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ニュースレター(機関紙)

海外生活でのこころとからだの健康4
NL01010104
メンタルヘルス

海外生活と女性の健康

アーバンハイツクリニック 心療内科 斧澤 克乃

1 海外生活での女性の役割
 海外で家族が安心して暮らせるためには、やはり妻として、母としての女性の貢献が欠かせませんね。海外では、1人で暮らすだけでも大変なのに、夫や子供の方を優先して、自分の英語もままならないのに一番英語を必要とする分野を引き受ける役割は大変重要です。異国では日本の食材も手に入りにくく、献立を考えることさえ大変なのですから。

2 女性は要注意
 英国に住む日本人の過半数は女性で、大半は20代から30代、日系企業の駐在員の妻や単身赴任者、語学留学生、国際結婚している妻などさまざまです。
 ロンドンで行われた調査によると、ある1年間にボランティアによる電話相談を利用した人々のうち、8割は女性でした。職種別では、駐在員21%、主婦50%、留学生29%でした。

3 駐在員の妻の場合
 海外に赴任することが決まってプロポーズされ、海外で初めて二人で暮らし始めるカップルも多く、妻は、異国に駐在したばかりでストレスのたまっている夫の影響を受けやすい立場にあります。夫婦関係もまだ手探りの状態の中で夫に過度に気を遣い、仕事の妨げにならないようにとしていることが、かえって二人のコミュニケーション障害を悪化させている場合があります。
 海外で初めて妊娠や出産を迎える女性も多く、英国では、年間300人以上の邦人女性が出産を経験するといわれています。簡単に里帰り分娩ができない場合も多く、日本からお母さんが英国にみえて身の回りの世話をすることもあるようです。ロンドンには英国の免許を持った助産婦さんもいらっしゃいますので、日本語で安心して出産を迎えることもできます。しかしながら、地域によっては、言葉が分からない中で出産や育児をし、サポートも十分に得られないまま、不安と戸惑いの中で途方に暮れ、育児不安やうつ状態に陥る方もいらっしゃいます。
 それから、駐在員の間では、日本の企業社会のしきたりがそのまま海外に持ち込まれるため、日本にいるときと同様もしくはさらに厳格に、縦社会のおきてや年中行事を実践するよう要求され、妻達の間にも、持ち回りのホームパーティや昼食会など、相当のストレスがかかるようです。
 また、海外では思ったほど楽しめるところが少ないのもストレスの原因となります。
 さらに、夫婦関係においては、日本にいた時から抱えていた問題が、海外に来て表面化し、問題化する場合があります。日本に居たときの何倍もの夫婦の時間を持つことができ、二人の絆も強くなる一方で、今までお互いに見えなかった部分が見えてきて、かえって関係が悪化する危険もあります。暴力や浮気、アルコール依存など、会社の人たちに知られてはならない秘密が増え、誰にも相談できずに苦しむ結果となることもあります。
 さらに、親の都合で海外に住むことになった子どもたちが、学校で不適応に陥ったり、家庭内暴力に走るようになったり、自閉症になったりと、家族がばらばらになってしまうこともあり、自分を責めてしまう女性も多いのです。
 もちろん、中には、英語学校や、英国ならではの習い事に通ったり、テニススクールで真っ黒に日焼けして自分の世界を広げている、たくましく生き生きとした女性たちもたくさんいらっしゃることを付け加えておきます。

