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ニュースレター(機関紙)

話題の感染症13 「院内感染症」
NL02080102
感染症、セラチア菌

(財)海外邦人医療基金(顧問)
長崎大学熱帯医学研究所(非常勤講師)
おおり医院(院長)
大利 昌久

 自然界に広く存在する細菌が、病院、施設などで「院内感染」という形で出現している。抗生物質がほとんど効かない点が、問題となっている。

 日本では1980年代前半に、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の院内感染が、あちこちで問題になった。今でもその問題は解決した訳ではなく、高齢者の肺炎などの原因となっていて、死亡率は高い。MRSAは、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)と同じく「グラム陽性球菌」に属している。その他、「グラム陰性桿菌」の緑膿菌、セラチア菌が悪名高い。本号では、セラチア菌を取り上げた。

セラチア菌

 1999年7月、東京都内の病院で、入院中の10名の患者が、39℃を超える発熱の後、血圧低下し、出血傾向で5名が死亡した。集団発生の形をとったので、詳しい調査が行われたが、結果は、セラチア感染による敗血症が死因だった。

 東京都衛生研究所が、感染経路の解明をおこない、「点滴時の不適切な消毒と、点滴液の作り置きに問題」があり、セラチア菌が増殖したのではないかという警告を出した。

 その後、2000年5~6月に大阪府内の病院で、同様の発病があり、8名が死亡。そして、2001年1月、東京都の個人病院で3度目の集団感染があった。残念ながら、東京都衛生研究所の警告が周知されていなかったのである。

セラチアの細菌学的特徴

 セラチアは、グラム陰性の小桿菌で、大腸菌や肺炎桿菌などの仲間で、自然環境、特に水や湿った土壌などに広く分布している。人や動物の腸管内常在菌でもある。

 セラチア菌属の中で最も重要な菌種は、S.marcescensで、一連の院内感染集団発生例もすべてS.marcescensが原因となっている。

 セラチア菌属は、鞭毛を有し自由に動き回り、非常に劣悪な環境下でもその発育性は極めて良好。1~5℃の低温や蒸留水、消毒薬、防腐剤などの中でも発育可能。血液の中で菌が増殖する能力に関しては、①低温でも発育が可能、②白血球による貧食や補体による影響も受けにくいため、保存血液がセラチアに汚染されていると、赤血球成分や血小板成分の中で容易に増殖することが知られている。

セラチア感染症の歴史背景と臨床的意義

 セラチア菌が発見された当時は、病原性はほとんどないものとして取り扱われ、その臨床的意義は、さほど重要視されていなかった。しかし、フランスのScheurlen教授は、1896年にストラスブール大学付属病院でみられた幾つかの感染症の事例を検証した結果、その中にセラチアが原因の感染症があることを突き止めた。

 セラチア菌による最初の院内感染症は、Wheatらが1951年に報告したもので、スタンフォード大学の付属病院で6カ月間にわたって11名の患者に集団発生がみられたことを報告している。セラチア菌感染症は、宿主の感染防御機構が著しく低下した宿主にしか発生しないと考えられていたが、現在では、長期入院患者の呼吸器疾患、尿路感染症、敗血症、髄膜炎、創感染の原因としてしばしばみられる。また、市中および院内で感染した感染性心内膜炎の原因菌としても重要。欧米ではヘロイン常習者と入院患者によくみられる感染症である。

 敗血症の集団発生例としては、1966年のMcCormackらの報告が最初で、育児室の新生児に15例の敗血症を含む27名のセラチア感染の集団発生を報告している。つい最近では、メキシコのある産院で医療機器を介した30数名にのぼる新生児の病院感染事例が報告されており、1980年代以降、新生児におけるセラチア感染症の増加が注目されている。

セラチア感染症のリスクファクターと感染経路

 セラチア感染症のほとんどは、院内感染とみられ、その多くは何らかの基礎疾患を有している。院内でみられるセラチア敗血症の感染様式は、大きく内因性感染と外因性感染とに分けられる。

 内因性感染は、腸管内に常在しているセラチア菌が、抗菌薬の投与などによって選択的に増加し、全身へと広がり、敗血症へと進展するもの。

 一方、最近多発しているセラチア敗血症の集団発生例は、医療機器の汚染、医療従事者の手指などを介した外因性感染が主体である。1981年に米国の病院感染学会が行ったサーベランスによると、尿路感染症の0.8%がセラチアによるもので、尿路カテーテルの留置があげられている。

 敗血症の原因としては、IVHカテーテルなどの静脈内留置が侵入門戸として深く関わっている。輸血や輸液に起因した感染症は、しばしば敗血症やエンドトキシンショックを伴い、エンドトキシンショックを伴う場合は、重篤でしばしば致命的な経過を取りやすい。

 デンマークで輸血に伴って起きた院内感染事例では、10名以上の患者が発生し、うち1名が死亡している。これは、採血時に血液内に混入した菌が血液保存中にその中で増殖していたことに気が付かず、この血液製剤を複数の患者に投与したことによって発生したもの。

 本邦でみられた一連の集団発生事例では、ヘパリン生理的食塩水や点滴液の作り置きが原因ではないかと考えられている。

おわりに

 医療行為に伴う敗血症で患者が亡くなるという痛ましい事件が相次いだ。これらの院内感染例が明らかになったのは、集団で発生し多数の死者を出したためである。恐らく、散発例を含めると、予想以上に感染例は多いかもしれない。

 院内感染といえば、抗生剤に耐性の細菌による重篤な感染症が問題になることを考えると、もともと病原性がなかったセラチア菌感染症の存在は、人類にとって脅威といえる。何故なら、無毒あるいは弱毒性の細菌が、ある日突然、牙をむき、次々と人類を蝕む時代が来ることを意味するのだから…。