• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

話題の感染症6 「狂牛病(BSE)」
NL01120103
感染症/狂牛病

(財)海外邦人医療基金(顧問)
長崎大学熱帯医学研究所(非常勤講師)
大利 昌久

 千葉県の疑惑の乳牛は、英国の獣医研究所の検査で「クロ」と診断された。2001年9月21日、深夜のことだった。緊急の記者会見をおこなった農林水産省幹部の表情は、深刻だった。これまで対岸の火事と決め込んでいた「やっかいな病気」狂牛病が、日本にも上陸していたのである。それから数カ月の間に2頭目(北海道)、3頭目(群馬県)の狂牛病が発見された(12月1日現在)。感染ルートの解明に躍起になっている農水省は、どうやら後手後手にまわっている感がする。日本に狂牛病が発生することは、まず考えられないと言いつづけていた農水省の面目は、完全に失われたといえる。
 最初に原因として浮かび上がったのは、「肉骨粉」。3頭目の狂牛病では、「代用乳」も問題になった。
 肉骨粉は、信じられないことだが、スクレイピー病(羊のプリオン病)にかかった羊を殺処分した肉や骨を家畜の飼料にしたものだ。病気をした羊でも、使えるものは使えという発想だった。要するに損をしたくないという考えである。この肉骨粉が発生源となり、欧州全土に脅威をもたらしたのだ。しかしその原因が、指摘された後も一部の輸入業者が肉骨粉を日本にも輸入したのである。これは一種の犯罪といえる。
べない牛に動物性タンパク質を与え、牛を肥らせることに努力した市場というか、人の浅知恵にその発病原因が関係しているのである。
 20世紀になって、突然、多くの未知の感染症が、予想もしない地域に発生している。最近では1999年、海外邦人医療基金の仕事でスバンジャヤ病院を訪れていた時に、マレーシアで経験したニパ・ウイルス脳炎もそうだった。その他、世界中で人食いバクテリアなど多くの病気が人類に警鐘を鳴らしている。この時代背景を考えると、農水省ばかりに責任を押し付ける訳にはいかない。
 世界の狂牛病発生状況は、ヨーロッパ諸国を中心として発生している。(表1)最も発生数の多かった英国においては、1992年の37,280頭をピークにその数は極端に減少し、2001年には318頭だった。これは、牛の飼料の肉骨粉による感染拡大が示唆され、1988年以降、肉骨粉の飼料禁止対策がとられたためと考えられる。しかし依然として英国での発生数が最も多い。アジアにおいては、残念なことに日本が初の狂牛病発生国であり、今後の狂牛病発生の可能性に対し十分な注意が必要な状況である。

◎人への感染を防止する防御対策

1)感染牛対策
 狂牛病の流行地である英国およびヨーロッパ諸国は、新たな狂牛病発生予防のため、感染牛の焼却処分はもちろんのこと、肉骨粉の家畜飼料としての使用を禁止する対策を各国が独自に行っている。日本においても国内産飼料用肉骨粉の使用を禁止することが決定された。問題は、症状があらわれていない感染牛をいかに網羅するかである。表2に狂牛病の発生国をリスク別に示した。
2)食肉対策
 感染牛の摂食は、脳、脊髄、眼球、腸、骨髄、末梢神経などが最も感染の危険性が高い。このような危険度を考慮し、各国では独自の食肉安全対策を展開している。
 最も狂牛病の発生が多い英国では、1989年以来、生後6カ月以上の牛について特定臓器として脳、脊髄、胸腺、扁桃、腸を食用として禁止し、1996年以降は30カ月齢以上の牛の食用禁止措置をとっている。ヨーロッパでは12カ月齢以上の牛の脳、脊髄を食用より除外する措置のほかに、現在では屠殺後に狂牛病プリオン検出キットにて感染の有無を確認し、安全性を確認された牛肉だけを食用とする対策がとられている。
 一方、わが国においては、輸入牛肉に対して輸入禁止措置を講じていたが、2001年、国内初の狂牛病発生後、国産牛肉への明確な安全対策は、いまだ混乱している。ただし、医薬品、化粧品原料としての危険部位の使用が、2000年12月より禁止されている(表3)。
3)血液感染対策
 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病症例では、潜伏期間中の血液内への異常プリオンの混入が示唆されている。最も潜伏期変異型クロイツフェルト・ヤコブ病症例の存在の可能性のある英国では、血液製剤の原料となる血液は狂牛病未発生地域より輸入しており、輸血の際には白血球除去フィルターの使用が義務付けられた。日本、米国、カナダ、ドイツ、フランス、オーストラリアなどにおいては、英国に1980~1996年の間に通算6カ月以上滞在した人の献血を禁止している。さらに日本では、フランス、ドイツ、アイルランド、スイス、ポルトガル、スペインに過去20年間通算6カ月以上の滞在歴のある人の献血を禁止する対策が、2001年に決定されている。米国では海外渡航歴を考慮し、軍人からの献血を中止する方針をとっている。

