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ニュースレター(機関紙)

海外巡回健康相談に参加して(中国南部)
NL03010104
中国、医療事情

鈴木こどもクリニック
鈴木 洋

<はじめに>

 平成14年11月4日から11月22日まで中期中国Bチームとして海外巡回健康相談に参加したのでいろんな面から感想を述べたいと思う。筆者は平成6年度のインド健康相談から今回で9度目の参加である。南米、中近東、東南アジア、東欧など参加したが中国は初めでであり、海外巡回健康相談の地域としては日本から近い地域である。近いことは何かあった時すぐ帰国できるので健康問題を含め他の地域と比べ精神的には安心できるようだ。

 中期中国Bチームは合肥、廈門、福州、蘇州、東莞、広州の6都市で健康相談をした。中国Aチームは主に北、Bチームは主に南を巡回することになっている。巡回期間は18日間と国内にいると長い感じであるが、中国で長期滞在している日本人から比べると非常に短いので筆者の感想はのぞき穴から見た程度であるので偏っていると思う。健康相談という窓から日本人医師が感じた中国の断片と解釈して読んでいただきたい。

<海外巡回健康相談の意義>

 巡回健康相談は医師2名、看護師1名、事務方1名の計4名のチームである。一時的に対応できる医薬品、寄生虫検査、子宮頸ガン検査、心電計、血糖測定器を持参して医師による問診、診察、血圧測定などをして健康に関することを医師と話しあうのがこの健康相談の内容である。今回は中国事情により、医薬品、子宮頸ガン検査、心電計を持参できなかった。一部に今回の巡回を中止した方がいいという意見もあったようだが、健康相談の意義は日本人医師が、日本語で医療という科学的でありながら文化的要素もある分野の悩みを聞き、話をして相談者に少しでも健康に関する安心と健康維持、病気予防に努めていただくことにある。

 医療は病気の治療、病気の早期発見、さらに病気の予防と重点をシフトしてきている。長期海外滞在者にとって、病気の治療は差し迫った問題として病気になった時非常に重要であるが、医療システムの違い、言葉の壁、医療観の文化的違いから受診が遅れがちになる。さらに早期発見は非常に難しい状況にある。忙しい仕事の中では病気予防は人ごとになりがちである。そんな日本人にちょっと健康を考える機会があることは非常にいいことと思える。さらに企業で行われている定期検診の結果を再度チェックすることで再確認したり、疑問を整理する場としても意味は大きいと思われる。慢性疾患を持っている人の相談、きちんと健康維持をしているのかどうかのチェックの場として、またセカンドオピニオンを求められた時の説明の場としても意義は大きいようだ。

 筆者の専門は小児科である。小児科は子どもの病気を診ると同時に子どもを世話している親の心配事の相談にのることも重要である。現在日本国内では小児救急が十分対応できないことで問題にされている。医療側から見ると小児救急の大半は病気の重さより親の心配で受診することが多く大半は軽症者である。自分の病気の状況をうまく説明できない子どもにとって親が判断しなければならない。その結果医療知識のない親は心配になり結果として軽症でも救急を受診しなければならない。医療側にとって些細な病気でも親にとってはその場では重大な問題なのである。日本国内でも心配なのであるから国外ではそれは途方もない不安となるであろう。そんな親と日頃思っている子どもの健康のことを話すことは非常に健康相談としては意義大きいことと思える。

<中国事情、医療事情>

 人口13億の国中国、日本の10倍の人口のある国中国。中国を考える時この数は重要な要素と思われた。日本では昔人口100万人以上の都市を6大都市と呼んだことがあった。人口100万人以上は大都市という認識があった。しかし中国では100万ではなく1000万人以上が大都市と呼ぶそうである。今回訪問した広州以外は人口200万から800万人で中国では中都市と呼んでいるらしい。日本の県に相当するのが省である。省の中心的中都市には人が集まり労働力が余っている。人口が都市に集中しないために移動の制限があるものの若年労働者は実に多く都市に存在する。中国政府も外国企業を誘致をして労働市場を多くしている。日本企業も低賃金で優秀な若年労働者を雇用することによって製品の低価格化を図って国際競争力を高めようとしている。訪問した各都市の日本人会の担当者も毎月どんどん日本企業が進出してきているので十分な把握ができないと言っていた。

 上海では健康相談をしなかったが上海総領事館には表敬訪問した。杉本総領事と少し話ができたがその時彼は「中国には2億人の金持ちと2億人の超貧乏人が存在する」と言っていた。2億人の金持ちの存在は日本を含め欧米、アメリカにとっては巨大な市場である。製品を2億人の金持ちに売ることは進出企業の生死にかかわる、いやその企業の国の経済を左右する問題でもあるようだ。
仕事で中国人と付き合うことは精神的にも大変だが中国文化の中でのつきあい方は中華料理とお酒が重要でこのつきあいがうまくできないと商売もうまくいかないと言っていた。高カロリー、高タンパク、高脂肪の中華料理はたまに食べれば実にすばらしい料理であるが頻繁に食べれば健康問題となる。「乾杯」は日本語であるが中国では「完杯」である。杯を完全に空けるのである。それも次から次に「完杯」をするのである。お酒が強くなければ仕事にならないと日本人は言っていた。当然飲みすぎが健康問題として生じている。

