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ニュースレター(機関紙)

話題の感染症8「インフルエンザの流行」
NL02030102
感染症/インフルエンザ

(財)海外邦人医療基金(顧問)
長崎大学熱帯医学研究所(非常勤講師)
大利 昌久



 今冬、1月末より、インフルエンザが大流行。明暗を分けたのは、インフルエンザワクチン接種者から、重症者が出ていない点だ。国(小泉内閣)の大英断で、高齢者へのインフルエンザワクチン接種に補助金が出され、多くの高齢者が接種した。この事情を反映して、高齢者の発病が少ない。しかし、未接種から、肺炎、脳炎などの合併症を、当院(おおり医院、神奈川県)でも経験した。これらの重症例は、接種をしていない学童児から高齢者にみられた。
 従来、高熱、全身倦怠感などの臨床症状のみで、風邪かインフルエンザかを経験的に鑑別診断していたが、今年から簡単なキット(表1)によって、より正確にインフルエンザ感染の有無が10~25分で判明可能となった。まさに極めて有用な武器が登場したことになる。
 「4000万人を殺したインフルエンザ」の書評(JOMF No.93)でふれたように、ありふれた病気だが、決して油断できない感染症である。「インフルエンザ最近の情報」(JOMF No.82、No.83)、「話題の感染症」(JOMF No.89)に次いで、再びインフルエンザにふれた。

表1 インフルエンザの検査キット

商品名メーカー名検出時間
インフルエンザOIA第一化学20分
インフルA・Bクイック「生研」デンカ生研15分
ラピッドビューA/B住友製薬バイオ10分
ディレクティジェンFLUA日本ベクトンデッキソン10分
キャピリアFluA.B日本ベクトンデッキソン15分
キャピリアFluA日本ベクトンデッキソン15分
キャピリアFluB日本ベクトンデッキソン15分
ジースタッフルーA&Bキットニチレイ20分


流行状況
 1999年4月1日に、感染症新法が施行。インフルエンザは、「4類感染症」に位置づけられた。国内5000の医療機関が、このインフルエンザの定点観測地に指定されている。神奈川県西部では、当院も指定医療機関として動いている。全国の指定医療機関からの報告書を元に、国立感染症研究所、感染症情報センターが「インフルエンザ国内患者発生動向」を週報で報告。この報告によると、1998年をピークに、毎年流行規模の減少をみたが、今年は大流行。恐らく、記録を更新するだろう。(表2)

表2 インフルエンザ様疾患患者数(感染症週報)


いくつかの話題
1.香港でのH5N1ウイルス(A型インフルエンザ)
 1997年5月、香港で新型のインフルエンザH5N1が、死亡した3歳の男児から分離されてから5年が経つ。その後、16人(男8人、女8人)が発病し、6人(男2人、女4人)が死亡。死亡率33%と高く、熱帯の殺人ウイルスに匹敵することになる。
 この新型ウイルスの登場は、ニワトリ由来のウイルスだったこと、人への感染が初めてだった点が話題を呼んだ。香港政府は、この病気の危険性を察知。すぐにニワトリを殺処分したのである。その数は、膨大だった。
2.その後の新型ウイルス
 1999年3月、香港で別種のH9N2というウイルスが、2人の小児から分離された。幸い、弱毒だったので、大きな流行はなかった。2001年5月には、再びH5N1ウイルスがニワトリの間で流行し、大規模な殺処分が再び行われた。
3.インフルエンザ対策
 H5N1の登場により、ウイルスの運び屋であるニワトリ、水鳥、ブタなどが注目された。特に中国南部では、これらの動物が人間と共に生活している地域なので、CDCが調査に乗り出した。そのうちH5N1ウイルスの実情が報告されるだろう。

ワクチン行政の流れ
 1940年代に、インフルエンザの不活化ワクチンが米国で実用化され、日本には1962年に導入された。いろいろ副作用があり、1972年の発熱物質を除いたワクチンが使われ始めた。当時は、小・中学校を中心に、集団接種。「小・中学校が、インフルエンザウイルスの増巾の場になり、家庭に持ち帰って、流行を拡大させる」というのが、接種理由だった。しかし、その有効性に疑問が抱かれ、かつ、数少ないながらも副作用で親が騒いだこともあり、旧厚生省は、1987年8月、インフルエンザの接種方法を変えたのである。インフルエンザワクチンは、「個人防衛は可能だが、集団を守る力に欠ける」というのがこの根拠だった。更に、その効果が明確でないという意見もあり、1994年の予防接種法の改正に伴い、「任意接種ワクチン」に格下げられた。もちろん、高齢者、気管支喘息などの人には、積極的に接種する旨のガイドラインが残されたが、一般の医師も消極的。受診者の希望も少なく、その接種者数は、極端に低下した。このことから、ワクチン製造も急減。しかし、その後、老健施設や精神病院などを中心にインフルエンザによる高齢者の合併症、特に肺炎などで死亡する例が相次ぎ、社会問題となった。そして、インフルエンザが大流行した1999年、わずか150万本のワクチンしかなくワクチン不足のため、日本中がパニックに陥ったのは記憶に新しい。これが、日本の情けない実情である。
 2001年11月より、高齢者へのワクチン接種に補助金が拠出されることになり、今冬を迎えた。当院でも2001年11月より2002年1月にかけ、400人にのぼる高齢者に接種をした。

