• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(2)「海外生活...適応」
NL03010103
メンタルヘルス、海外生活、適応

シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

新しい任地での生活は、どの人にとっても「新たな適応の連続」であろう。シンガポール文化への適応・新しい職場環境・人間関係・学校・近所、シンガポールで暮らす日本人社会への適応。こんな中で、自分が大変困った状況になったとき、「この人ならば、相談できる」という人を見つけ、「ここなら安心して楽しめる」という場所を見つけてゆくのであるから、これは大変な心の作業の連続である。
心療内科を訪れる患者さんには、「みんなは楽しそうにやっているのに、どうして自分は・・・・」と、自信を喪失されている方が非常に多いが、実は、ごく一部の幸運な人を除いて、ほとんどの方々が苦労して「楽しめる環境」を見付け出しているのである。

「住めば都」という諺があるが、在留地が本当の心の安住地になるには、それ相応の年月と努力が必要なのである。

小学6年生で、シンガポールにやってきたB君は、体が疲れやすくなり、特にはっきりとした原因もないまま、学校に行けなくなってしまった。「シンガポールは暑くて、体が動かない。汗ばっかりでるんだもん。」「外に行っても、全然面白くない。」「日系のデパートなら行く。日本の生活は楽しかったなー。」
B君の話は、在留邦人が最初に感じるいろいろな適応の問題を、実に率直に語っていた。このころのB君は、心も体も新しい環境を受け入れることを拒んでいる状態だったのかもしれない。ご両親の努力、そして何よりも、信頼できる友人と居場所を見つけたことで、B君は自信を取り戻したようであった。
1年を過ぎた頃から、「最近、暑さに体が慣れてきたなー。」「シンガポールの家に帰ると、ホッとするようになってきた。」と、自分の変化を楽しむように話し出し、その後から、学校にも楽しんで登校するようになった。

海外駐在に出るということは、個人が日本という所属の大集団から離れ、親戚・旧知の友人から離れ、社会的一体感や社会的存在意義が非常に弱くなる時期を必ず経験することを意味する。それは、海外駐在を以前に経験したことがある人でも、在留地が変わるたびに必ず経験することである。そして、当然のことであるが、駐在する家族全員が経験するのである。

これを「第一適応期」とすれば、ここは海外生活の質を決めるもっとも大切な時期であろう。
B君の場合は、1年で、自分の生活を取り戻した訳だが、心療内科を訪れる患者さんの中には、もっと深刻な症例も多くある。患者さんによっては、「在星5年目だが、ずっと体調不良が続いている。」や「来星して最初にうまくいかなかったので、シンガポールでの5年間は、つらかったです。帰国したら、やり直せそうな気がします。」という初期適応の失敗を長期間にわたって引きずっている方もある。
診療経験上、いくつかの特定因子が適応困難の誘因因子と考えられる。

・望まない海外勤務
・邦人が一人のみの駐在
・孤立した地位(同僚がいない)
・以前の経験が生かせない職種への配置転換
・職場内での衝突
・人生の重大な転機:近親者の他界、病気、結婚、離婚、子供の誕生・独立
・近所・学校・友人とのトラブル
・特に期待される仕事・任務のない邦人

これらの状況がいくつか重なった場合には、本人はもちろんのこと、周囲の仲間も注意してサポートあるいは状況改善に努める必要がある。前回も述べたように、人間の社会的孤立は心の病気の大きな誘因となる。逆にいえば、自分の存在を周囲が大切な物として考えていてくれることは、心の病気の予防になるのである。