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ニュースレター(機関紙)

こころとからだの健康1
NL00090103
メンタルヘルス /ストレス

異文化の中でのこころとからだの健康

                                           アーバンハイツクリニック 心療内科
                                             斧澤 克乃
1 5.5万人の在英邦人
 海外赴任、留学、国際結婚など、いろいろな目的で渡英される方が増加傾向にあります。1999年現在、英国全体で約5.5万人、ロンドンだけでも約3.5万人の邦人が住んでいます。

2 同じ島国?
 日本と英国は同じ島国で似ているとよくいわれますが、実際住まれたことのある方は、相違点も多いことに気がつかれるでしょう。
 違う文化の中で暮らしてみることは、その国について知る貴重な体験ですが、生まれ育った自分の国についての長所や短所を再確認する意味でも、非常に有用な機会です。是非その機会を最大限生かしたいものですね。

3 ぶちあたる壁
 とはいっても、食事や言葉、気候、慣習、コミュニケーションの取り方やシステムも全く異なる環境に適応するためには、予想以上に多くのエネルギーを必要とします。様々な夢や希望を実現するために、好奇心とチャレンジ精神で胸を膨らませて海外にのり込む日本人は、海外で遅かれ早かれ壁にぶちあたり、不安、いら立ち、うつ、怒りなどから情緒不安定になりがちです。日本で英語を勉強してきたつもりなのに、いざ話してみると通じないとか、相手の言っていることが理解できない時、愕然とするのです。それは、単に言葉だけの問題ではなく、その背後の常識や考え方が異なるためと理解できるようになり、文化の違いを楽しめるようになるのは、大分経ってからのことでしょう。

4 日本人代表として
 さらに、海外で自分の力を発揮しためしてみたいとか、画一的閉鎖的な日本の社会を抜け出して自由に生きるために海外へ出たはずの日本人が、海外では意に反して日本人としての意見を求められたり、日本人らしい行動を要求されたりと、自分の個人的な好き嫌いに基づいて行動することができず、自分自身が日本人であることをより意識するようになり、窮屈に感じることがあります。実際、海外で暮らす日本人は、国内の日本人よりも伝統的なライフスタイルを実践するという、社会的にも心理的にも興味深い現象があることも指摘されています。

5 英国人とだけ
 中には、せっかく英国に来たのだから、英国人とだけ付き合わなければならないと思い込み、日本人との関係をいっさい拒否される方がいらっしゃいますが、これはより孤立感を高める結果ともなりかねません。もちろん、英語漬けの環境にさらされた方が英語の上達には近道かも知れませんが、英語は思うようには上達しませんし、英国人と友達になったり、英国の文化を理解できるようになるのには時間を要します。ですから、ときには、日本語の新聞や雑誌を読んだり、日本食を食べたり、異国での困難な体験を分かち合うなどして、日本人同士ほっと共感しあえるこころの交流をするなどの、心の余裕が是非欲しいものです。

6 英国日本人村のストレス
 ロンドンは、日本の学校、スーパーマーケット、書店、旅行代理店、不動産業、日本語のケーブルテレビ、学習塾までそろっており、全く英語を使わずに生活できる都市の1つです。しかしながら、その「日本人村」にも思わぬ落とし穴があります。海外での日本人同士の付き合いは、日本にいるときよりも何倍も濃密に感じ、それがかえってストレスとなることがあります。
 また、いくら通信網が発達しているとはいえ、海外での事情を知らない日本にいる友人や家族にはうまく気持ちが伝わらず、ますます孤立感、孤独感が高まることもあります。

7 こころとからだのバランス異常
 ストレスが積み重なり、誰にも相談できずに放置しておくと、からだとこころのバランスを崩して来ます。ストレスを受けると私たちのからだには防衛反応が起こりますが、ストレスが大きすぎたり、小さなストレスでも積み重なると、防衛しきれずに自律神経系やホルモン、免疫系のバランスを崩します。そのため、全身のいろいろな症状を引き起こし、成人病の引き金ともなります。