 2億人の貧困層は都市ではなく田舎に存在する。総領事は「そこは病気の宝庫」と言っていた。中国人の健康問題として片づけないで日本人としてもこの現実をきちんと把握した方がいいとも言っていた。寄生虫、感染症、栄養障害、遺伝病と日本が過去経験した病気が今まさに存在する地域である。特に中国と深く付き合えば付き合うほど感染症は人ごとではない。A型肝炎、B型肝炎は代表的な感染症でB型肝炎ワクチンは中国では全員乳児期に接種している。エイズは中国政府はきちんと発表していないが要注意感染症である。狂犬病は都市では心配ないが地方に行けば要注意である。南方の中国では熱帯病であるマラリア、デング熱なども発生しているらしい。インフルエンザは中国から発生すると言われるほど中国は新型インフルエンザが発生しやすい国である。

 上海総領事館には小林医務官がいて、この巡回中何回かお会いした。彼は中国の南を担当して医療情報の収集をしながらその結果を外務省関係のみならず日本人会を通して滞在日本人にも積極的に提供していた。筆者の今までの認識だと医務官は大使館を中心とした公の人のための存在で民の邦人は時間の余裕のある時のみと言った感じであった。しかし、今回の小林医務官は邦人に積極的に自分の存在をアピールし、いつでも問題があれば対応することを訴えていた。昨今の外務省問題からの改革の一環なのかそれとも彼個人の熱心さなのかはわかりかねたが、これは滞在邦人にとっては実際にも、また精神的にもかなり心強いものであるようだ。

 中国の医療でこんな話を聞いたことがある。救急車で病院に行ったが診てもらえなかった。中国では医療費の前払いが前提で救急車で病院へ行ってもまず診察料を払わなければ医師の診察を受けられないようである。

 今回の巡回中6カ所の病院や診療所の見学する機会を得た。筆者の第一印象は昭和50年代の地方都市の中心病院のようだったということである。少し暗く、床は木のきしむ音や古びたコンクリートであった。驚いたのは外来の入り口には勤務する医師の顔写真と略歴が公表されていたことである。またVIP用の外来と入院病棟があったことである。医療においては日本のほうがより社会主義的と思った。病院では最新医療機器であるMRIやスパイラルCT装置を見せられレベルの高い医療をしている雰囲気は伝わった。しかし、邦人の評価は示された医療機器とは反対にそんなに良くはなく一時しのぎの医療として利用しているようである。それは中国が日本からさほど遠いくない地域であり、緊急時でも4時間あれば日本に帰国できる環境だからであろう。どこの病院にも輸液ルーム(点滴ルームともいう)が多くあり中国医療の特徴を示していた。日本人の人も中国では何でも点滴をするからと言葉で現れている。病院見学のとき何人かの中国人医師と話をする機会を得たが病院といえども英語を話す医師は少なく日本人が受診した時中国語を話せる人に同行してもらわなければうまくいかない印象を得た。医療レベルも問題であるがそれ以上に言葉の壁が日本人の中国医療の評価を低くしている原因のようである。

<健康相談の結果>

 6都市で健康相談をして筆者が診た人は224人、そのうち15歳以下の小児は92人であった。132人の大人の特徴は40、50歳代の男性の単身赴任者が多くいたことであった。糖尿病10人、高血圧症10人と生活習慣病を持っている人が多くいた。特に糖尿病の6人は今回の健康相談にて初めて指摘した人であった。何らかの医療的問題を抱えている人が大人では41人いて、3人に1人は問題があることがわかった。単身赴任の男性は独身寮のような所に住んでいて食事は日本食が用意されているようである。自分が長年習得した職人的技術を中国人に教える人が多く、言葉の問題、文化の違いからくるストレスは相当あるようである。その結果、お酒や食事でストレス解消をすることになる。家族による健康に対する注意信号もなくストレスもたまればその環境では生活習慣病が発現するのも時間の問題であろう。健康相談の結果からも予防、早期発見による生活指導の重要性を認識した。

 小児92人のうち25人が何らかの医療的問題を抱えて生活していることが分かった。35人は小学生前の乳幼児で健康であっても、発達のチェックや育児的問題で悩んでいる親が多くその相談も小児科医として重要である。広州日本人学校の児童生徒の中には、現在日本国内でも問題になっている子どもの心の病気、意欠陥多動障害の子どもやアスペルガー症候群の子どもがいて親にそして先生にその病気の理解と対応の仕方を説明したことは小児科医が巡回した意義は大きいと思われた。今回の巡回健康相談では過去筆者が様々な地域で健康相談をしたこととの違いとて大気汚染によると思われる結膜炎、鼻炎、気管支炎ないしはなかなか咳が止まらないといった症状の子どもが少なかったことである。カルカッタ、テヘラン、カトマンズといった大気汚染で有名な地域で生活している日本の子どもたちには上記の症状を呈する人が多くいたが中国では多くない印象であった。またアレルギーを患っている子どもは日本国内に比べて少ない印象であった。中国が開放政策を進める中で工業化を進めていけば二酸化窒素の排出量が増えて子どもたちに何らかの変化が出ると思われる。これは今後の課題として興味深いところである。

<おわりに>

 中国は地理的にも精神的にも日本に近い国である。しかし現実的には政治システムの遅配、中国語は日本人にとってなじみにくいことなどから長期滞在の日本人にとって様々な健康問題を生じさせている。また慢性の病気を持ちながら中国で生活しながら健康管理を維持することはより注意が必要である。今回の健康相談ではそれぞれの地域での担当の方々に非常にお世話になった。彼らなくしてはこの健康相談は成り立たなかったと思う。健康相談はその場でただ健康状態を把握するだけでなく、その国を理解し医療システムを知り、日本人がどのような環境で生活しているか少しでも知ることで初めて健康相談の内容が充実すると思う。そんな意味で健康相談だけでなく病院見学、市内見学と様々な面でお世話になった。
 最後に今回は中国の南の地域のほんの一部を巡回したが、機会があれば北の巡回チームに参加してより中国を理解したいと思う。