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ニュースレター(機関紙)

話題の感染症15 「最新の追加情報」
NL02100102
感染症

(財)海外邦人医療基金(顧問)

長崎大学熱帯医学研究所(非常勤講師)

おおり医院(院長)

大利 昌久



 このシリーズを連載して早や1年がたつ。その当時の最新の情報を流したつもりだが、刻々と積み重なる新しい知見にて、早くも訂正したり、加筆する必要性が出てきた。そのいくつかについて解説する。

1)ピロリ菌
(JOMF NEWS LETTER No.90、91)
 胃潰瘍の原因とされるピロリ菌。ピロリ菌保菌者は4,000万人といわれる。このピロリ菌の除菌のために、胃酸抑制剤のランソプラゾール、抗生物質のアモキシシリン、クラリスロマイシンを服用するLAC療法が、日本でも本格的にはじまった。そろそろ2年目をむかえようとしているが、東京大学など複数の医療機関の調査で、耐性菌があらわれ、当初約90%の有効率だったのが、東大で57%、広島大で38%とのこと。胃潰瘍、十二指腸潰瘍に保険適用が認められたことにより、更に耐性菌が増える恐れが指摘されている。これは手強い話。

2)天然痘
(JOMF NEWS LETTER No.97)
 米国のトンプソン厚生長官は、米政府が、生物兵器テロに備えて、2002年内に3億5,000万人分の天然痘ワクチン製造を計画していると発表した。現在、米国が保有する天然痘ワクチンは約1,550万人分。世界で保存されているのは、9,000万人分とのこと。
 
 WHOは、1999年、研究開発用に米国とロシアに保管されていた天然痘ウイルスを2002年までに廃棄する方針だったが、この方針を米国は拒否したことになる。米国が示す、生物テロへの徹底した危険管理態勢を日本も見習うべきなのかどうか…。なんとも恐ろしい時代になった。

3)E型肝炎
(JOMF NEWS LETTER No.73)
 1999年2月6日、中国東南部の丹東(タントン)にて「食中毒」が発生。中国衛生局の検査にて「E型肝炎」であると報告された。日本人も発病したことから、ダイアルサービス社を通して連絡が入り、戸惑った肝炎である。

表1.新聞報道の概要

7月21日付・1990年以降、3名死亡
・国内感染が疑われ、動物由来感染症の疑い
7月22日付・ブタ血清でHEV検出(3/186)
・ヒト例と遺伝子型近似
7月23日付・日本人血清中HEV抗体保有率5.4%
 加齢に伴い増加傾向

表2.E型肝炎、A型肝炎、C型肝炎の比較
 E型肝炎A型肝炎C型肝炎
主な感染経路経口感染血液
臨床的意義大部分は不顕性感染。
一部は急性肝炎を起こすが大部分は完治。
妊婦は重症化しやすい。
一部は不顕性感染。
急性肝炎を起こすが完治。
高齢者は腎不全を伴うことがある。
一部は慢性化し肝硬変・肝がんへ進展。
キャリア
(持続感染者)
なしあり
劇症肝炎ありまれ
患者数6例(平成11年・13年)1,592例(平成11年・13年)100~200万人のキャリア
死亡数・死亡率死亡数3例
(平成7年・12年)
死亡率 1~3%
(妊婦の場合 15~25%)
死亡数108例
(平成7年・12年)
死亡率 0.1~0.2%
年間約4.5万人の肝がん、肝硬変死亡の約8割がC型肝炎
治療法急性期の対処療法慢性期はインターフェロン療法等
検査法原因の同定 1983年
ELISA法(2000年に高度法開発。1992年に開発された方法は低感度、誤差大)。
原因の同定 1973年
診断法開発 1973年
原因の同定 1988年
検査方法の確立 1989年
 HCV抗体検査 1989年
 核酸増幅法検査(NAT)1999年

