• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

動物からうつる病気16
NL01040103
感染症

ペットからうつる病気その4 げっ歯類から

国立感染症研究所 人獣共通感染症室
神山 恒夫

■1 はじめに
 げっ歯類と呼ばれるネズミの仲間(ネズミ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、リス、プレーリードッグ、チンチラ、スナネズミなど)やウサギ類(イエウサギ、ノウサギ、ナキウサギなど)はペットとして飼育されている数も多く、野生でも人間のそばに多数棲息しています。このため多くの人獣共通感染症の感染源となることが知られています。

■2 げっ歯類やウサギ類が感染源となる主な人獣共通感染症
1.リンパ球性脈絡髄膜炎
 この病気は無菌性髄膜炎やインフルエンザ様の症状(発熱や頭痛など)を示すウイルス感染症です。南極大陸を除いて世界中に存在していると言われます。原因は元々野生ハツカネズミの持っているLCMウイルスで、ハムスターなどのげっ歯類も感染源となります。われわれの研究室ではおよそ10年前に関東地方の港湾で捕獲したドブネズミから日本で初めてこのウイルスを分離することに成功しました。このウイルスは外国からの輸入貨物にまぎれていたげっ歯類と一緒に侵入してきたと思われましたがそれ以上の追跡は不可能でした。
 LCMウイルスは感染した動物の尿や唾液の中に出てくると言われていますので、予防法としてはネズミ類を駆除したり、接触に注意することが重要となります。

2.サルモネラ症
 サルモネラ菌による集団感染や食中毒事件の発生は報道等でよく見聞きします。その多くは人獣共通感染症としての食中毒やペットからの感染です。このうち食中毒は乳、肉、卵などが元来汚染されていたり、ネズミ類の糞などによって二次的に汚染されることが原因で起こります。食堂、学校、その他の施設などの調理室が汚染された場合には大規模な食中毒事件となります。
 基本的には一般的な衛生対策を守ることで防げる感染ですが、言うは易く行うは難し、世界中で起こっている感染です。

3.レプトスピラ症
 レプトスピラはらせん型をした活発に動き回ることのできる細菌で、世界の各地に存在している人獣共通感染症の原因です。菌はドブネズミ、クマネズミ、および野ネズミなどの腎臓内で増殖して尿の中に排泄され、これによって水系汚染が起こります。ヒトは感染すると高熱を出したり、筋肉痛などの症状があらわれ、黄疸が出て致命率が高くなることもあります。
 予防法は水系汚染を防ぐことが基本となります。なおレプトスピラ症の感染源動物はネズミだけではなく、ペットとして飼っている犬からの感染も知られていますので、飼い犬の健康管理(獣医師による健康チェック)が人間の健康管理に直接関係してくると言えます。

4.ライム病
 これもらせん型で動きの活発な細菌によっておこる感染症です。アメリカのコネチカット州のライムという町で流行したことにちなんでこの名前がありますが、北半球に広く分布していることが分かっています。菌を保有している野ネズミ類からダニの吸血によってヒトにうつります。ダニに咬まれた部分の周辺に紅斑ができるほか、疲労感、発熱、関節炎、それに心臓への影響も現れます。
 発症の時期は春から夏が多く、これはダニの活動が活発であることと、人間の戸外活動が盛んな季節であるためです。感染の予防としてはダニがいると思われる草むらなどでは、長靴、長ズボン、長袖など露出部分へ注意を払うことが大切でしょう。

5.鼠咬症(そこうしょう)
 これは名前の通り、ネズミなどのげっ歯類に咬まれたときに口腔内にいる菌が侵入しておこる感染です。原因になる細菌には少なくとも2種類が知られています。局所症状としては咬まれた部位の炎症や発赤、全身症状として発熱などが現れます。アメリカで行われた調査ではネズミに咬まれたヒトのうち約10%が鼠咬症を発症したとされています。
 予防法はネズミに咬まれないようにする以外にありません。ペットとして飼っている場合には飼っているげっ歯類の種類や、同じ種類でもそれぞれの動物の性質によってヒトを咬む可能性に差があることに注意するべきでしょう。また、捕獲したイエネズミや野生げっ歯類は興奮して攻撃的になり、ヒトを咬む危険性が一層高いと思われます。

6.類鼻疽(るいびそ)
 これは野生げっ歯類を始めとしてさまざまな動物が感染源となりうる細菌感染症です。ヒトへの感染は、感染動物によって汚染された土壌(水田や畑)の中にある類鼻疽菌によります。東南アジア、オーストラリア北部、東アジアをはじめ世界各地に存在していると考えられています。類鼻疽が存在している地域に滞在中、あるいはそれらの地域から帰国後に敗血症の診断を受けたり化膿巣が見つかった場合には本症の可能性も疑われます。特に糖尿病などの基礎疾患がある場合には感染の確率が高いとされています。

■3 ネズミ対策
①ペット
 げっ歯類は小型哺乳類の中でペットとして人気があり、家庭だけではなく、学校などでも手軽に飼育されています。実験室で生産された動物やペット用として繁殖された動物は、感染症を保有している危険性は低く、その意味では安全性が高いと言えます。しかし、ネズミ類にとっては大きな脅威とならない微生物でも、一旦人間にかかると発症するものがありますから十分注意が必要なことは言うまでもありません。

②野生ネズミ
 一部に野生げっ歯類をペットとして飼育している愛好家がいます。しかし、以前に「プレーリードッグとペスト」の項(本紙№74)でも述べましたように、感染症予防の観点からはこれはとても大きな危険性が伴う行為といえます。動物を自然界から人工的な飼育環境にうつして、自然界とは異なる飼料を与えたりすることでさまざまなストレスが加わり、通常野生動物にとって害のない病原体でも増殖して人間にかかりやすくなります。感染症の病歴が不明な野生動物をペットとすることは厳に慎むべきでしょう。

③都市型の野ネズミ
 ドブネズミやクマネズミは人間による管理を全く受け付けない野生動物ですが、生活、特に食と住はほぼ完全に人間に依存して生きています。これらの、ペットでもなく大自然の中の野生動物でもない独特のライフスタイルを持っている動物を私は都市型野生動物と呼んでいます(ほかにカラスや、ドバトなども含まれます)。都市型野ネズミはビル、家屋、地下鉄などの構内に棲息し、世界中の大都市はもちろん都市化があまり進んでいない地域にも住んでいます。人間と最も身近な「野生動物」です。これらの動物は数も多く、一旦その中で病気が流行すると直ちに人間に対する大きな感染源となる可能性をはらんでいます。

■4 おわりに
 げっ歯類やウサギ類はイヌやネコに次いで多く飼われているペットであるばかりでなく、様々な形で私たちの周囲にいます。彼らからは、咬傷による感染、接触感染、ダニによる伝播、水系汚染、土壌汚染、食中毒と、実にさまざまな経路によって人獣共通感染症の感染が認められてきました。これらの病気の予防法はネズミ対策(駆除)を中心とした一般的な衛生管理であることを改めて確認したいと思います。

筆者注)この記事はシリーズでお送りしています。記事に関するご質問やご相談はFax:03-5285-1179またはE-メール:kamiyama@nih.go.jpでお寄せ下さい。ただし、このシリーズは治療法や診断法の解説は目的とはしておりません。また参照した論文や成書の出典は、スペースの関係で省略しています。