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ニュースレター(機関紙)

動物からうつる病気 15
NL01030105
感染症 /猫

ペットからうつる病気 その3 ネコから


国立感染症研究所 人獣共通感染症室
神山 恒夫

■1 はじめに
 ネコはイヌと並んで世界中で人気のあるペットです。日本では約10%の家庭で合計約700万頭、アメリカでは約30%の家庭で合計約6,000万頭のネコが飼育されているといわれます。ヨーロッパではイギリス、ドイツ、フランスで600-800万頭のネコが飼われています。このように数も多く人間のすぐそばで生活している動物ですから、ネコの健康状態が悪い場合にはヒトに病気を移す機会も高くなります。ここではネコによってうつされる人獣共通感染症のうち代表的なものについて説明します。
■2 ネコからうつる感染症
トキソプラズマ症
 この病気は代表的な人獣共通感染症として知られています。原因となるトキソプラズマ原虫は全ての恒温動物に感染しうるのですが、ネコ科の動物の腸管内ではオーシストと呼ばれる直径約10μm(1mmの約1/100)位の球状の殻に入った原虫となり、それが便とともに排泄されます。オーシストは外界の環境条件の変化に対して抵抗性が強く、ネコの便が乾燥して舞い上がり、人間やほかの動物の口の中にはいると感染します。
 トキソプラズマはネコからブタやヒツジなどにも感染して長期間(恐らく生涯)筋肉内などに潜伏しています。そのため豚肉や羊肉などを加熱不十分なまま食べたり調理器具に生肉が付着しているとそれによって感染することもあります。
 免疫状態が正常であればトキソプラズマは感染しても無症状であったり、風邪様症状で終わってしまうことが多い原虫です。しかし、妊娠初期の女性が初めて感染した場合には原虫が胎児に移行して胎児の神経系や眼を冒し、早・流産、および先天性トキソプラズマ症をおこす危険性があります。
 トキソプラズマに感染する危険性はネコの飼育状況や食習慣(肉の調理方法)によって異なりますが、妊娠の可能性のある女性はネコや生肉の取り扱いに十分気をつけて下さい。
ネコ引っ掻き病
 この病気はネコの引っ掻き傷からバルトネラと呼ばれる細菌が侵入しておこります。患者の多くは子供や若年者です。ネコに引っ掻かれたり咬まれたりしてから1-3週間して痛みのあるリンパ節の腫脹があらわれ、それが2-3週間続きます。多くの場合は腕の内側や腋窩、頸部、鼠径部のリンパ節に病変があらわれますが、発熱や心内膜炎をあらわすこともあります。免疫状態が低下している人では重症化することも知られています。
 ネコはバルトネラ菌を保有していても普通は症状をあらわしませんが、多くのネコ、特に子ネコが高頻度で菌を保有していることが知られています。ネコがバルトネラ菌を持っている確率は国や地域によって大きく違います。また、ネコとネコの間の菌の伝播はネコノミが媒介するため、ネコノミの分布状況や飼育方法によっても大きく違います。一般には温暖で高湿度の気候の土地で保有率が高いと言われますが、これはそうした地域ではネコノミの数が多いことと関係していると思われます。
 この病気の予防にはノミの駆除など、ネコの衛生的な飼育、さわったあとの手洗い、傷が付いた場合の早期の洗浄と消毒などが効果があります。


図1:アメリカでのペスト予防啓発ポスター。
ペストの感染源動物として、げっ歯類やウサギとならんでネコがあげられている。




ペスト
 ペストは現在日本国内にはありませんが世界じゅうで毎年数千人の患者と約10%の死亡者が出ている人獣共通感染症です。ペストはもともとはネズミなどの野生げっ歯類の病気ですが、ノミが媒介してヒトにも感染します。しかしネコが重要な感染源動物になりうることについてはあまり知られていません。
 ペストが存在する地域では屋外に出たネコが感染ネズミを捕まえて食べたり、ノミに刺されてペストに感染することもあります。ネコはペストに感染すると口腔内にペストを含んだ膿瘍ができます。そのためなめたり噛みついたりすることでも感染の危険性があります。また、感染したネコの咳の中にもペスト菌が含まれています。アメリカでは過去20年間に毎年約一名の割合でネコからペストをうつされています。
 アメリカのコロラド州のフォートコリンズ市にあるアメリカ疾病管理センターのペスト研究チームではペスト予防のキャンペーンポスターを自作して感染の危険性の高い地域に配布しています(図1)。ポスターの上部にはプレーリードッグやリスなどの野生げっ歯類とならんで、ネコが危険動物であることが示されています。ペストが常在している地域ではペット、特にネコに対する注意と管理は重要です。
狂犬病
 以前にも述べましたが狂犬病は、病名から誤解を受けがちなのですが、イヌだけの病気ではありません。全ての哺乳動物がかかります。そして人間に対する感染源となり得ます。そのため、日本では海外からのネコの持ち込みに対しては狂犬病の侵入を主な目的として検疫を行っています。狂犬病が存在している地域に滞在中の方はネコが狂犬病の感染源になることを忘れないで下さい。

■3 おわりに
 ネコは人間と同居して飼われていることが多いために、直接接触によって感染する人獣共通感染症が多いと言えます。今回は触れませんでしたが、イヌと同様にパスツレラ症や皮膚糸状菌症の感染源としても注意を払う必要があります。ネコを清潔に健康に保つことが飼い主の健康にも大きな効果があると思われます。

筆者注)この記事はシリーズでお送りしています。記事に関するご質問やご相談はFax:03-5285-1179またはE-メール:kamiyama@nih.go.jpでお寄せ下さい。ただし、このシリーズは治療法や診断法の解説は目的とはしておりません。また参照した論文や成書の出典は、スペースの関係で省略しています。