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ニュースレター(機関紙)

小児科医として海外巡回健康相談に参加して
NL01110103
小児科 健康管理

鈴木こどもクリニック
鈴木  洋

<はじめに>
 日本の乳児死亡率は世界で一番低く、子どもたちにとって一番安全な国と言っていいが、少子化が深刻化して小児科医が少なくなり、小児医療のアンバランスが生じた結果、小児救急が緊急問題になっているのが日本の実情である。子どもの病気の大半はかぜを中心とした急性感染症である。急性が故に親たちは早く不安を解消するために救急へと走っているのである。それでも日本国内では何とか対応できるが、こと外国となるとそうはいかない。日本以上の不安があるに違いない。また病気が軽症であればあるほど病気というものはその国の文化と伝統に支配されやすく、言葉の壁とともに不安を増強している要因になっている。小児科医が海外の巡回健康相談に参加する意義は相談者の半数近くが子どもであり、その子どもを抱えている親の不安の背景を小児科医は他の専門領域の医師たち以上によく知っているからだ。

 私は平成6年度より海外巡回健康相談に参加している。本年平成13年度で8度目の参加である。多くの子どもたちの健康相談で様々なことが私なりにわかったので平成12年度と13年度をまとめながらここに感じたことを述べたいと思う。

<健康相談の結果>
 平成12年度はパキスタン(イスラマバード、ラホール、カラチ)、バングラディッシュ(ダッカ、チッタゴン)、ネパール(カトマンズ)、平成13年度はオマーン(マスカット)、カタール(ドーハ)、アラブ首長国連邦(アブダビ、ドバイ)、イラン(テヘラン)と7カ国11都市を訪問した(図1)。子どもを15歳以下とするとその数と年齢構成は表1、グラフ1の通りである。2年間で405人の子どもたちの健康相談をした。一歳未満の乳児は少なくそれ以降の年齢は中学になるまでほぼ均等にいた。中学生になると教育の関係から少なくなるようだ。グラフ2は健康相談時点までの滞在期間であるが3年以下がほとんどであるが5年以上の長期滞在も少なからずいた。

2000年:パキスタン(1.イスラマバード 2.ラホール 3.カラチ)
バングラディッシュ(4.ダッカ 5.チッタゴン)
ネパール(6.カトマンズ)
2001年:オマーン(7.マスカット)
カタール(8.ドーハ)
アラブ首長国連邦(9.アブダビ 10.ドバイ)
イラン(11.テヘラン)


表1 健診した小児の総数

 
2000年8972161
2001年119125244
総 計 208197405








 健康相談で子どもたちは様々な病気を抱えている。一番多い病気はやはりアレルギー疾患である。特に湿疹やアトピー性皮膚炎の子どもは25人、喘息の子どもは7人いた。高温多湿の日本ではこれらアレルギーの原因がダニのことが多く、中近東のように乾燥地帯ではかえって症状が改善していることもあるようだ。喘息の薬は現地で処方してもらうよりも日本から輸送して使っている子どもたちがほとんどであった。けいれんなど神経疾患の子ども6人、腎尿路系の問題を抱えている子どもは22人いた。この中には定期的に医療のチェックと検査を必要としている者も多くいたが実際にはきちんと経過を追っていないようだ。親も必要性は認識しているがそのままにしていて少しは不安を感じている。

 小学生の高学年以上になると何となくお腹が痛い、頭が痛いと訴える子どもが多くいた。また不眠を訴える中学生以上の子どもたちも数人いた。これら不定愁訴の子どもたちは日本国内でもときどき来院するが、多くは色々なストレスが原因のことが多く、海外生活がこれらの年齢の子どもなりにストレスになっているのではないかと推測される。

 ダッカ、カトマンズ、テヘランは大気汚染が深刻になっていると言うことで有名であるがやはり子どもたちの中には眼が痛い、のどが痛い、鼻水がよく出るという訴えが多くあり、健康相談の場での診察からやはりアレルギーと言うよりも汚染による粘膜の炎症で症状が出ていると思われる子どもたちは多くいた。大人たちは適応しやすいが子どもはまだ適応能力がないため粘膜は正直に反応している。

