医もしますよ)、それでも上手くいかないことがあります。子供が騒いでしまうとそこで診療を中止しなくてはいけません。そのため、一般の歯科医院では、小さい子供を積極的に診察しようとしないのかもしれません。でも、哺乳びんがなかなか止められない、ジュースやお菓子をよく食べる、などむし歯になりやすいお子さんは、早めに歯科にかかっておいた方が良いと思います。

今回の相談会の結果からは、ほとんんどの小さなお子さんにはむし歯は見られませんでした。ところが、粉ミルクを哺乳びんで飲む習慣が長引いているお子さんには、乳歯が生えそろっていないうちにむし歯ができていました。もし、大人がかかっている歯科医院で診てもらえなければ、子供を専門に見る小児歯科医(Paediatric Dentist)を探してみましょう。お住まいの地域のCommunity Dental Service、または「小児歯科」で開業している歯科医院に行ってみてください。Health Visitorに聞いてみるのも良いでしょう。

Community Dental Service:学校検診や小児・障害のある方への歯科医療を行う機関。イギリス国内には各地域ごとにあります。

Health Visitor:妊婦や乳幼児などがいる家庭を訪問し、医療に関する相談に乗ったり、助言を与えたりする人。

フッ素を塗るのはもう古い?

むし歯を予防するのにフッ素という成分がよく効く、とご存知のご両親様もだんだん増えてきています。「外国で子供にむし歯ができたら、治療は日本にいるとき以上にずっと大変」と、歯科医院へフッ素を塗ってもらいにお子様を連れていらっしゃる方が何人かいらっしゃいました。

ところが、むし歯予防に日本よりずっとうるさいはずの英国の歯科医が「このお子さんはフッ素を塗る必要はありません」と言う場合があるのです。なぜでしょうか。それは、英国で販売されている歯みがき剤と関係しています。

英国のスーパーやドラッグストアで並んでいる歯みがき剤には、まずフッ素が含まれています。そして“フッ素入り歯みがき剤使用キャンペーン”が長年行われてきました。そのため、最近では歯みがき剤を毎日つけて歯ブラシしているのであれば、むし歯予防に必要なフッ素が摂れているため重ねて(歯科医院で)フッ素を塗らなくてもいい、との考えが主流になってきています。それに、歯科医院で使用するフッ素は味が悪いので、小さいお子さんが歯科を嫌う原因をわざわざ作らなくてすみます。ただし、哺乳びんがなかなか止められないなどむし歯になりやすい場合、また歯みがき粉の味を嫌って歯ブラシにつけさせないお子様は、歯科医や歯科衛生士に説明してフッ素を塗ってもらうと良いでしょう。

フッ素入り歯みがき粉を使う時に1つだけ注意する点があります。1度に歯ブラシにつける量を厳密に「小指の先」くらいの少量にして下さい。イギリスのクリニックなどではpea-sizeという言い方で説明を受けます。永久歯(大人の歯)が生え揃っていない小さいお子様がフッ素を過剰に摂り過ぎた場合、まだ顎の骨の中にある永久歯に“斑点”ができることがあるからです。歯がお口の中に生えてからはフッ素を摂りすぎてもこの斑点はできません。ですから、小学校ご入学頃までが気をつけてあげる一つの目安でしょう。

ところで、日本国内で売られている歯みがき粉は、フッ素の入っていないものも多くありますので「フッ素入り」という表示を探してみて下さい。

むし歯の治療に全身麻酔?!

「イギリスでは、むし歯の治療のために全身麻酔をすることがあるって本当ですか?」というご質問を受けました。日本人の感覚からすると信じられないかもしれませんが、本当なんです。

イギリスでは、あまり協力的ではないお子様―つまり泣いたり騒いだりしてしまう子供の体を抑えて無理矢理口を開けさせるのは認められていないため、緊急で治療が必要な場合には全身麻酔をかけて治療をすることがあります。日本でも、診療中にどうしても体が動いてしまう様な障害のある患者様に全身麻酔をして治療をすることはありますが、非常にまれです。イギリスでは、今まで開業医でも日本に比べるとずっと頻繁に全身麻酔を行っていました。

ところが、小児への全身麻酔は事故が多いということが指摘され、最近になって普通の開業医では全身麻酔を認められなくなりました。それに伴い、歯科治療のための全身麻酔の件数は激減しました。開業医で治療できない時には、患者はCommunity Dental Serviceや大学病院に紹介されることになっています。

(編集部より)
三上先生は大和日英基金の助成により、今年2月に5日間に渡りロンドンで英国在住の邦人の小児を対象に無料の歯科医療相談を行ってきました。
その時の様子や印象、これからの対処の仕方についてまとめてもらいましたので、今後3回のシリーズでお届けしたいと思います。