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ニュースレター(機関紙)

動物からうつる病気9
NL00080104
感染症 /寄生虫

食品からうつる人獣共通感染症-その1 肉から

国立感染症研究所 人獣共通感染症室
神山 恒夫

■1 はじめに
 私たちの食生活は動物性食品に大きく依存しています。そのため、動物が保有している病原体が食品を介してヒトに伝播する危険性については十分注意をする必要があるでしょう。
 食品を介してヒトが感染症にかかる代表例の一つに食中毒があります。食中毒のほとんどは、食品が製造される過程で細菌やウイルスなどが混入した結果発生することが多いことがわかっています。したがって、必ずしもその動物が保有していたものではない病原体も食中毒の原因となることがあります。一方、もともと動物の筋肉や乳の中に存在していた病原体が検査などをすり抜けてそのまま人の口に運ばれる場合もあります。言い換えると、食品が媒介する人獣共通感染症ということになります。
 今回からこのような食品が媒介する人獣共通感染症について、肉製品、乳製品、または魚介類を介して感染する場合の3回に分けて紹介します。
 今回は肉からうつる人獣共通感染症のうち、海外等で食肉の衛生状態に関する情報が少ない場合などに特に気をつけたい病気について取り上げます。

■2 トキソプラズマ症
 トキソプラズマ症はトキソプラズマ原虫(図1)が感染して起こる病気で世界的に分布しています。重要な感染経路の一つにブタなどの筋肉中に存在している原虫を誤って口から取り込むルートがあります。妊娠初期に感染すると死流産や胎児に先天性の障害を引き起こす恐れがあります。一方成人では、日本では健康成人の20-40%、アメリカでは30-50%が感染歴を持っているとされていますが、症状をあらわさない不顕性感染が普通です。動物の場合も不顕性感染が多いため、食肉検査で見逃されて食肉として店頭に並ぶ可能性は否定できません。
 この病気は、肉用家畜の飼育方法や肉の調理方法、それに食習慣などを反映して国や地方によって感染率に差がみられます。しかしトキソプラズマ原虫は70℃で5分程度加熱、または-15℃で凍結することで感染性を失うとされています。妊娠初期の方や妊娠の可能性のある方は特に感染予防に注意を払っていただきたいと思います。

■3 旋毛虫(せんもうちゅう)症
 これは旋毛虫(トリヒナともいう)(図2)と呼ばれる寄生虫が感染して起こる病気で、日本を含めて世界中の家畜や野生動物などに広く分布しています。ヒトは感染動物の肉を生で、または加熱不十分な調理方法で食べることで感染します。摂食した虫の数が少ない場合には無症状か軽症で終わりますが、多数の寄生虫の場合には発熱や、腹痛、下痢などの消化器症状があらわれ、その後幼虫が体内を移行する時期になると目の周りの浮腫や筋肉痛などの急性症状をあらわします。
 日本では狩猟で殺したクマの肉や、郷土料理店などのクマの肉を生で食べて感染する例が報告されています。国外でも生肉や調理不十分の肉が原因となっていますが、国や地域によって食習慣が違うために原因となる動物肉もさまざまです。その一部に、豚肉のソーセージ、馬肉のタルタルステーキ、インドシナ半島などの伝統的な犬肉料理、北極圏の一部で生食される北極熊やセイウチの肉、クマや野生ブタの肉などが知られています。

■4 有鉤嚢虫(ゆうこうのうちゅう)症
 この病気はブタに寄生している有鉤条虫(図3)と呼ばれる寄生虫が、生あるいは調理不十分の豚肉を食べることでうつります。侵入した有鉤条虫は体の中の各所に停留して嚢虫と呼ばれるステージを形成することがあります。特に脳などの中枢神経に嚢虫が形成されると痙攣や、意識障害、精神障害を引き起こすことがあります。嚢虫が臓器の中で腫瘤を形成すると腫瘍との区別が困難で、診断が難しい寄生虫症とされます。
 有鉤条虫症は国内では沖縄に存在すると言われていました。海外ではスラブ諸国、アジア、東欧、中央・南部アフリカ、メキシコ、中南米と、広い地域に存在しています。特にヒトの糞便をブタに対して餌として与えたり、畜舎の周囲で野菜等に肥料として播いたりするなど飼育状況が衛生的でない地域に多い感染症です。
 有鉤条虫と近縁の寄生虫に、ウシやヒツジに感染している無鉤条虫と呼ばれる寄生虫があります。感染したときの症状は有鉤嚢虫症に比べると軽微ですが、牛肉やヒツジ肉の生食を避け、十分に加熱調理することによって感染を防ぐことができます。

■5 おわりに
 今回は肉から感染する可能性のある三つの寄生虫・原虫疾患を紹介しました。この他にも感染した動物の肉の中の病原体を食べてうつる可能性のある人獣共通感染症は多数知られています。
 食品媒介性の人獣共通感染症を防ぐための最も基本的な対策は、食用家畜を衛生的に飼育し、感染症のない良好な健康状態に保つことです。しかし、われわれが個人的に家庭でできる対策もまたきわめて有効です。それは、肉類は一度凍結(-20℃以下)されたものを選び、生食を避け、中心部まで十分に加熱調理することです。
 海外では珍しい料理等につい手を出したくなりますが、それぞれの地域の事情を十分に把握しておく必要があるでしょう。食用にする肉は屠畜場で行われる食肉検査に合格したものであることはもちろんです。検査を行っていない肉や野生動物の肉を購入したり食べたりすることは健康保持の観点からきわめて危険な行為といえます。

筆者注)この記事はシリーズでお送りしています。記事に関するご質問やご相談はFax:03-5285-1179またはE-メール:kamiyama@nih.go.jpでお寄せ下さい。ただし、このシリーズは治療法や診断法の解説は目的とはしておりません。また参照した論文や成書の出典は、スペースの関係で省略しています。