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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(4)「海外赴任者のストレス...こんな症状がよくある(2)」
NL03030103
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

会社員のCさんは、自ずから海外勤務を希望して、昨年4月より家族帯同(妻・子供2人)でシンガポール駐在となった。当初は、妻が海外赴任への不安を強く訴えていたが、シンガポール生活が落ち着いてくると、妻は友人も増え、趣味の習い事や子供の活動に参加するなど充実した毎日を送るようになっていた。このころから、Cさんは自分が簡単なことでイライラするようになったことを自覚し始め、自分の家族に対しても、部下に対しても小爆発を繰り返した。

仕事は順調で、日本よりも通勤時間が短く、家族との時間も以前より長く取れるようになり、平和なゆとりのある生活ではあったが、単調な気分が続いていた。色々なことに挑戦もしてみた。ショッピングセンターを歩いたり、日本のドラマを見たり、ゴルフを練習したり、友人を誘って飲みに行ったり。本当に色々なことをチャレンジしてみたけれども、なかなか自分に合った世界を見つけることが出来なかった。

こんなある日、突然Cさんの全身にかゆみが出現した。仕事上の大きな取引も迫っていたので、皮膚科を受診したが、各種投薬にても症状は一進一退、かゆみのために睡眠不足になる日もあったため、皮膚科医の勧めにより心療内科受診となった。

Cさんは、心療内科に初めて足を運んだ日に、「皮膚科の先生に勧められてきました。ほんとうに、この症状は心療内科なんですかね?」と、半信半疑どころか、「心療内科なんかどうして受診しなくはいけないのか?」と不満が一杯の様子であった。

Cさんの置かれた精神的状況を共有し、Cさんの夢と現実の溝、単調な生活と、焦燥感、妻の充実ぶりからはほど遠い自分の生活、取り残された感じや自分の存在の希薄さ、いろいろな感情の波を理性的に分析することで、現在の状況とCさんの症状とがつながるようになると、「訳も分からずイライラする」ことは少なくなった。少量の投薬で、かゆみのコントロールがつくようにもなったが、実際にCさんの症状が完治したのは、これから、もうしばらくしてからであった。

それは、Cさんが子供のサッカーチームを手伝うようになり、週に一度、思いっきり大声を出し、走り、思いっきり汗をかき、練習後には、シンガポール人のお父さん達と、たわいのない話で盛り上がれるようになった頃であった。

前回、心のアンバランスから生じる色々な症状を列挙したが、実際に、診療所を訪れる患者さんの症状は、様々である。心療内科の診察室では、投薬やカウンセリングだけでなく、患者さんにゆっくり自分と向き合う場所、自分の考えを傾聴される場所、自分の精神的葛藤を口にする場所を提供する役割も大きいのである。

症状に対する答えは、患者さん自身の心の中にある。医者は、その答えを見つけ出す伴走者でしかない。