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ニュースレター(機関紙)

ニッポンの病院~なぜ日本の病院はダメなのか~ 2
NL01090103
病院

 [ウォーカー氏は病院経営のスペシャリストです。この度「ニッポンの病院~なぜ日本の病院はダメなのか」と題した本を出版しましたが、現在日本の医療、病院が抱えている問題点を簡明に指摘しております。その中の一部を同氏の許可を得て3回のシリーズでご紹介しますが、今回はその2回目です。 尚、この本につきましては、書籍紹介の欄をご参照下さい。(編集部)]



「抗生物質信仰」の危険

亀田総合病院特命副院長
ジョン・C・ウォーカー

 薬と言えば、忘れてならないのが抗生剤の問題でしょう。日本は抗生物質の使いすぎで世界的に有名な国です。これもうがった見方をすれば、抗生物質が病院にとって「儲けのよい薬」であるためかもしれません。

 日本で風邪をひいて病院を訪れた外国人は、誰でも驚いたはずです。日本の医者が、じつに簡単に抗生物質を処方するからです。ちょっとした鼻風邪でも、「念のために……」などと言いながら、安易に抗生物質を与えます。

 患者のほうも、抗生物質と聞けば無条件でありがたがるところがあります。「抗生物質さえ飲めばすぐ治る」といった、ほとんど信仰に近い思い込みがあるようです。たいした熱もないのに、医者に向かって抗生物質の処方をおねだりする患者だって少なくありません。

 抗生物質信仰は、1928年のペニシリンの発見から始まったのでしょう。たしかにペニシリンは、それまで不治の病とされていた結核にも劇的な効果を示しました。結核ばかりでなく、さまざまな細菌性の感染症に対してきわめて効果的な薬であることは間違いありません。

 しかし、抗生物質はけっして万能薬ではありません。たとえば、風邪には直接効きません。インフルエンザにも効きません。細菌ではなく、ウィルスが原因だからです。抗生物質が威力を発揮するのは、風邪やインフルエンザがもとで、中耳炎や気管支炎、肺炎など、細菌性の感染症を併発したときだけであり、いくら強い抗生物質を飲んだところで、風邪そのものが治るわけではないのです。

 日本の医者が「念のために……」と言い訳しながら風邪の患者に抗生物質を処方するのは、感染症を心配してのことでしょうが、ほんとうに患者の身体を思うなら、現実に感染してからでいいはずです。患者のほうが抗生物質をほしがっても、逆に抗生物質のリスクをしっかり教えて、たしなめるべきでしょう。

 なぜなら、抗生物質は両刃の剣だからです。これを濫用したり、不適切に使用すると、耐性菌を出現させる原因となります。

 あなたはMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)について耳にしたことがありますか。MRSAとは、抗生物質に抵抗性のある菌の変種のことであり、おもに抗生物質の使いすぎが原因で発生します。菌やウィルスというものは、環境に応じてどんどん性質を変え、叩かれれば叩かれるほど抵抗力を増すことができるためです。

 多くの病院で認められているMRSA感染は、特にたちの悪い院内感染です。MRSAに感染すると、ほんとうに強力な抗生物質が必要なとき、その薬が効かないことになってしまいます。当然、治療も入院も長引きますし、ときには死ぬことだってあります。

 一時は、MRSAの特効薬と呼ばれる抗生物質もありました。しかし、今ではその薬に対しても耐性をもつ菌が現れ始め、徐々に効かなくなってきています。ぞっとするような話です。

 そのため、アメリカなどでは、耐性菌を生じる恐れのある薬の使用には厳しい制限が設けられています。ほとんどの病院で、抗生物質の使用に関するガイドラインを発行し、専門家の許可がなければ使用できないのが普通です。薬の価格が安いからといって安易に多用することはできないのです。

 ところが日本では、キャンディでもプレゼントするような調子で、いとも簡単に処方されています。抗生物質の使用を制限したり、モニターしている病院もほとんどありません。ある病院では、医療スタッフにガイドラインを配ったものの、結局は配りっぱなしで、それがどの程度、守られたのかをモニターすることもありませんでした。

 日本でたいへん評判のいいある病院が、無菌手術の際に予防的に抗生剤を使用した事例120件について調査したところ、アメリカの疾病対策センター(CDC)が定めた「適性な抗生物質使用のための基準」に適合するケースがほとんどなかったと聞きます。多くの場合、抗生物質の選択が間違っていたり、投与量や投与時期が不適切でした。

 もちろんCDCの基準自体がほんとうに妥当かどうかという議論はあるでしょう。しかし、それにしても日本国内にそれに代わるガイドラインがいっさいないのでは、比較する術もありません。医者によって、薬の使い方がばらばらなのも無理からぬ状況です。

 もし、あなたが何の感染症にもかかっていないのに、医者や看護婦が抗生物質を投与しようとしたときは、その抗生剤が治療のためなのか、単に予防のためなのかを尋ねてみることです。そして、もしその薬が予防のためだというなら、どんな病気を予防することが必要なのか、さらにその病院では感染予防のための抗生剤の使用について、どのようなガイドラインを定めているのか、詳しい説明を求めるべきです。

 患者からのこうした質問に対し、明確に答えられないような医者は、抗生物質に関する知識が貧弱だということです。