 日本では指摘されなかった病気を健康相談の場で診断したケースも数名いた。特に乳幼児では親は何か変わっていると思いつつきちんと病院に相談も出来ず健康相談の場でわかる。斜視、そけいヘルニア、中耳炎、行動異常を伴う神経疾患など緊急性はないが親はすっきりした気分になりその対応策を説明した。

 腸チフス、細菌性胃腸炎、E型肝炎、ジアルジア症など現地特有な病気にかかり治療した子どもたちもいた。現地の医療機関にて入院、手術した子どもたちは5人いた。病気そのものの治療も心配であるがシステム、意志疎通で相当神経をすり減らしたに違いない。

 病気の相談としては日本ですでに診断され海外でも薬を飲むように指示されているとき、それが適切かどうかと言うセカンドオピニオンとしての意見を求められることも数件あった。定期的にその病気のチェックをするよう日本人医師に言われたがなかなか受診できず悩んでいる親もいた。
 一番多く相談があったのは予防接種のことである。予防接種の相談を要約すると、
(1)日本で予防接種のスケジュールを中途で赴任してきてその後どうしたらいいか
(2)日本にない予防接種を勧められたがそれを受けていいかどうか
(3)狂犬病、腸チフス、コレラなど日本では滅多にしない予防接種であるが赴任先では勧められる予防接種についてどう対応したらいいか
(4)日本と海外の予防接種の考え方システムのあまりの違いで何故そのようになっているのか疑問を持っている
など様々な意見を求められることが多くあった。

 問診票から現地医療機関の評価ではアジアと中近東では相当の違いがみられた。アジアでは衛生事情が悪く医療レベルが低いと思っている人が多く現地医療機関を利用する人は少なく、中近東では衛生事情、医療レベルではさほど悪い評価はなく半数以上の子どもたちが何らかの病気で受診している。しかし重大な病気に関してはどちらも不安感は大きいようだ。

 乳幼児の子どもたちの親は子どもが順調に発達成長しているかどか健診の機会を希望していた。まだそれに伴う育児上の不安や子どものちょっとした相談相手のいないことに対する不安もあった。

<最後に>
 以上、健康相談で子どもの実際の病気のこと、これから起こるかもしれない病気の不安、予防接種のこと、乳幼児健診の出来ないこと、育児相談の出来ないことなど様々なことが見えた。これらのことは経験のある小児科医で海外に少し興味がなければ対応は難しいように思われた。

 私は海外巡回健康相談以外に定期的にアジアの小児科医と交流する機会がある。彼らは決して我々日本人の小児科医と比較しても医療知識経験は低いものではない。まして現地特有の病気になれば日本人医師以上の力を発揮してくれる。ただし他の医療スタッフはかなり問題を抱えているので重大な病気で多くの医療スタッフが必要な手術のようなときは注意を要する。いわゆる小児科に多いかぜなどの初期医療に関しては日本人が不安に思っているようなことはない。

 子どもは日本にいても一人では生活できない、病気も多くあり、子どもを世話する親はいろんな時に悩み親を支援する関係者が支えてこそ子どもは順調に成長していくものである。子どもと言っても乳児、幼児、学童、思春期と抱える問題は違ってくる。当然健康問題も違う。日本ではきめ細かいシステムがあるにもかかわらず子どもの様々な問題は社会問題として時あるごとに話題になる。海外にいるとさらに事情は複雑になる。この健康相談という場でもその問題は多くあることがわかったであろう。

 最後に子どもとともに海外に赴任されるときは是非日本に相談できる小児科医を見つけることを勧めたい。たぶん小児科医でこれをいやがる人は少ないと思う。ちょっとしたことが時につもりつもって重大なことになることは子どもの世界ではよくある。