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ニュースレター(機関紙)

海外巡回健康相談に参加して(中南米)
NL02020204
中南米、医療事情、健康管理

岡山労災病院
木村 和陽


<はじめに>

 私は幼い頃からマヤ・インカ遺跡やアマゾン川に象徴される中南米に憧れとも言える思いを抱いていました。一昨年海外巡回健康相談への参加募集の話を聞いたとき、迷わず中南米を第一希望に挙げました。もちろん遺跡巡りの旅ではなく、治安も決して良い地ではないことも重々承知の上、日本から遠く離れた中南米の地で頑張っておられる日本人の方々の健康管理に少しでも役に立ちたいと考えました。幸運にも昨年11月その希望がかない、メキシコ(アグアスカリエンテス)、グアテマラ(グアテマラシティ)、コスタリカ(サンホセ)、パナマ(パナマシティ)、コロンビア(ボゴタ)、ベネズエラ(カラカス)の計6カ国6都市にて巡回健康相談の機会を得ることができました。約3週間という短い期間ではありましたが、私が垣間見た在留邦人の医療状況について所感を述べたいと思います。

<在留邦人で問題となる病気とその予防法について>

1.日常生活における健康管理について

 訪問した都市は中南米の中でも亜熱帯もしくは熱帯地域にもかかわらず、パナマを除き、標高1,000~2,000m以上の高地にあることより、昼夜の気温差が大きく、加えて空気が日本よりかなり乾燥しているため意外と風邪を引きやすいようです。風邪症状を訴える多くの方が相談に来られ、総合感冒薬や抗生物質などを多く処方しました。予防策としては昼夜の気温差に応じて服装を調節したり、うがいをしたり、加湿器を使う必要があると思われます。皮膚の乾燥からかゆみを訴える方もおられ、保湿薬などの塗り薬を使った方がよさそうなケースもみられました。また、食事、水、ストレスなどに起因すると思われる下痢や胃痛などの胃腸症状を訴えられる方も少なくありませんでした。比較的衛生状態の良い国や都市もありましたが、やはり水道水は飲用しない方がよさそうで、ミネラルウォーターを飲用した方が無難と思われました。生野菜は寄生虫が潜んでいることがあり、充分な注意が必要とのことです。いずれにしても健康管理における最も重要な点は、なるべく現地の気候や風土に順応した日常生活を心掛けることでしょう。

2.生活習慣病について

 長期滞在者や移住者は中高年の方が多く、高血圧症、高脂血症、糖尿病、肥満などの生活習慣病の治療を受けておられる方も少なくありませんでした。これらは心筋梗塞などの動脈硬化による病気の危険因子となり、その治療・予防はとても重要です。中南米の食事は総じて高カロリー・高脂肪食であり、加えて治安が悪いため運動不足となりやすく、中南米は日本人にとって生活習慣病に罹りやすい環境にあると言えます。日頃から食事量を腹八分目として、なるべく脂肪分の少ない食事をとるよう注意が必要です。現地では日本食の食材を入手するのはなかなか難しいようですが、日本食は生活習慣病予防のための健康食になると思われます。運動は日本のように気軽に自宅周囲でウォーキングなどの運動をすることは治安が悪いため危険であり、ゴルフをしたり、スポーツジムに通ったり、自宅内で歩行器を使うなどして努めて運動を心掛けることが生活習慣病の予防のみならずストレスの発散につながると思われます。

3.感染症について

 都市部において生活する範囲においてはマラリアや最近流行が報告されているデング熱などの熱帯病に罹ることは稀ですが、高度の低い熱帯地域では熱帯病に罹る危険性があります。パナマでは都市周辺で仕事をされていた日本人がデング熱に罹り、現地の病院に入院されたようですが、幸いなことに重症化せず軽快されたとのことです。熱帯病はその原因が判明していて、治療法や予防法が確立したものも多く、過剰に神経質になる必要はありませんが、インターネットなどで流行状況を調べておいたり、蚊をはじめとした病気を媒介する昆虫に刺されないよう心掛けるなど、予防法は知っておいた方がよいでしょう。

