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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(3)「海外赴任者のストレス...こんな症状がよくある」
NL03020103
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

人間の身体的適応能力は、本当に素晴らしいと思う。暑さの厳しい熱帯地方から、寒さの厳しい冷帯地方、果ては、南極にても生活を営むことが可能なのである。

海外赴任にあたっては、その過程で生じる身体的適応に比して、精神的適応というのは、もっと力動的な変化をするようである。海外赴任前後から必ず、精神的な揺れが始まって、揺れ幅がだんだんに小さくなって、安定した状態に落着いてゆく、イメージである。

「日常的な生活や与えられた仕事をテキパキとこなし、適度な充実感に満たされながら、余暇を自分らしく有効に利用し、気持ちの切り替えが出来る状態」これを理想の安定状態とすると、新しい赴任地でこの状態に至るには時間が必要である。

実際には、色々な出来事に翻弄され、体も心もあっちへ行ったりこっちへ行ったり、大忙しになる。こんな時に「自分は頑張っているのに、うまくいかない。」「みんなはうまくやっているのに、自分だけうまくいかない。」「自分だけ楽しめない。」といった挫折感を感じることもあるであろう。

こんな気分や疎外感が1ヶ月以上続くようだったら、これは心の重要なサインだと思って欲しい。

また「どうしてうまく仕事がはかどらないのだろう?」「日本だったらこんなこと絶対ないのに。」「日本だったらこんな返事は絶対返ってこないのに。」「日本だったら…」と、全ての事柄を日本の状況と比較して、自分がイライラしている状態が長く続くときも要注意である。

これがひどくなってくると、「この国にはもう居られない。」「日本に帰りたい。」と、郷愁に駆られることとなり、生活を楽しめなくなってしまう。

精神適応の負担が、身体症状として出てくることもある。

不眠・朝起きても疲れがとれていない・過眠(いくら眠っても疲れている。いくらでも眠れる)・食欲減退・胃部不快感・ストレス食い・腹部膨満感・下痢・体温調節障害(冷や汗をかく・多汗)・眼精疲労・めまい・集中力低下・仕事に時間がかかる・余暇を楽しむ元気がない・感情の調節が利かない等

こういった身体症状がひと月以上続く場合には、医師に相談して欲しい。

少々難しい点は、症状がとても主観的なので、周囲のものが共有しづらいことにある。熱が39℃あれば、本人にもまた周囲のものにも「これは大変だね。休養が必要だよ。」と、非常にわかりやすい。ところが「最近朝からだるいんですよ。」と言われても、「夜遊びしすぎじゃない?」と、どうしても話が軽く流されやすいようである。全てに敏感になる必要もないが、同僚や仲間が重大な事態になる前に、個人の状態の把握とサポートが大切である。

先程の会話も、
A:「最近朝からだるいんですよ。」
B:「疲れたまっているね。週末に休めてる?」
A:「週末は家でごろごろしているんですけどね。疲れがとれないんですよ。」
B:「趣味とか楽しめているかい?」
A:「そこまでやる元気ないですね。どんどん元気が無くなってしまって…今はとにかく寝ていることが一番です。」
B:「やあ、それはしんどいね。最近は色々大変だからね。今週様子を見て、また状況を教えてよ。」

前回挙げた精神的負担の多いポジションで赴任された方には、こういったサポートは欠かせない。また、海外赴任を決定した日本側も精神的適応の流れを理解した上でのサポートを心がけて行った方が好ましい。

海外赴任最初の一年は、気持ちが揺れることが普通である。心が調子を崩すことも、頻度が著しく高くなる。「早期発見早期治療」は、心の風邪にも当てはまるようだ。