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ニュースレター(機関紙)

動物からうつる病気8
NL00070104
感染症 /虫

ベクターが運ぶ人獣共通感染症
国立感染症研究所 人獣共通感染症室
神山 恒夫

■1 はじめに
 このシリーズの最初(JOMF NEWS LETTER №72)にも述べましたが、動物の病原体が節足動物などの無脊椎動物によってヒトに運ばれてうつる感染症があります(図1)。とくにノミや蚊、およびダニがベクター(媒介動物)となる人獣共通感染症が多数知られています。今回はベクターと人獣共通感染症についてご説明します。

■2 ベクターの役割
 ベクターが動物からヒトへ病原体を運ぶときには、病原体がベクターの体の中で成熟したり増殖して病原性が高まることが多いとされています。その他に糞便にとまったハエが病原体を足につけて運ぶなど、単に機械的に運ばれる場合もあるでしょう。どちらの場合も、ベクター対策を行うことによって人獣共通感染症の伝播をくい止めることができると期待されます。

■3 アルボウイルス感染症(用語集参照)
 蚊やダニのような節足動物によって媒介されるウイルスはアルボウイルスと呼ばれ、そのほとんどが人獣共通感染症の原因となります。ベクターとなる節足動物は気候や地形によってそれぞれの土地に特有の生態系や分布を示すことが多いために、アルボウイルス感染症の多くは世界各地の地方病的な性格があります。このため、わが国に対しては直接の影響は少ないのですが、逆にそれらの感染症の情報を国内で入手することも困難であります。表1に世界各地に存在するとされているおもなアルボウイルス感染症と、そのベクターを掲げます。

ウイルス以外にもベクターが伝播する人獣共通感染症はたくさん知られています。表2にその一部を掲げます。

■4 注目されるベクター媒介性人獣共通感染症
 ベクターによって媒介される人獣共通感染症の中から、特に最近関心が寄せられているものをいくつかご紹介します。

ウエストナイル熱
 この病気は、従来は表1に掲げた地域以外では知られていませんでしたが、昨年の9月突然ニューヨーク市で発生し、死者5名を含む50名以上の患者を出しました。今年以降、さらに広がることが心配されています。このウイルスは日本脳炎ウイルスと同じようにイエ蚊(Culex属)の吸血によって感染し、特に鳥類に対して強い感染力がありますが哺乳類にも感染します。ヒトでは発熱、頭痛、筋肉痛などをおこします。分布域はアフリカ(ウガンダ、コンゴ、中央アフリカ、マダガスカル、ケニア、エジプト)、フランスの地中海沿岸地方、インドなどのきわめて広い地域で、それぞれの地域で特に重要な媒介蚊の種類も少しずつ異なっていることが知られています。

日本紅斑熱
 リケッチアと呼ばれる微生物が感染しておこる紅斑熱という病気があり、世界の各地で各種のマダニ類によって伝播することがわかっています。その名の通り感染すると高熱を出して特徴的な紅斑が認められます。わが国では長い間このリケッチア感染症は存在しないと思われていましたが、1984年に初めて四国で発見されました。これは世界のほかの地域の紅斑熱とは別の種類であることがわかり、日本紅斑熱と命名されました。以来本州中部から四国九州の太平洋岸沿いの温暖な気候の地域に多数の感染者が見つかり、主な動物宿主はアカネズミであるといわれています。

ペスト
 以前(JOMF NEWS LETTER №74)にもこのシリーズでご紹介しましたように、ペスト菌は野生げっ歯類からノミの吸血によってヒトに伝播します。地球上に1,500種類以上もいるといわれるノミのうち、人に対してペストを伝播する能力はネズミノミが最も強いとされていますが、それ以外の全ての種類のノミにもベクターとなる能力があると考えられています。
 ペストが存在している地域では野生のげっ歯類に近づかず、ノミに刺されないような対策を考えるべきです。また、国内でも輸入げっ歯類を不用意にペットとして飼育することは、感染症予防の観点からはとても危険なことと言えます。

バベシア症
 バベシア原虫という、赤血球の中で増殖する原虫があります。もともとは野生ネズミ類が保有している原虫ですが、ダニがベクターとなってヒトに伝播して発熱や貧血などの症状を出します。発生数の多い北米大陸ではこの原虫の感染による死亡例も報告されています。最近わが国のアカネズミにもこの原虫が広がっていることや、無症状ながら感染しているヒトの割合も予想以上に高いことがわかってきました。
 この病気は人獣共通感染症として注意しなければならないだけではなく、感染した人が供血者となって輸血を介して感染した症例も知られています。

■5 ベクター対策
 ベクターが媒介する人獣共通感染症に対してはベクター対策が有効的な感染予防の手段の一つになります。
 ベクターとなる昆虫類の生態はそれぞれの土地の気候や地形などの風土によって大きく違っています。そのため、海外に赴任中の人やそのご予定のある人には、表1などを参考にして現地の医療機関や長年その土地で生活している人から、より正確でリアルタイムな情報を手に入れて対策をたてることをお奨めします。
 一般的な予防法の第一はなんといっても、なるべく危険地帯に入らないことです。流行地では長袖、長ズボンをはき、露出部分を少なくすることも大切です。蚊取り線香のように昆虫がいやがって近づかなくなる薬剤(昆虫忌避剤)などを併用することも奨められます。住宅の周囲は清潔にし、場合によっては残留性能薬などを効果的に使用して外部からの昆虫の侵入を防ぎます。寝室などでは蚊帳を使用することも効果的です。ただし、スナバエのように普通の蚊帳を通過してその内部に侵入できるくらい小さな昆虫もいますから、必ずしもこのような処置だけでは万全ではないことに注意を払うべきでしょう。
 昆虫による刺し傷は、場合によっては痛みを感じなかったり傷口が不鮮明で本人でも気が付かないこともあります。そのため、発熱等があって病院で診察を受ける場合には、少しでも昆虫に咬まれた可能性があると考えられる場合には担当の医師にそのことを正確に伝えることが必要です。

●用語集
アルボウイルス感染症:
 かつて「節足動物媒介性ウイルス」と呼ばれたウイルスによる感染症の一群。節足動物(arthropod)の媒介(borne)(略してar-bo;アルボ)によって伝播されるウイルス感染症を指す。この名称は現在のウイルス分類学では用いられていないが、動物宿主からヒトへ(またはヒトからヒトへ)ウイルスが伝播するときの共通の生態学的特徴を的確にあらわしている。ヒトと動物に病原性のあるアルボウイルスの多くはダニまたは蚊をベクターとしている。

筆者注)この記事はシリーズでお送りしています。記事に関するご質問やご相談はFax:03-5285-1179またはE-メール:kamiyama@nih.go.jpでお寄せ下さい。ただし、このシリーズは治療法や診断法の解説は目的とはしておりません。また参照した論文や成書の出典は、スペースの関係で省略しています。