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ニュースレター(機関紙)

海外巡回健康相談に参加して(マレーシア・スリランカ)
NL03020104
マレーシア、スリランカ、医療事情

神戸労災病院
山本 正博

1.はじめに

 海外巡回健康相談事業が労働福祉事業団ならびに海外邦人医療基金によって毎年実施されています。今回、コタキナバル・ペナン・イポー(マレーシア),コロンボ(スリランカ)の2カ国4都市における海外巡回健康相談に参加の機会を得ることができましたので、その相談内容と海外勤務者の健康管理上の問題点等について若干気づいたところを述べさせていただきます。

2.都市別一般的状況

 マレーシアは、日中の気温は年間を通じて25℃から32℃、とくに10月から2月にかけては雨が多く、つねに高温多湿です。水たまりに蚊が発生しやすく、熱帯特有の感染症が発生しやすい環境にあります。

 コタキナバルは、日本からの直行便もある東マレーシアの玄関口。これまで木材の輸出で日本の商社も多く進出しており在留邦人も多かったようですが、最近は自然保護の観点から木材の輸出が禁止されたために多くの日本企業が撤退をしています。在留邦人の数は現在は150人程度です。治安や衛生環境は良く、マリンリゾートや国立公園など自然環境も恵まれています。

 ペナンは現在マレーシア第2の都市で、東南アジア指折りのリゾートアイランドとしても有名。日本の大手企業も多く進出しており、在留邦人の数も1000人以上と多い。観光や退職後の悠々自適の生活にこれからも在留邦人の数は増えていくものと思われます。市内には検査設備の整った総合病院が複数あり、またこれらの病院には日本語の通訳を常駐させるなど、医療環境もよく整備されています。

 イポーには約40の日本企業が工場をもっているということですが、管理者としての日本人がいるのみで、その数は約150人程度です。そのため、比較的中高年の単身赴任者が多いようです。日本人学校が当地にはないこともあって子供が少ないことも特徴です。子供の教育の問題から家族はペナンに住んでイポーに単身赴任という例もみられます。

 スリランカも年間平均気温は26℃を越え,平均湿度は70~80%と高温多湿な熱帯性気候です。コロンボでは、いまでも市内や空港は軍や警察による厳重な警備が続けられています。高速道路はまだ建設されておらず、市街地でのとくにラッシュ時の交通事情は凄まじいものとなっています。在留邦人の数は約500人。車の運転は日本人には困難で、誰もが現地の人に運転をしてもらっているという状況です。

3.巡回健康相談結果について

 今回の巡回における健康相談件数はあわせて400人弱でした。それでも昨年よりは若干数増えたということです。全体的な印象は、現地での生活に満足しているという人がほとんどです。脳出血後片麻痺がありながら、現地で在宅リハビリを行いながらの生活を楽しんでおられる方、日本では重篤なアトピー性皮膚炎や気管支喘息に悩まされていた子供が、ここにに転地してからはずっと調子がよいという話も聞かれました。

 健康診断や、一般的な疾患の治療に関しても、概して現地での医療が受け入れられており、その内容に関しても特に大きな問題は感じられませんでした。しかし、現地の病院やクリニックで健康診断結果についての理解は十分でなく、今回の健康相談に意見を求めてこられる人が少なからずありました。

 一方、やはりここでも肥満や高血圧、高脂血症、高尿酸血症などいわゆる生活習慣病ないしはその予備軍の多いことが注目されました。毎年1回は健康診断を受けているにもかかわらず、今回の検診ではじめて尿糖陽性や高血圧を指摘されたという人も何人かおられました。海外勤務者ではとくに現地での生活様式の問題や食生活の変化などからその危険性はより大きいと思われます。

 この地方では1年を通して高温多湿であることから、蚊によって感染する病気、とくにデング熱には感染の機会はかなり高いと思われます。とくに長期に滞在するとデング熱には必ず複数回は罹患すると聞きました。しかし、その他の熱帯地方特有の感染症や風土病に罹患して問題となっているという印象はあまりありませんでした。

 例年にならい今回も簡単な汎用医薬品を若干数持参しました。希望が多かったのは、成人・学童ともに、感冒薬とトローチやうがい薬でした。このあたりでは屋内の冷房を利かしすぎる習慣があって、屋外との温度差が結構激しいことから呼吸器の障害がおこりやすいものと思われます。