法律に基づく定期の予防接種と対象者
 2001年の予防接種改正により、インフルエンザは「二類疾病」に分類された。「二類疾病」とは、個人予防目的に比重を置いた疾病を意味するそうだ。病気自身は、先に述べたように「4類感染症」に分類されているので、実に紛らわしい分け方である。
 インフルエンザの定期の予防接種をおこなう対象者は、①65歳以上の者、および、②60歳以上65歳未満であって、心臓、腎臓もしくは、呼吸器の機能またはヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害を有するものと定められている。

接種回数
 シーズンごとに、インフルエンザHAワクチンを1回皮下に注射する。インフルエンザは毎年流行するが、病原ウイルスは少しずつ抗原性を変えるので、ワクチンも毎年これに対応する株が選定されている。ワクチンが十分な効果を維持する期間は、接種後約2週間後から約5カ月とされている。一般的に10月下旬より12月中旬ごろにおこなわれるのが望ましい。

接種不適当者(予防接種を受けることが適当でない者)
 次のいずれかに該当すると認められる場合には、医師とご相談下さい。一般には、接種不適当者とみなされる。
(1) 接種当日、明らかな発熱を呈している者。明らかな発熱とは、通常37.5℃以上をしめす。
(2) 重篤な急性疾患にかかっている者。
(3) 過去にインフルエンザワクチンの接種によって、アナフイラキシーショックを呈したことがある者。
(4) その他、予防接種をおこなうことが不適当な状態にある者。

他の予防接種を受けている場合の接種問題
 インフルエンザワクチン接種前に受けた予防接種の有無、種類を確認し、最近受けた予防接種が生ワクチンであった場合には4週間以上、不活化ワクチンまたはトキソイドの場合には1週間以上の間隔をあけること。

合併症について
 抵抗力の弱い高齢者・乳幼児、気管支喘息などの呼吸器疾患、狭心症などの循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全(免疫抑制剤による免疫低下も含む)などを患っている方では、インフルエンザにかかると合併症を併発する場合がある。高齢者では、細菌の二次感染による肺炎、気管支炎、慢性気管支炎の増悪が起こりうる。また、乳幼児では中耳炎や熱性けいれんが起こりうる。その他の合併症としては、ウイルスそのものによる肺炎や気管支炎、心筋炎、アスピリンとの関連が指摘されているライ症候群などが挙げられる。

インフルエンザ脳炎・脳症と解熱剤について
 インフルエンザの経過中に、意味不明の言動、幻視、意識がはっきりしない、けいれんなどの症状が現れることが稀にあるが、その場合、急性脳炎・脳症を起こしている可能性がある。
 これまで年間100~200例ほどの発症だが、その1/3は死亡、約10%は日常生活に支障をきたす程度の後遺症が残る重症合併症である。発症者の多くは、1~5歳の幼児。
 なお、治療上大事なことだが、シクロフェナクナトリウムという成分を使った解熱剤(販売名「ボルタレン」などで知られているのもので、内服剤と坐薬がある)を投与された脳炎・脳症の患者さんが死亡した割合は、解熱剤を投与されなかった患者さんやジクロフェナクナトリウム以外の解熱剤を投与された患者さんが死亡した割合より多い傾向がみられたことが指摘された。この点から、解熱剤を服用する場合、慎重な心構えが必要となる。ただ、熱を下げればよいというものではない。なお、アセトアミノフェン系は問題ない(カロナール、アルピニー坐薬、アンヒバ坐薬)。
 1998年11月から、抗インフルエンザウイルス治療薬が使用できるようになった。また、インフルエンザにかかったことにより、他の細菌にも感染しやすくなるが、このような細菌の混合感染による肺炎、気管支炎などの合併症に対する治療として、抗生物質も使用される。

海外出張とインフルエンザ
 インフルエンザは、世界中で流行する。湿地地方では冬に(南半球では7~8月)、熱帯・亜熱帯地方では雨期に流行する。流行株は、国によって若干の違いがあると言われるが、日本で済ませておいた方が良い。65歳未満の人には、今回の定期接種の対象外となるが、積極的に接種することを勧めたい。サハラ旅行(アフリカ)にて、帰国したばかりにインフルエンザにかかり、肺炎であえなく死亡した人がいる。残念。