4 国際結婚の場合
 英国人と国際結婚する邦人女性も増えています。国際結婚のトラブルのほとんどは、文化的なステレオタイプ(固定観念)とそれに伴う非現実的な期待に起因しています。例えば、邦人女性は英国人男性に対してレディーファーストを守り、女性のためにさっとドアを開けたり、いつも「愛してるよ」と口に出して言ってくれるような「英国紳士」のイメージを抱いていたのが、実はよりフットボールフーリガンに近かったとか、一方英国人の男性は邦人女性に対して、芸者のような「尽くす女」のイメージを投影させていたりなど、最初は言葉が十分に通じなかったためによく理解できなかった部分が、だんだんと見えてくるのです。
 また、子どもができた場合、育児に対する文化の違いも予想以上に大きく、意見の相違から夫婦関係が破綻し、別居や離婚によるシングルマザーも増えつつあります。英国には自助グループ(セルフヘルプグループ)もありますが、社会的に立場が弱く、日本の家族や友人にも相談できず、孤立してしまうことも多いようです。夫を通じてのみ社会に関わるのではなく、自分の足で世界を広げることも必要です。

5 語学学校生の場合
 日本でのOL生活をやめ、帰国したら英語を生かした職業に就いて、ばりばり働きたいと希望に胸を躍らせ、海外に繰り出したものの、思うように英語は上達せず、あせる一方です。物価が高く、生活を切りつめなければならず、食費はもちろん、好きな映画も音楽も我慢しなければいけません。銀行口座が開けないとか、大家さんとトラブルになったり、フラットメイト(同居人)の外国人たちとうまく合わないなど、勉強に集中できる環境がなかなか得られません。知り合った英国人男性とは、うまくコミュニケーションが取れず、気がつくと貢ぐ女になってしまっていることに気づくなど、悩みは尽きません。
 また、帰国が近づいてくると、この程度の英語では、日本に帰ってもやめてきた仕事より良い仕事などとうてい見つけられそうにないと急に焦り、不安で夜も眠れなくなったり、帰りたくないからかといって学生ビザを延長しようとしても、生活費を稼ぐためにアルバイトばかりしていて、語学学校の出席日数が足りず、ビザも延長できそうにないなど、八方ふさがりになって身動きが取れなくなってしまう学生さんも多く見かけました。
 また、日本で既に不適応の問題を抱えていて、逃避的に留学された方や、英国に居たいのではなく、日本が嫌だから英国に居るというような目的意識のはっきりしない方たちも、多くからだの不調を訴えて心療内科の外来を訪ねて来られました。

6 女性の健康学
 女性のこころとからだの健康は、ホルモンなどに代表される生物学的な性(セックス)に影響を受けるだけでなく、社会環境の変化などの心理・社会学的な性(ジェンダー)にも大きく左右されます。女性を取りまく社会的環境は劇的に変化しており、また長寿化と少子化によるライフサイクルの変化は、女性のこころの発達に重大な影響を及ぼします。女性は、特に月経、就職、結婚、妊娠、出産、育児、閉経など、心理的な葛藤を生む様々なストレスを生涯体験することになります。また、不妊症や幼児虐待(チャイルド アビューズ)、配偶者からの暴力(ドメスティック バイオレンス)の問題もこれからますます取り組むべき課題です。
 さらに、女性の社会進出が進み、生き方(ライフスタイル)の選択肢が増えた一方で、あまり変わらぬ伝統的な「女らしさ」の定義や、女として、妻として、母としての性役割(ジェンダーロール)の通念とのギャップが、さらに女性たちを苦しめています。抑圧された欲求は様々なこころとからだの症状を引き起こす可能性があります。女性が問題を抱える場合には、そういう観点から女性を診ていく必要があると思われます。
 現代社会において、女性のこころとからだの関連を理解することは大変重要で、単に女性の健康増進と病気の予防に役立つだけではなく、ひいては社会全体の健康にもつながります。互いの性の特徴を理解尊重しあって、それぞれが生き生きと生きられる社会の中でこそ、健康な営みが得られるのです。

(編集部注)この記事はシリーズでお送りしています。筆者斧澤克乃(おのざわ かつの)先生は、メルボルン大学院でウィメンズヘルス(女性の健康学)のディプロマを取得後、英国のジャパングリーンメディカルセンターで駐在員ほか在英邦人のメンタルヘルスの増進に務められ一昨年帰国されました。