8 ストレスの症状
 症状の出方はその人の体質や性格によってさまざまです。病院で検査しても原因がわからない場合や、薬でも治らない症状が続く場合は、ストレスに起因している可能性が高いです。例えば、発汗、動悸、胸痛、息苦しさ、のどのあたりの違和感、めまい、吐き気、食欲不振、消化不良、腹痛、便秘、下痢、便秘と下痢の交代、おなかがはる、腰痛、冷え、月経不順、からだがだるい、頭が重い、肩こり、かゆみなどの様々なからだの症状が起こり得ます。さらに寝付けない、眠りが浅い、夢を見る、イライラ、不安、パニック感、無気力、集中力が続かない、などのこころの症状が出れば、それはからだからのSOSです。これらのストレスのサインが現れたら、そのサインを見逃すことなく、早めに心身をリラックスさせましょう。

9 ストレスに気づいて
 新しい環境に居るのだから、居心地の悪さ、気分の悪さは当たり前とストレスを無視したり、“こんなのストレスではない”と無理して頑張ってしまうこと自体が余計ストレスになってしまいます。また、責任感の強い、頑張り屋、負けず嫌い、せっかち、イライラしやすい、無趣味な方ほど、よりストレスを感じやすいことを自覚してください。

10 ストレスの対処法
 ストレスをコントロールするには、まず、ストレスに気づくことが大切です。次に、原因を取り除くことが必要ですが、それはなかなか難しいでしょう。そこで、うまくストレスと共存していくことが重要となります。それには、自分の行動パターンや考え方を変えることが効果的です。ともすると、タバコやお酒の量が増えたり、やけ食いをしがちですが、健康を余計害するような行動はできれば避けましょう。音楽を聴く、散歩をする、スポーツで汗を流すなどして気分転換をしましょう。海外での不安や不満を受け止めてくれる友人を見つけるのも有用でしょう。

11 こころの専門医
 症状が重かったり、長引く場合は、早めに医師(できれば専門医)に相談しましょう。しかしながら、日本人には欧米のように精神科に相談に行く習慣がありませんし、英国人医師に精神症状を正確に伝えるのは、英語にかなり堪能であっても至難の業です。たとえできたとしても、言葉や文化的背景、考え方、感情表現の違いまで理解した上での英語のカウンセリングは期待できません。
 こころの問題こそ、母国語による診察が最も必要とされ、きめの細かい対応が求められるのにもかかわらず、これだけ日系の医療機関が充実している英国でも、邦人の精神科や心療内科医に相談ができる機会は極めて限られています。さらに、あったとしても、精神科への偏見は根強いものがあり、受診をやめたり、ためらう方も大勢いらっしゃいます。ですから、いよいよ事態が深刻になってから受診された時は、すぐに帰国させなければならない状態になっていることも少なくありません。

12 バランスよく交流を
 大切なことは、ストレスに気づくこと、ストレスをためないこと、そしてストレスを上手に発散することです。健康な食生活、リラクゼーション、適度にからだを動かすことにつとめ、自分なりのストレス撃退法を見つけてみて下さい。
 日本人だけの世界にいることなく、日本人とも英国人とも付き合い、そしてロンドンは人種のるつぼといわれる都市ですから、他の外国人ともバランスよく交流を深め、視野を広げたいものですね。

(編集部注)海外生活でのこころとからだの健康についてシリーズでお送りします。筆者斧澤克乃(おのざわ かつの)先生は現在東京巣鴨にあるクリニックで心療内科医としてご活躍中ですが、メルボルン大学院でウィメンズヘルス(女性の健康学)のディプロマを取得後、英国のジャパングリーンメディカルセンターで、駐在員やその家族、留学生ほか在英邦人のメンタルヘルスの増進に務められ昨年帰国されました。