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ニュースレター(機関紙)

海外生活でのこころとからだの健康 5
NL01020105
出産 /メンタルヘルス

海外で「いいお産」を

アーバンハイツクリニック 心療内科 斧澤 克乃

1 はじめに
 海外に駐在員として派遣されるカップルの中には、初めて妊娠や出産を迎える年代も多いことでしょう。英国では、年間300人以上の邦人女性が出産するといわれています。里帰り分娩もできず、言葉も習慣もちがう中でお産を迎えるのは、ストレスも大きいことでしょう。どうしたら、海外で「いいお産」ができるのでしょうか。

2 お産は一大イベント
 1999年には、女性が一生に産むこどもの数は1.34人。現代では、お産は女性の生涯にとって一大イベントとなりつつあります。したがって、いかに「いいお産」をするかが、女性の生涯の健康や幸福感に大きな影響を与えることになるといってもよいでしょう。
 妊娠中は日を追って大きく体が変化してきますが、心理的にも環境が劇的に変化します。すなわち、ホルモンなどの内分泌環境の急激なからだの変化とともに、母親という新たな役割を担うことによって、妻として、嫁としてなどの役割変化が生じます。また、出生率の低下と核家族の増大に伴って、母子を取りまく社会的環境も大きく変化しています。これらの変化によって、妊娠中や出産後の女性は、こころの動揺や失調を来たしやすく、女性のライフサイクルから考えると、ひとつの危機状況に置かれるといっても過言ではないでしょう。

3 妊娠中から始まるストレス
 子どもが欲しいとどんなに強く望んでいたとしても、妊娠はさまざまなストレスを引き起こし、心身のバランスを崩す可能性があります。妊娠中からの持続する環境の変化に、産後はさらに疲労、睡眠不足が重なり、ストレスに対しての抵抗力が低下することによって、さらに精神的に不安定になっていきます。
 母親として子どもの要求に答えなければいけない、有害な環境から守らなければならない、新しい家庭や仕事上の要求に答えなければならないなど、ストレスは計り知れません。
 ここで問題となるのは、妊娠や出産をきっかけとして、今まで抱えていたさまざまな問題が表面化し、顕在化して来る危険性があることです。もともと人間関係の不和(夫婦、嫁姑、実母との親子関係)や精神科疾患などがある人は、特に注意が必要です。

4 お産の不安と未知への恐怖
 子どもを産むということは、女性にとって大きなよろこびですね。しかし、だんだん予定日が近づいてくると、お産が待ち遠しい反面、不安や時に恐怖感がわいて来ることもあるでしょう。お産はどんなふうに始まるのか、一人のときにお産になったらどうしよう、陣痛はどんな痛みで、それに耐えられるのか、など不安は尽きません。
 だれでも、初めての体験、知らないことについて不安や恐怖感を抱くことは当然です。さらに、子どもが生まれることによって環境が劇的に変化し、自分でコントロールできなくなってしまうのではないかという不安や焦りが、恐怖感を生み出す1つの要因ともなります。

5 「お産に失敗」したくないプレッシャー
 例えば、高学歴でばりばり活動的に働くキャリアウーマンだった女性が、お産をきっかけに不適応に陥るのをしばしば目にします。彼女達は、妊娠中も模範生。出産のために万全に準備し、何ごとに対しても主体的に積極的に取り組みます。マタニティスイミングに通い、出産育児関連の読み物を読破し、母親学級には夫婦そろって参加するなど、すべて自分の思い通りに完璧に理想の出産に向かって突き進んでいくのです。
 しかしながら、分娩がちょっと長引いたり、赤ちゃんが標準体重よりちょっと小さかったり、母乳がうまくあげられなかったりすると、「お産に失敗した」と思い込んでしまうのです。逆にいえば、失敗したくないと思いすぎて、余計なプレッシャーを感じ、その結果必要以上の不安や恐怖感を感じてしまうのです。

6 几帳面で完璧主義は要注意
 キャリアウーマンはひとつの例ですが、几帳面で完璧主義の人が同じような傾向にあるようです。何もかも自分でやらなくては気が済まないため、素直に周りの人に相談できず、ますます孤独感や孤立感をつのらせてしまいます。また、もともと神経質な人は、育児書やテレビ、雑誌等を通じて過剰な知識を持つことによって、かえって不安をつのらせることもあります。
 赤ちゃんが欲しくて妊娠した人は、自分自身が望んでいたことですから、基本的には妊娠を喜んでいるものです。しかし、赤ちゃんが欲しいという気持ちがどんなに強くても、実際に妊娠して訪れる予想以上の持続的、かつ、急激な変化に気持ちがついていけないこともあります。逆に、何も考えていなかった人でも、妊娠や出産を受け入れられる人もたくさんいます。
 大切なのは、受容された妊娠であり、十分なサポートが得られるかどうかです。シングルマザーや障害を持つ子どもの親などは、かえって、サポートシステムが充実していて助けが得られやすいこともあるようです。

