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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(1)「ストレス...海外赴任が決まったとき」
NL02120103
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

 シンガポールに海外赴任が決まったと家族や友人に報告すると、意外なほど「よかったね。」「うらやましい。」と言った感想が多いようである。
 確かに、シンガポールは世界中のその他の駐在地に比して、安全であるし、駐在者の住宅環境は保証され、日本人社会を支える教育や医療機関は充実し、生活も日本的スタイルを継続してゆくことが比較的容易である。
 ところが、どんなにたくさんの情報を与えられても、赴任の決まった当の本人や家族は、「楽しみ。」「新天地で頑張ろう。」という気持ちとともに、
(1)外国の言語や文化といった新生活への漠然とした不安
(2)引っ越しに伴う多忙感・実質的な生活が波に乗るまでの不安定感
(3)新しい気候への適応といった身体適応の問題
など、言葉に表現するのはなかなか難しい気分が共存した状態となっている。

 こんな不安定な現実や気持ちを安定させようと、大人も子供も自分の出来うる範囲で努力する。仕事の引継や引っ越しの後かたづけ、子供達の転校手続きなど忙しくしているときは、漠然とした不安感は影を潜め、現実的な問題を解消してゆくことに追われてゆくが、この事務的な忙しさが一段落した頃、つまり新天地?シンガポール?の生活が落ち着いた頃、思いのほか「寂しい」「空しい」という気持ちが湧いてくる。

 「寂しい」とは、あまりにも感傷的な表現のような気もするが、これが本当にピッタリする気持ちなのである。
 南国の青空、燦々と輝く太陽、外国人に対して寛容で明るい国民性、日本の住居に比して格段に広い家、楽しそうな友人の生活ぶり。一見、なんの不自由も無いように感じられるが、時間はゆっくりと流れ、生活領域が狭く、刺激が少なく、単調。外国文化に違和感を感じたり、シンガポールで暮らす邦人の生活スタイルに嫌悪感を感じたり。
 
 このような気持ちの揺れを、シンガポールに生活するようになって、1年以内の間に、誰もが経験するようである。
私が経験上思うことは、「心が寂しい」と言う感情的なものではなく、もっと「本能的」「動物的な」孤独感が湧いてくる時期が必ず存在するようである。社会に属せない、グループに属せない、自分の社会での存在位置が決定されない不安感と言うべきか。
 この不安感は、職場で孤立したポジションにある人や日本人社員が極端に少ない場合や同年代の同僚がいない場合、専業主婦、学校が決まっていない子供達などに特に強くでるようである。
この「不安」をカバーしようと、めちゃくちゃにハッスルして体調をこわすケースと、「不安」にドップリと浸かってしまって、物事を前向きに考えられなくなるケースが
多い。ここで、一つのケースを紹介しよう。

 A氏は、管理職昇進という形でシンガポール赴任が決まった。以前に、アメリカに駐在の経験があり、今回の赴任には不安よりも、前向きな気持ちを感じていた。
 来星してみると、アジアの経済状態はあまり良くなく、会社にも人員削減・コストダウンの波が押し寄せてきていた。3ヶ月間、慣れない職種で、時間前出勤・残業を繰り返し、自分が仕事に慣れない分を超過勤務で補う生活を繰り返していた。
 このころ、自分の部署に問題が生じ、ローカルのスタッフと衝突することが続き、「日本だったら、スムーズに行くことなのに・・・」と少なからぬ不満とイライラを抱えていた。そんなとき、スタッフが前任者の思い出を楽しそうに話し合っている場面に出くわして、Aさんは動揺してしまう。
 仕事の面でも、前任者の実力を感じ、自信を失いかけていたときでありショックも多きかったようだ。それ以来、自分の評判が気になり、仕事は「あれも、これもこなさなくては・・・」と、焦りを感じているが、能率良く進んでゆかない日々が続き、夜間就寝時も仕事の段取りを考えてしまい、睡眠が十分にとれなくなってきてしまい、心療内科を受診することになった。
 診断は、抑うつ状態で、3ヶ月の内服治療で自分の自信を回復し、海外赴任生活を充実したものにすることが出来た。