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ニュースレター(機関紙)

海外生活でのこころとからだの健康2
NL00110104
メンタルヘルス

英国の生活と「うつ」
                                  アーバンハイツクリニック 心療内科
斧澤 克乃

①暗くて長い英国の冬
 英国に住む日本人にとって、暗くて長い冬をいかにのりきるかは大きな課題です。サマータイムが終わると途端に、気が滅入りはじめた方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は「うつ」についてお話しましょう。
 英国に来てから、天候に気分が大きく左右されることに気づかれた方も多いことと思います。「季節性感情障害(Seasonal・Affective・Disorder:SAD)」という疾病があり、日照時間の短い冬に、気分が落ち込みやすくなる症状で、英国では4人に1人がかかるともいわれています。

②海外生活と「うつ」
 それにしても、海外で暮らしていれば、異なった食生活、言語、気候、生活習慣、コミュニケーション方法、システムのなかで常にいろいろなストレスにさらされるわけですから、当然健康にも影響が出てくるはずです。5年ほど前の新聞に、駐在員の妻の4人に1人に「うつ」の症状がみられるという記事がありました。海外で生活することで、今まで潜在していた問題が表面化しやすく、サポートも十分に得られにくいため、問題の対処能力が相対的に低下して、「うつ」を引き起こしやすくなります。

③「うつ」はこころの風邪
 皆さんは「うつ」は「一部の人だけがかかる特殊な病気」と思っていませんか。ところが、実は「うつ」は現代病、「こころの風邪」のようなものです。WHOの予測によると近い将来「うつ」にかかる人の割合は、1位の癌に続き、第2位にまで増えると警告されています。いつでも誰でも「うつ」にかかり得るということを是非皆さんに認識して頂きたいのです。特に近年、「うつ」でありながらはっきりわかる「抑うつ症状」がみられない「軽症うつ」が増えています。本人はもちろん周りの人も気づかないことが多いようです。

④「うつ」の症状
 「うつ」の主な症状は、不眠(寝つけない、寝た気がしない、朝早く目が覚める)、疲れやすい、頭重・頭痛、腹痛、肩こり、腰痛、食欲不振、腹部違和感、便秘、めまい感、動悸、性欲の減退などのからだの症状が多く、抑うつ、気分が落ち込む、興味や喜びを感じられない、思考力の低下、自信喪失、イライラする、などの精神症状が前面に出ることは少ないのが特徴です。そして、朝調子が悪く、夜になるにつれて楽になる、日内変動があります。
 最初、体の不調として現れる、仮面うつ病も多く、診断がつきにくいため、頭痛、めまい、自律神経失調症、更年期障害、低血圧、心臓神経症、慢性胃炎、過敏性腸症候群、過換気症候群などとして、内科で治療されていることも多いのです。

⑤「うつ」にかかりやすいタイプ
 一般には、完璧主義、几帳面、責任感が強い、生真面目で人に気配りをしすぎる、せっかちで熱中しやすい、攻撃的なタイプほど「うつ」にかかりやすいといわれていますが、ストレスの多い現代社会においては、かかる可能性はどんな人にもあるといえるでしょう。
 例えば、日本での仕事をやめて単身英国に渡り、理想に胸をふくらませて新生活のスタートを切った語学留学生が、ふと気がつくと周りに英国人がほとんどおらず、思ったほど英語も上達せず、帰国しても前より良い仕事は見つかりそうにないと焦る。海外で自分の能力を試してみたいと志願して英国に赴任した駐在員が、いざ来てみたら雑用に時間と量力を費やすばかりで途方に暮れる、などのケースはまれではありません。
 また、海外で長く暮らして英語に堪能な方が、仕事の行き詰まりや恋愛関係の破綻などをきっかけに「うつ」を発症することもあります。
 さらに、一般にはあまり知られていませんが、女性では、マタニティーブルーとは別に、出産後の急激な環境の変化のために、「うつ」に陥る場合もしばしばみられます。

⑥「うつ」の治療法
 「うつ」は、過度のストレスにされされ続けた結果、人間の感情や思考を調節するためのエネルギーが消耗、枯渇し、脳の活動が低下した状態です。安静にして、エネルギーがたまって来るのを待つことが治療の第一歩になります。ここで大切なのは、からだが休んでいても考え事をしていれば、脳が休まらず、また、自分で無理にやる気を出そうとすれば、空回りしてエネルギーをますます消耗して、かえって逆効果になることです。家族の方も「怠け者」と尻をたたいて叱咤激励するのは控えましょう。
 「うつ」に対する偏見はまだ根強く、診断を恐れて1人で悩んでいらっしゃる方も多いと思われます。適切な治療をすれば治る病気ですし、他の病気と同様、早期発見・早期治療が重要です。体調がすぐれない場合は、早めに専門医を受診されることをお勧めします。

⑦「うつ」の予防法
 「うつ」の予防法としては、日頃から気持ちを前向きに持つこと、活動的に過ごすこと、また適度に運動をすること、疲労を感じたら早めに休養を取ることです。英国の冬にそんなことは無理とあきらめず、比較的天気の良い日には散歩をする、映画や展覧会、コンサートに出かける、友達を集めてパーティーをする、定期的に水泳やジムに通うなど、身近にできる気分転換を心がけて下さい。それぞれに合った時間の過ごし方を工夫して、英国の冬を明るくのりきって下さい。

(編集部注)この記事はシリーズでお送りしています。筆者斧澤克乃(おのざわ かつの)先生は、英国のジャパングリーンメディカルセンターで駐在員ほか在英邦人のメンタルヘルスの増進に務められ昨年帰国されました。