7 適度な情報収集で、いいお産のイメージ作りを
 妊娠をきっかけに、さまざまな情報を集めることに夢中になって、頭だけが大きくなってしまうと、かえって恐怖感が強くなってしまいます。めったにないケースが自分にあてはまってしまうのではないかとか、お産とは大変なものだと認識して、前向きに臨めないと思い始めてしまうことです。
 自分自身が安心できる程度の情報の取り入れ方をし、順調な妊娠、無事お産をすることを、常にイメージするようにしましょう。また、実際にお産を体験した先輩ママの話を聞くと、「大変だったかもしれないが、無事に元気な赤ちゃんを産めた」ということを、実感させてくれるかもしれません。

8 母親になる不安や戸惑い
 母親になることに最初から自信のある人はだれもいません。そして、すでに子どもがいるお母さんでも、毎回妊娠も出産も不安なものですし、新たにきょうだいが増えることで生まれるストレスもあります。いつでも誰でも不安や戸惑いはあるものです。
 自分が母親になるという体験を通じて、さまざまな葛藤が起こります。例えば、まだまだ自分が親に甘えたいのに、自分が今度は全面的に依存される対象になるのは、大変こころが不安定になるものです。時に子どもは、夫との愛を獲得するライバルともなり得ます。
 また、もともと子どもが好きでないひとは、自分が子どもの時に感じていた親のイメージが否定的な人が多いように思います。ですから、子どもは自分から自由を奪い、苦痛を与える対象と考えてしまうこともあります。また、子どもを愛せるかどうか、子どもにどう接したらよいのかなどといった不安も抱きかねません。苦手意識や嫌悪感があっても、実際に赤ちゃんと接してみれば、案外素直に受け入れられるものです。

9 育児を通じて母親になる
 母親というのは、子どものすべてを受け入れ、子どものためには何でも惜しみなくできる特別な存在というイメージがあります。父親の育児参加などがクローズアップされている最近ですが、やはり育児に関しては母親に頼るところが大きいでしょう。そうなると、自分にそんな大役が務まるのか、今まであった自分の時間が全部子どものために使われてしまうのではないかと、不安をつのらせてしまうことは珍しいこととではありません。
 しかしながら、妊娠中から、いくら母親になるための準備をしても、初めから母親になれるわけではありません。赤ちゃんがどうして泣いているのか分からない、自分の子どもなのに思いどおりにならない、母乳がうまく出ないなどといったことから、母親として自信喪失につながってしまう人もいます。
 世の中の母親がすべて完璧なわけではありません。「子どもと一緒に成長していく」という気持ちで育児にのぞみましょう。初めてなのですから、ゼロからのスタートでよいのです。あせらず、マイペースで育児を楽しみましょう。

10 悩みや不安は声に出して
 産後は、急激なホルモンの変化に加え、寝不足などの不規則な生活、慣れない育児によるストレスが、不安に拍車をかけてしまうことが多いものです。また、お産という「晴れの場」では、つらくても本当の気持ちを周囲に打ち明けにくいとか、また、産褥婦は病気ではないと考えられ、周囲も本人の努力不足のように考えがちで、共感してもらえず、母親はますます追いつめられてしまうことがあります。
 育児は24時間連続的なものですし、初めてのことばかりです。迷いや不安があるからといって、特別なことではなく、それで母親としての自信をなくす必要はないのです。
 それでもストレスと感じてしまった場合は、自分の気持ちを素直に話すことが有益です。また、他のお母さんたちと交流を持ち、情報を交換したり、不安を共有することも助けになるでしょう。さらに、自分の状況をしっかり把握してもらえる友人や医師、助産婦と出会うことも重要でしょう。自分一人で思い悩まずに、自分の気持ちを信頼できる人に話してみることです。

11 自分なりのストレス対処法を
 ストレスをうまくコントロールするには、ストレスと共存していくことが重要です。それには、自分の行動パターンやものごとの考え方、感じ方を変えることが効果的です。ともすると、タバコやお酒の量が増えたり、やけ食いをしがちですが、健康を余計害するような行動は避けましょう。音楽を聴く、散歩をする、妊娠中だからこそできることなどを見つけて、気分転換をはかりましょう。
 大切なことは、ストレスに気づくこと、ストレスをためないこと、そしてストレスを上手に発散することです。健康な食生活、リラクゼーション、適度にからだを動かす、休養を取ることに努めましょう。そして、家事や育児、仕事をやり過ぎないように注意しましょう。周りの人々に、どんどん協力を求めればよいのです。
 自分一人で抱え込まないことが大切です。早めに専門医(心療内科医や精神科医)に相談するのもよいでしょう。あまりなじみがないかもしれませんが、もっと気軽に相談してください。

(編集部注)この記事はシリーズでお送りしています。筆者斧澤克乃(おのざわ かつの)先生は、メルボルン大学院でウィメンズヘルス(女性の健康学)のディプローマを取得後、英国のジャパングリーンメディカルセンターで駐在員ほか在英邦人のメンタルヘルスの増進に務められ一昨年帰国されました。