4.メンタルヘルス(心の健康)について

 中南米では言葉が通じないこと、治安が悪いこと、現地人や日本人との対人関係など日本ではない多くのストレスが生じ、ストレスが原因と思われる心や体の不調を訴える方も散見されました。特に単身赴任の方はストレスを発散する場所があまりない上に、余暇時にも話相手がいないことなどから、かなりのストレスを感じておられるようでした。企業の立場からも娯楽設備を設けたり、インターネットなどを利用した日本人によるメンタルケア(カウンセリングなど)が必要かも知れません。現地人は日本人から見るとかなりゆっくりしており、イライラすることも多いようですが、郷に入っては郷に従えの如く、あくせく働かない現地人とは寛容に接する必要があるようです。日本人は概して几帳面で真面目である反面、物事がうまくいかないと悲観的になりやすい傾向にありますが、ラテン系の現地人は決して経済的に裕福ではないにもかかわらず、楽観的で明るく、明日のことを思い悩まず、日々の生活を楽しんでいるようです。昨今の世相からややもすると悲観的になりやすい日本人ですが、心の健康のためにはラテン系のメンタリティには見習うべきものがあるように思われました。

<中南米の薬剤事情>

 私立医療機関に受診されている方が処方されている薬剤を見ると、そのほとんどは日本で入手可能なものでしたが、その分量は日本のものと比べると1.5~2倍と多めのものもあり注意が必要です。一方、日本でよく処方される総合感冒薬や湿布薬などの薬はなく、今回のような巡回健康相談時や帰国時などに入手するしかないようです。また、中南米でも北米や欧州諸国と同じく完全医薬分業制となっており、一度医療機関で処方箋をもらうと、その処方箋で何回でも同じ薬を入手することが可能ですが、便利な反面、受診しない限り病状や検査結果に応じて薬の変更や量の調節は行われず、決して良いシステムとは思えませんでした。

<現地医療機関に対する在留邦人の評価と利用上の問題点について>

 公立医療機関は主に現地の低所得者層を対象としており、設備・医療水準ともに劣悪であり、日本人にはあまり利用されていません。ほとんどの日本人は高い医療費を払ってでも、日本や欧米並の医療水準を有している私立医療機関やクリニック(開業医)を受診されているようです。公的な救急医療体制も充分整備されておらず、信用度も低いため、私的救急車による迅速・確実な搬送の契約が付いている医療保険を選択されているようです。

 また、日本と違う医療システムの一つはクリニックと検査を受ける施設が独立していることで、患者はクリニックで検査を指示されてから検査施設に行き、検査を受けることになっています。このシステムでは全ての検査データやフイルムが患者に手渡され、医療情報開示や自己管理には有用かも知れませんが、その解釈は難しいようで、検査データやフイルムを持参し、相談に来られる方もおられました。

 私立医療機関の医師は診察や病状説明には充分の時間をかけ、緊急時の連絡先を教えてくれるなど、むしろ多忙な日本の医師より行き届いた面もあるようで、日頃の診療姿勢を大いに反省させられました。しかし、一方で言葉の問題から充分な意志疎通ができず、不充分な「インフォームドコンセント(説明の上での同意)」から医療事故が生じたケースも聞きました。日頃から日本人会などからだけではなく、現地富裕層からの医療情報入手に努め、受診時には親しい現地人に付き添ってもらうなどして、より安全で質の高い医療を受けられるよう努力する必要もありそうです。

<これからの在留邦人の健康管理について>

 日本では医療は施してもらえるもの、健康は医療機関、会社、国によって守ってもらえるものといった考えが未だ根強いようですが、中南米はもとより海外においては自分や家族の安全のみならず、健康も自分(達)で守らなければいけないという現実があることを痛感しました。日本における「国民皆保険制度」のようなシステムがない海外では医療はまさしくお金を払って手に入れるサービスであり、健康は自分で守るものであると、発想を変えなければいけないようです。今回の巡回健康相談での経験を通して、在留邦人の健康管理においては四つの「助」が重要ではないかと考えました。すなわち「自助」:大人も子供も自分の健康は自分で守るという心構えが必要です。予防にまさる治療はありません。「互助」:家族や日本人会などのコミュニティーの中での助け合い精神も必要です。「民助」:企業による健診や(財)海外邦人医療基金のホームページなどからの医療情報の入手も有効です。「公助」:海外巡回健康相談や大使館からの疾病情報の活用も必要でしょう。