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ニュースレター(機関紙)

動物からうつる病気17 -最終回-
NL01050102
感染症

あとがき

国立感染症研究所 人獣共通感染症室
神山 恒夫


■1.はじめに

 「動物からうつる病気」について十数回にわたって一般的な解説をしてきました。
 動物は無意識に人間に対して直接または間接的に何らかの危害を加えることがあり、その危害の一つが「人獣共通感染症」と呼ばれる動物由来の感染症のグループであること、そして人間のかかる感染症のうちの多くが動物由来であることがご理解いただけたと思います。
 海外では、環境や生活習慣への不慣れや言葉の問題もあって気がつかないうちに健康被害を被るケースもありがちです。このシリーズで繰り返し述べた基本的な考え方を参考にしていただければ幸いです。
 シリーズを終えるに当たり、人獣共通感染症の全体像を表1にまとめました。感染源動物の側と伝播ルートの側の両方から、もう一度レビューしてみましょう。

■2.感染源動物の側から見たとき

 人獣共通感染症のほとんどは本来は動物の病気です。このため感染源動物の種類ごとに分けて考えることで、さまざまな人獣共通感染症の特徴と対策を見いだすことができます。

● ペット
 人間とペットは非常に密着した距離で生活しているため、咬まれたり引っ掻かれたり、また気づかずに排泄物(糞や尿)に触れた手を口にもっていったりして人獣共通感染症がうつる直接伝播(後述)が多いことがあります。
 最近では従来のペットとは異なるエキゾチックアニマルと呼ばれる動物をペットとして飼育する人が増えています。しかし数千年以上もの時間をかけて人間との共同生活に必要な安全性が確立されてきたイヌやネコでさえ、時として彼ら特有の感染症を人にうつすことがあることを考えると、エキゾチックアニマルの持っている危険性の大きさは容易に想像できます。

● 野生動物
 国や地域によって生息している野生動物の種類や数は異なり、日本にもタヌキ、イノシシ、サル、キジ、コウモリ、鳥類など、人間と近い距離で生きている野生動物がたくさんいます。またレクリエーション等で野外活動をする場合に野生動物の世界に足を踏み入れる機会はよくあります。

● 都市型野生動物
 ネズミ、ハト、カラスなどの都市型野生動物は世界中のほとんど全ての人間の生活圏で見ることができます。彼らの食生活と住生活は人間社会に強く依存しており、集団の密度も他の野生動物に比べて高い都市型です。このため動物本来の感染症に加えて、人間の感染症を拡げる危険性もあります。

● 家畜/魚介類
 牛や豚をはじめとしたさまざまな種類の家畜の肉や乳などや魚介類が人獣共通感染症の原因となった例が多数あります。このグループの人獣共通感染症の特徴は、食中毒などで家族や集団が一度に感染することが多いことです。
 この他に

● 学校動物(学校や幼稚園、および老人施設などで飼育している動物)

● 展示動物(動物園や水族館などの施設で飼育されている動物)

● 実験動物(実験用の動物が人間への感染源となった例もあります)
がありますが、これらについてはこのシリーズでは取り上げませんでした。

■3.伝播ルートの側から見たとき

 人獣共通感染症の病原体の伝播は感染源である動物から直接人にうつる「直接伝播」と、感染源動物と人間との間に何らかの媒介物が存在する「間接伝播」の、大きく二つに分けることができます。さらに間接伝播は環境やベクターや乳肉・魚介類が媒介するルートに分けて考えることができます。

● 直接伝播
 咬み傷や引っ掻き傷からの病原体の侵入が典型的なものです。また、特に子供に多いのは動物に触って糞などで汚染した手を口に持っていくことで感染するルートです。ペットなどに多い感染ルートです。

● 環境媒介
 病原体で汚染された水や土壌と接触したり口に入れたりして、また排泄された病原体が舞い上がって空気を吸い込むことで感染するものもあります。この感染ルートの特徴は環境が病原体に汚染されていることには通常は気がつかないことです。

● ベクター・中間宿主媒介
 ノミやダニなどが感染動物から人間へと吸血などによって病原体を伝播したり、寄生虫の卵や幼虫が巻き貝などの体内で成長して人間に感染するルートです。

● 乳肉・魚介類媒介
 家畜や魚介類が病原体を持っている場合、その肉をあまり熱を加えずに食べたり乳を飲んだりすることで人獣共通感染症が伝播するルートです。

■4.おわりに

 人獣共通感染症の多くはそれぞれの土地特有の風土病的な性格を持ち、世界中に200から300くらいあると思われます。24時間以内に世界中のどこへでも移動することができ、世界中を物資が流通するようになった現在では病原体の移動速度も速まっています。いつ、どのような見知らぬ感染症に遭遇しても、不思議ではないでしょう。実際、最近になっても従来知られていないたくさんの感染症が次々に見つかっています(モービリウイルス感染、ニパウイルス感染、クリプトスポリジウム症、プリオン病、大腸菌O157など)。そしてその多くが動物由来であることも分かってきました。
 しかし人獣共通感染症に対する基本的な予防対策には、必ずしもこれら多数の感染症に関する専門知識を必要とするものではありません。特に専門的な知識を持たなくても、いくつかの簡単な注意をはらうことで予防できる場合が多いことをお分かりいただけたと思います。
 ペットに関して言えば、エキゾチックアニマルを除けばペットを飼うことをやめる必要は全くありませんし、動物由来食品も生活必需品です。われわれ人間はペット、家畜、野生動物などの多くの動物と、ある意味で共存して生活しています。人獣共通感染症の予防にも動物との絆を断たずに病原体の伝播だけを断つ方法を考えてゆく必要があるでしょう。