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ニュースレター(機関紙)

動物からうつる病気②
NL00010105



            国立感染症研究所 人獣共通感染症室
            神山 恒夫

4 新興感染症
 突然ヒトの世界に出現して新たな脅威となる感染症を「新興感染症」と呼びます。これら新興感染症の多くは病原体の起源を動物などの自然界に求めることができる感染症であるといわれます。表3には、動物を起源とする人獣共通新興感染症のいくつかをあげてみました。
 新興感染症の病原体のうち、例えばエイズの病原体であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)は本来一部のサルに対してのみ病原性を持っていたウイルスが何らかの理由でサルから人へ種の壁を越えて感染した後、人⇔人の感染サイクルをとるようになったとされています。また、本来人に対する感染性も保有していたが伝播経路が存在しなかったために動物間の感染にとどまっていたものが、新たに伝播経路が形成されたために人間にもうつるようになったエボラウイルスなどもあります。一方、ウシ海綿状脳症のように人間の経済社会活動によって発生し、新型クロイツェルトヤコブ病の原因となった人獣共通感染症もあります。
 自然界は人にとってそれまで出会ったことのない病原体の宝庫ともいえます。無防備のまま自然や動物の世界に侵入していくことは厳に慎むべきでしょう。正確な情報をもとに必要とされる注意をはらうことが求められます。

5 人獣共通感染症の伝播
 人獣共通感染症対策を考える前にもう一つ理解しておく必要のあることがあります。それは人獣共通感染症の拡がり方を大まかに理解することです。感染症が拡がることを「伝播」といいます。人獣共通感染症における伝播とは病原体を保有している動物から、最終的には人にうつってくる全ての途中経過をあらわします。これには感染源である動物から直接人にうつる直接伝播と、感染源動物と最終宿主である人との間に別の媒介物が存在する間接伝播の、大きく二つが含まれます。これをパターンで書いてみますと

ということになります。さらにこれを病原体の伝播と人獣共通感染症の関係まで広げてみると次のようなパターンで表すことが出来ます。

 このパターンでおわかりいただけると思いますが、人獣共通感染症の分野では病原体が動物の体から離れて人間の体に侵入するまでの伝播のスタイルを明らかにして伝播を防ぐ方策を考えます。このため、従来動物⇔動物や人間⇔人間の感染症に対してはワクチン接種による予防や抗生物質などを用いた化学療法が主要な対策方法であったのとは少し様子が異なります。もちろん人獣共通感染症対策にもこれらの手法は重要でありますが、人獣共通感染症に対してはこの他に特徴的な予防法が必要とされます。それはいかにして病原体の伝播を断つか、つまり病原体が人まで到達しないように方策を講ずることです。しかも、ペット、家畜、野生動物、都市型野生動物のいずれとも人間はある意味で共存して生活しているという現実をふまえて、できることなら動物との絆を断たずに病原体の伝播だけを断って目的を達成したいのです。

6 「動物からうつる病気」とは、のまとめ
 シリーズ「動物からうつる病気」を始めるに当たって大まかに人獣共通感染症を眺めてみました。動物が人に病気をうつす可能性を持っていることは事実です。このシリーズでは、どういう病気が、どういう動物から、どういう条件の時に、どういうルートで感染するかということの情報を提供し、その伝播を防ぐにはどうしたらよいかを一緒に考えて行きたいと思います。しかしそのために過剰防衛を行うことには賛成できません。エキゾチックアニマルを除けばペットを飼うことをやめる必要は全くありませんし、動物由来食品も生活必需品であります。
 感染症の予防は特に専門的な知識を持たなくても、いくつかの簡単な注意をはらうことで目的を達成することができる場合が多いと言えます。その目的を達成するためにできるだけ平易に、できれば中学生でも十分に理解して実行に移せるような内容を心がけたいと思います。今回簡単に触れた事柄につきましても、いずれ詳しく触れる予定です。

●用語集
人獣共通感染症(ズーノーシス):
 「ヒトとヒト以外の脊椎動物の間を自然の条件下で伝播し病気をおこす感染症」と定義される。ここで「自然の条件下」とは「意識的に人為的操作を加えることなく」と理解できる。人畜共通伝染病とも言ったが、現在では人獣共通感染症の言葉が定着しつつある。英語ではZoonosis。1979年と1982年に行われたWHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)の専門家会議では100数十の感染症が人獣共通感染症としてリストにあげられた。その後原因が明らかになったり新しく出現した人獣共通感染症を加えると世界中でその数は200を越える。

新興感染症(エマージングディジーズ):
 病原性大腸菌(O-157)症のように従来は認められなかったが、人に対して新しい大きな脅威となる流行を引き起こした感染症。そのほとんどが動物から病原体を伝播される人獣共通感染症、または動物界から種の壁を越えて人の間で伝播するようになった感染症である。類似語として「再興感染症」がある。これは結核のように、かつて大きな流行を起こしていたが終息もしくは激減し、その後再び大きな脅威を及ぼす感染症を指す。いつ、どこで、どのような新興・再興感染症が発生するか、その影響はどのくらいかについては全く予測することができない。英語で新興感染症はEmerging
disease、再興感染症はRe-emerging disease。


筆者注)この記事はシリーズでお送りしています。記事に関するご質問やご相談はFax:03-5285-1179またはE-メール:kamiyama@nih.go.jpでお寄せ下さい。ただし、このシリーズは治療法や診断法の解説は目的とはしておりません。また参照した論文や成書の出典は、スペースの関係で省略しています。