表3.E型肝炎の臨床的特徴
潜伏期平均 40日
分布 15~60日
死亡率1~3%(妊婦:15~25%)
重篤度加齢に伴い増加
持続感染現在までの知見ではなし

表4.E型肝炎の集団発生が報告されている主な国
インド
(ニューデリー)
1955~1956年
河川の氾濫後の市中飲料水への混入
30,000例
ミャンマー1976~1977年
妊婦において18%の死亡率
20,000例
インド
(カシミール)
1978年52,000例
中国1986~1988年100,000例
ソマリア1988~1989年11,000例
メキシコ1988~1989年4,000例

表5.E型肝炎流行地域への旅行者向け予防と対応策
・清潔の保証がない飲料水(氷入り清涼飲料を含む)、非調理の貝類、自分自身で皮をむかない非調理の果物・野菜を摂らないこと
・西欧諸国のドナーから作られたγグロブリン製剤は感染防御能がないこと
・E型肝炎流行国のドナーから作られたγグロブリン製剤の有効性はわからないこと
・ワクチンは開発中

表6.E型肝炎ウイルス(HEV)におけるブタ肉の安全性について
 生後2~3カ月のブタの血清からHEVが検出されたとの研究結果が報告されているが、HEVは、その後、ブタの成育とともに体内から消失し、と蓄処理される生後6カ月程度のブタからは検出されないため、ブタ肉の安全性には特段問題ないと考えられる。

 あれから3年たった2002年、日本でも感染が広がり、ついに死者まで出たE型肝炎。3人の死者は渡航歴がないことから、「流行するのは途上国」という今までの認識が覆された。栃木県の養豚場のブタから病原ウイルス(HEV)と極めてよく似た遺伝子構造を持つHEVが検出されたことで、人間と動物の間で感染を繰り返すことが明らかとなり、「人畜共通感染症」として日本でも注意が必要となった。
 2002年7月26日、厚生労働省は、厚生科学審議会感染症分科会資料としてE型肝炎ウイルスの情報を医療関係に流した。その中で、有益な情報を以下に示した。

4)炭疽菌
(JOMF NEWS LETTER No.94)
 トマス・ダシユルとパトリック・リーヒー、この2人の上院議員とニュースキャスターのトム・ブロコウ、ダン・ラザー、ニューヨーク・ポスト社、そしてナショナル・インクワイアラリー紙のフロリダ支局に送られた6通の炭疽菌入り手紙は、感染者18人、死者5人の被害者を出した。
 その犯人が誰かは、「生物兵器」(海外医療No.29、2002年3月号)で対談した当時、Tu教授は、なにか情報を得ているようだったが、私には話さなかった。しかし、実は犯人は、国内にいる米国人なのだということを疑っていた節がある。
 2002年8月1日、炭疽菌テロの犯人を追うFBIは、犬を連れて医学者のアパートに踏み込んだ。すると、1匹の犬が興奮して、主人のハットフィルに飛び掛ったそうだ。その犬は2人の上院議員に宛てた炭疽菌入りの手紙にあった臭いを覚えていたのである。ついに犯人が発見された。しかし、数時間の捜索にもかかわらず、事件を思わせる証拠は何も見つからなかったという。
 はたして、この人物は何者なのか。実は、スティーブン・ハットフィルは、陸軍生物兵器研究施設に勤務経験がある科学者だったのである。週刊NEWS WEEK紙によると、その人物は研究所を辞めた後、防衛関連企業に勤め、その後なんと、CIA(米中央情報局)に就職を希望したのだという。しかし、嘘発見器のテストに引っかかったため、就職に失敗。そして、突然、現職も解雇された。最初の炭疽菌入り手紙が送られたのは、この失職の後、ほぼ1カ月後のことだったという。捜査当局は、この失職に不満があり、犯行に及んだのではないかという見方をしている。
 ハットフィルは、弁護士を通じ、一貫して無罪を主張しているそうだが…。
 今、Tu教授に協力し、生物中毒辞典を編纂中である。11月来日するので、また、詳しくたずねてみようと思っている。

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(編集部より)
 シリーズでお送りしてきた「話題の感染症」は今回で終了します。
 「話題の感染症」については、今後適宜スポットで掲載する予定です。