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ニュースレター(機関紙)

動物からうつる病気11
NL00110105
感染症 /寄生虫

食品からうつる人獣共通感染症-その3 魚介類から

国立感染症研究所 人獣共通感染症室 神山 恒夫

■1 はじめに
 日本は世界でも屈指の魚介類消費国、特に新鮮な生または生に近い状態の魚肉を好んで食べます。そのためこの食習慣を原因とする魚介類由来人獣共通感染症も多くみられます。中でも魚介類を介する寄生虫感染が多数知られています。

■2 顎口虫症
 顎口虫(がくこうちゅう)と呼ばれる、イヌ、ネコ、およびブタなどに寄生する寄生虫がいます。便と一緒に排出された卵が水中で孵化すると淡水魚の体内で幼虫になり、これがヒトにも感染します。
 国内で多いのは雷魚やドジョウなどに寄生している有棘顎口虫による感染です。雷魚の刺身などと一緒に侵入した幼虫は肝臓や皮下を移動し、幼虫移行症(用語集参照)を引き起こします。国外では中国(長江浮腫と呼ばれる)、タイ、ビルマ、マレーシア、インドに多く発生しています。

■3 フィリピン毛細虫症
 寄生虫は感染しても慢性感染をする場合が多く、ウイルスや細菌感染に比べると死亡率も低いのが普通です。しかし、フィリピン毛細虫はヒトに感染すると重症で、致死率の高い感染を引き起こすことが知られています。フィリピンやタイでは死亡率が10%にも達する流行もありました。エジプトにもこの寄生虫の存在が知られています。
 フィリピン毛細虫の自然界での生態はまだ十分には調べられていませんが、感染の原因が淡水魚の生食であることはわかっています。大きさは長さが3~5ミリ、直径は0.05ミリ程度の小さな寄生虫ですが、腹痛、悪心、嘔吐、下痢、摂食障害などを引き起こします。重症の場合、消化吸収障害と難治性の下痢によって悪液質におちいり、死亡する場合もあります。

■4 アニサキス症
 アニサキスはイルカ、クジラ、オットセイ、アザラシなどの哺乳類に寄生している寄生虫です。アニサキスの卵はこれらの動物の便とともに海中に排出されて、魚などの体内で幼虫になります。感染性幼虫が寄生していることの多い魚介類はニシン、タラ、オヒョウ、サバ、サケ、ソイ、マンボウ、カツオ、メバルそれにすスルメイカです。
 これらの魚介類を生のまま(寿司、刺身、中南米のセビチェ、ハワイのロミ・ロミサーモンなど)または調理不十分な状態で食べることで感染します。重症の場合、食後12時間程度でアニサキスが胃や小腸の粘膜または粘膜下に侵入し、胃の上部の痛みや悪寒、嘔吐、下痢などの症状が現れます。
 アニサキス症は日本と同様に魚を生食する習慣のある北海沿岸諸国、特にニシンを好んで生食するオランダなどにも多い病気です。また、最近はアメリカでも増加しています。アメリカのアニサキス症は、大部分が自宅での調理によって感染したと思考えられています。一方寿司バーなどでは経験のある寿司職人が調理するために寿司や刺身から感染するケースは希であるといわれています。
 ワシントンDCで販売されていたタラの切り身の90%にアニサキスが認められたという報告もあります。切り身についているアニサニスは褐色ないし赤褐色をしているので肉眼でも容易に見つけることができます。
 アニサニスは魚肉を十分に凍結(-35℃以下で5時間、または-23℃以下で1週間以上)することで感染の危険性を完全になくすることができます。凍結が不十分な場合には内部まで60℃以上に達するように加熱することでも感染性がなくなります。
 しかし、アニサキスは一般的な調理方法に対しては抵抗性が強い寄生虫です。例えば、電子レンジによる調理ではこの寄生虫は死ななかったという報告や、酢の中で51日間、醤油の中で1日、ウスターソースの中でも1日生存していたという調査報告もあります。低温での薫製処理や塩水漬けでも感染の危険性は残っています。

■5 肝吸虫症
 この病気は肝臓ジストマとも呼ばれた肝吸虫(かんきゅうちゅう)が感染しておこるもので、香港、韓国、台湾、ベトナムおよび中国、それに日本などの東アジアに分布しています。肝吸虫の成虫はイヌ、ネコ、キツネ、ブタ、ネズミ類などですが、便とともに排出された虫卵がマメタニシや淡水魚などを中間宿主として成長します。ヒトはモツゴ、フナそれにコイなどの淡水魚を生食して感染します。 
 肝吸虫はヒトの体内で30年近くもの間寄生し続けることもあり、数百匹の寄生虫が感染していた例も報告されています。症状の程度は寄生している成虫の数や感染期間によりますが、急性期には下痢、胃の上部の痛み、食欲不振などがみられます。
 東ヨーロッパや旧ソ連の一部、それにタイには日本などとは異なる種類の肝吸虫が分布していますが、これもやはりコイ科の淡水魚などを介してヒトに感染することが知られています。

■6 広節裂頭条虫症
 広節裂頭条虫(こうせつれっとうじょうちゅう)はヒトに感染する寄生虫の中で最も大型の寄生虫で、成虫は長さ数メートルにも達することがあります。しかし症状はほとんどないか、あっても軽微な場合が多く、悪心、腹痛、下痢、衰弱などをうったえます。
 この寄生虫の幼虫はサクラマスやサケなどの淡水魚に寄生しています。患者はこれらの魚を生食する地域に多く、ヨーロッパ各地、バルト海諸国、アメリカの五大湖地方、カナダ、日本、南米、オーストラリアなど世界各地でみられます。

■7 おわりに
 細菌などと違って、寄生虫は魚介類や肉の中では分裂や増殖はしません。このため寄生虫感染を防ぐためには食品の最初の処理方法が重要です。魚や肉は新鮮であればあるほど、その中にいる寄生虫もまた感染性が高いと考えられます。少しでも感染のおそれがあると考えられる場合には十分に凍結または加熱してから食べることが必要だと思われます。
 今回述べた以外にも魚介類を介して感染することが知られている主な寄生虫を表1に示します。グルメブームに踊らされたり好奇心から珍しい魚介類を生食したりしないよう、特に海外では自分自身による健康管理が求められます。

●用語集
幼虫移行症:(本紙No.78の再掲)
 固有宿主以外の動物に感染した寄生虫が成熟できずに幼虫のまま体内を移動して組織的な傷害を引き起こすことによって起こる症状。
 幼虫移行症の原因となる寄生虫としては、アライグマ回虫のほかにイヌ回虫、ネコ回虫、アニサキス、イヌ鉤虫など、多くの寄生虫が知られている。
筆者注)この記事はシリーズでお送りしています。記事に関するご質問やご相談筆者注)この記事はシリーズでお送りしています。記事に関するご質問やご相談はFax:03-5285-1179またはE-メール:kamiyama@nih.go.jpでお寄せ下さい。ただし、このシリーズは治療法や診断法の解説は目的とはしておりません。また参照した論文や成書の出典は、スペースの関係で省略しています。