 また、限られた娯楽または運動としてゴルフ場や山登りに出かけることが多く、そこで手足などの露出部を虫に刺されることが多いようです。このため痒み止めや湿疹の外用薬の希望も多いものでした。その他、下痢症状に対して整腸剤、肩凝り・頚部痛・膝関節痛に対して湿布や消炎鎮痛剤などでした。

 現地の病院、診療所からだされる処方は、常用量として日本人には多すぎると感じておられるようです。マレーシアやスリランカの医師の臨床研修は多くは英国でなされており、外人の常用量が適用されているためと思われます。コロンボでは、大抵の内服薬は市街の薬局で簡単に手に入りますが、安価なインド製のものが出回っていて、剤型が大きく飲みにくいうえ効能が同じか不安であると感じておられるようでした。

4.在留邦人の問題となる疾病等について

 現地の病院やクリニックは、言葉の問題もあって不安はあるものの、それでも健康診断や、感冒など簡単な症状に対しては、よく信頼され利用されているようです。しかし、手術を受けるとなると現地では心配だという人が圧倒的に多いのは当然のことでしょう。

 実際、胃の病気になり手術を日本に一時帰国して受けた方がおられましたが、術後の定期検診と内服薬継続という新たな問題から、近々日本に引き上げる予定であるという話を聞きました。手術を必要とするような病気になった場合には、手術は日本に一時帰国して受けても、術後、同じように現地での生活を続けていくことは困難になる場合があるものと思われます。

 また、重大な病気をかかえているあるいは疑われる場合に、一部ではあると思われますが、むしろ医療機関への受診が遅れている傾向がみられたのは大きな問題です。心臓の手術を日本で受けてこられた方で、最近不整脈があるものの検査は日本に帰ってからかかりつけ医に受けたいというケース、急性膵炎の既往があるにもかかわらず飲酒を続けておられる方、慢性肝炎の既往のある方、血便あるいは空腹時痛など深刻な症状を自覚している方、いずれも検査は今度日本に帰った時にと考えておられるために医療機関への受診が遅れています。

 運動不足と過食による肥満や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の予防と対策は、ここでも最も重要な事項です。すなわち、生活習慣病に対する認識と生活管理が十分に行われていないということです。とくに中高年者の単身赴任者では、外食が多く毎日飲酒しており、自動車による移動、運動は休日にゴルフ程度という生活パターンが大きな問題と思われます。アルコール性肝障害に対する認識と節酒も十分に行われていないように思われます。

 若年層の家族帯同の赴任者では、育児をかかえる母親が一様に不安を抱えながらの生活をしておられるようです。

 夫は仕事で常時不在、家事は雇いの現地人、友達に出会うにも車で遠方までいかねばならないなど、海外での生活様式に慣れないことがその原因と考えられます。また、学童をかかえる赴任者では、高校進学など教育の問題についての深刻な悩みがあります。

 日本の母子手帳と現地での予防接種計画との違いに対してもとまどいを感じておられます。乳幼児の定期的な予防接種をシンガポールまで出かけて受けている人もありました。また、生理痛や不妊で悩んでいたり、閉経後の不定愁訴を訴えられる人も多く、婦人科検診が必要ですが、ほとんどの人が日本に帰ってからと考えておられるようです。

 マレーシアでデング熱が流行しているという海外安全情報がありましたが、今回、マレーシアではこれに関する深刻な話は聞かれませんでした。

 しかし、コロンボではデング熱の発生が依然多く、長期に滞在すると何度も罹るということでした。とくにデング出血熱に罹った場合には死亡することもあり、しっかりした医療機関で適切な治療を受ける必要があります。

 コロンボの病院では、デング出血熱で血小板が減少すると安易に輸血をすると聞きました。マレーシアの各都市とコロンボの健康相談で気になったのはこの輸血の問題です。輸血はまだ主に全血輸血が行われており、その管理は個々の病院にまかされているため一律に十分なチェックが行われているとはいえません。現地で輸血を受けることはできるだけ避けた方がよいと思われます。

5.おわりに

 以上、今回のマレーシア,スリランカ2カ国4都市における海外巡回健康相談を通して、発展途上国における在留邦人の健康管理上のいくつかの問題点が明らかになったものと思われます。熱帯地方特有の自然環境と発展途上国の衛生環境からなお感染症対策は最も重要な事項であることはいうまでもありませんが、食生活の変化や運動不足からくる生活習慣病に対する対策も深刻な課題であり、定期的な検診体制の確立や生活習慣病に対する予防医学の普及が急務であると思われました。