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ニュースレター(機関紙)

東南アジア子育て事情
NL00040102
ジャカルタ /医療事情 /育児

氏田先生は昨年末、ジャカルタ・シンガポール・バンコクなど東南アジア4都市を訪問して「小児の健康管理」に関する講演や個別相談および日本人育児サークルほか多くの在留邦人と交流の場を持たれました。これらを通じて感じられた在留邦人小児の健康に関する悩みや問題点を都市別にレポートしていただきました。(編集部)

ジャカルタ編

                          海外勤務健康管理センター
                                 氏田 由可
インドネシアはこの数年政治的に不安定な状態が続き、多くの日本人が一時的に退避していたが、昨年10月の総選挙でやや情勢が落ち着いたため邦人数が再び増加しつつあり、現在約9,000名の邦人が在留している。帯同家族も徐々に戻りつつあり、いったん減少した日本人学校の生徒数も増加傾向であるという。

ジャカルタでは1995年にジャカルタ・マザーズクラブというボランティアの日本人育児サークルが発足し、以後アクティブに活動している(http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Suzuran/6901/)。さらに1年半前には「ジャカルタに暮らす日本人のメンタルヘルスケア」を目的として、ジャカルタカウンセリング(JC)というボランティアグループが活動を開始し、その一環として小児の発達相談や心理相談も行われているという。マザーズクラブおよびJCには大使館医務官の仲本医師がアドバイザーとして参加し、医学的なサポートを担当されていた。

今回の講演および個別相談はJC主催マザーズクラブ共催という形で企画され、「海外で子供がかかりやすい病気とその対策」の講演、ひきつづいて質疑応答と個別相談をおこなった。会場はジャカルタ日本人会の会議室である。参加者はスタッフを含めて25名あまり、小さな子供を連れてきた方もあり、別室に子供の遊び場を作って対応した。

参加者からの質問のメインは予防接種で、特にA型肝炎に関するものが目立った。A型肝炎ワクチンは、日本では15歳未満への接種が認められていないこと、罹患しても不顕性感染でカゼ程度の軽い症状で終わることが多いことから、あまり接種をすすめていない。しかし海外では小児への接種に特に問題はないとされているうえ、途上国では罹患の可能性が高いこと、まれに激症化すること、小児の便を通して家族内感染することなどを考慮して、接種をすすめる場合もある。またB型肝炎に関しても、東南アジアなどのキャリア率の高い地域では水平感染(注)の可能性があるため、余裕があれば予防接種がすすめられる。ただしこれらは、乳幼児期に必要な基本的予防接種を終えたうえでの話であって、まずはポリオや麻疹、BCGのプライオリティの方が高い。さらに、全ての予防接種を完了しようとすれば、打たれる子供の負担だけでなく、経済的な負担も大きい。複数ワクチンの同時接種が一般的でない日本ではなおさらである。お母さんたちの質問を通して、日本で小児に接種可能なワクチンの種類の検討を含め、予防接種システム全体の見直しが必要であると改めて感じた。

次に多かったのは発熱時の対処法についての質問であった。特に東南アジアでは解熱剤(多くはシロップ)を非常に多用する。日本では解熱剤の使用を最小限度にとどめ、まずは体を冷やすことで解熱しようとするのと対照的である。さらに解熱剤の処方量が多く、体温が下がり過ぎてしまうこともしばしばで、母親が混乱したり疑問を持つことがある。「郷に入れば郷に従え」という言葉もあるが、こと発熱への対処に関しては、日本と現地のやり方の違いをよく理解し、自信を持って使い分ける必要があると思われる。そのためには発熱のメカニズムや意味、解熱剤の効果と使い方についての丁寧な説明と指導が不可欠である。

日本と事情が異なるのは、救急時の対処法である。例えば、子供がけいれんをおこしたとき、日本であれば一般的に救急車を呼ぶであろう。しかし、ジャカルタでは救急システムが整備されておらず、また交通渋滞もひどいことから、救急車を呼ぶのは避けるように指導しているとのこと。日本に住んでいる私たちには、とにかく119をダイヤルすれば何とかなる、という安心感がある。ところが途上国では、目の前で子供がけいれんをおこしても慌てている場合ではなく、なんとか車を手配し、自力で病院に行かなくてはならないのだ。自分の健康は自分で守るというのは大原則だが、まさにそれを実感させられた。

ジャカルタの医療事情は、手術を必要としない軽症であれば十分に可能なレベルであると思われた。もちろん、日本国内と同じようなきめ細かな母子保健サービスは望めないが、前述したようにマサーズクラブ、JCといった、しっかりしたボランティア組織があり、情報やアドバイス、あるいはサービスを提供している。その点では途上国の中でも大変恵まれているといえよう。今後もこれらのグループと連絡を密にし、在留邦人の健康管理のお手伝いをしていきたい。

(編集部注:水平感染)水平感染(伝播)という言葉は垂直感染(伝播)と対比して用いられる。母から子と縦に伝播するのを垂直感染というのに対し、不特定多数に伝播する一般的な感染は同世代間で横に広がるという意味で水平感染と呼ばれる。とくに伝染性ウイルス疾患は人口密度が高い都会では直接伝染や間接伝染によって水平伝播性に流行を起こしやすい。(南山堂出版 医学大辞典より)