 狂牛病および変異型クロイツフェルト・ヤコブ病は、伝達病原体の全容がいまだ解明されていない異常プリオンにて発症することが、病態の把握、治療、予防を困難にしている原因のようである。我々が唯一このような疾患群から回避できる手段は、汚染牛からの曝露を防ぐ以外方法がない。


表1.狂牛病の主な発生国

1989199019911992199319941995199619971998199920002001小計
ベルギー0000000016393554
チェコ00000000000022
デンマーク00010000000146
フランス00501431261831161202443
ドイツ000103002007115128
アイルランド1514171816191673808391149165756
日本00000000000033
イタリア0000010000003738
オランダ0000000022221321
ポルトガル011131214293010617016375605
スロバキア00000000000033
スペイン0000000000027072
スイス02815296468453814503330396
英国722814407253593728035090244361456281494393323523001443318
181160
(国際獣疫事務局まとめ、12月1日現在) ※英国は86年から88年までの発生数含む


表2.狂牛病の発生リスク
1.狂牛病発生国または発生リスクの高い国
国   名
狂牛病発生国英国※、ポルトガル※、スイス、フランス、チェコ、アイルランド、オマーン、オランダ、ベルギー、デンマーク、ルクセンブルク、ドイツ、ギリシャ、イタリア、スペイン、リヒテンシュタイン、日本
狂牛病発生
リスクの
高い国
アンドラ、アルバニア、オーストラリア、ボスニア、ヘルツェゴビナ、ブルガリア、ノルウェー、クロアチア、ユーゴスラビア、フィンランド、ハンガリー、マケドニア、モナコ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スウェーデン、サンマリノ、キプロス、エストニア、リトアニア、スロベニア
注1)米国連邦規則第9巻第1章第94条第18項(米国農務省告示)を基に、新たに米国で輸入制限国となった国、欧州委員会の地理的狂牛病リスク評価結果(GBR)クラスIII(高発生国以外の国およびリスクの高い国)となった国を追加(下線部)
注2)※は狂牛病高発生国

2.狂牛病発生リスクの低い国
国   名
狂牛病発生リスクの低い国アルゼンチン、オーストラリア、ボツワナ、ブラジル、チリ、コスタリカ、エルサルバドル、ナミビア、ニカラグア、ニュージーランド、パナマ、パラグアイ、シンガポール、スワジランド、ウルグアイ、カナダ、コロンビア、インド、ケニア、モーリシャス、ナイジェリア、パキスタン、米国
注3)欧州委員会の地理的狂牛病リスク評価結果(GBR)クラスIおよびII

表3.牛など由来医薬品原料使用禁止措置関連資料
1.臓器別の感染伝播リスクの分類
(スクレイピーの羊および山羊からの組織などの感染性実験に基づく分類)
カテゴリー感染伝播
リスク
臓器等
I高リスク脳、脊髄、眼
II中リスク回腸、リンパ節、近位結腸、脾臓、扁桃、(硬膜、松果体、胎盤)脳脊髄液、下垂体、副腎
III低リスク末梢結腸、鼻粘膜、末梢神経、脊髄、肝臓、肺、膵臓、胸腺
IVリスクなし血液凝固物、便、心臓、腎臓、乳腺、乳、卵巣、唾液、唾液腺、精嚢、血清、骨格筋、精巣、甲状腺、子宮、胎児組織、(胆汁、骨軟骨、結合組織、髪の毛皮、尿)
(出典:欧州医薬品庁)
( )内の臓器は、基となる研究には含まれていないが、他の報告により、示唆されたもの。

2.ウシ海綿状脳症伝播のリスクの高い牛などの部位
脳、脊髄、眼、腸、扁桃、リンパ節、脾臓、松果体、硬膜、胎盤、脳脊髄液、下垂体、胸腺または副腎