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ニュースレター(機関紙)

動物からうつる病気1
NL99120103



               国立感染症研究所 人獣共通感染症室
               神山 恒夫
1 はじめに
 海外赴任中には日本にいるとき以上に「自分の生活は自分で守る」ことが求められ、健康管理も大きな問題となります。なかでも、いかにして病気、特に感染症にかからないようにするかという問題に関しては神経を使います。海外での感染症については、漠然と次のような心配をお持ちの方が多いことと思います。
● 感染症の中には国や地域に固有の風土病的なものがあると聞く。
● 食品の種類、製造、流通、および調理方法などが日本と海外では異なる場合が多いので食べ物からうつる感染症が心配。
● 上下水道やその他の住環境が日本と海外では異なるので飲料水や下水道からうつる感染症が心配。
● 日本に比べて海外、特に熱帯や亜熱帯地域の国々にはいろいろな感染症が残っている。
● 海外では動物の種類や接し方が日本とは違うので病気をうつされないか。
 実はこれらの問題は、ある共通のキーワードで結びつけて考えることができます。それはいずれも「動物からうつる病気」と密接な関わりを持っているということです。動物がかかわる感染症といいますと古典的な代表例としてペストや狂犬病を思い浮かべる方も多いと思います。いずれもかつては日本でも発生したきわめて致死率の高い感染症です。しかし組織的な公衆衛生対策が功を奏してペストは70年以上、狂犬病は40年以上も国内の発生は抑えられています。このように国内では動物からうつる病気のうち、特に致死率の高い感染症の脅威は大きく減少しましたが、海外では必ずしもそうではない場合もあると言えましょう。
 それではどのようにして動物から感染する可能性を低いものとするか、言い換えると適切な予防対策のたてかたについては、皮肉なことに感染症対策の進んだこともあって日本では公衆衛生専門家以外では、時には臨床医でさえ忘れてしまっていることもあります。
 そこでこの「動物からうつる病気」シリーズでは動物から人へ移る感染症に関して、いかにして感染を予防するかという観点から様々に角度を変えながら述べてみたいと思います。取り上げる話題は、海外赴任中の方々はもちろん、国内においても役立つ内容にしたいと考えています。

2 人獣共通感染症
 動物には意識的に、あるいは無意識に人間に対して直接または間接的に何らかの危害を加える可能性があります。この危害の一つに「人獣共通感染症」と呼ばれる感染症のグループがあります。この言葉はほとんどの方は初めて目にする言葉だと思いますが、同時にほとんどの方に漢字からその意味を想像していただけるものと思います。WHOとFAOの専門家会議では「人と人以外の脊椎動物の間を自然の条件下で伝播し病気を起こす感染症」と定義されています。この定義からすると人から動物へうつる感染症も人獣共通感染症となりますが、このシリーズではおもに「本来は動物の間でみられる感染症のうち人為的な操作を加えることなく人へ伝播することのできる感染症」を中心に扱うこととします。図1にそのイメージをあらわしてみます。
 人獣共通感染症の原因となる病原体には、寄生虫のように何センチ(時には何メートル)もの大きさのものから、電子顕微鏡を用いなければ見ることのできないウイルスまで実にバラエティーに富んだ微生物が含まれています。また最近では通常の電子顕微鏡では見ることのできないプリオンと呼ばれるタンパク質までも人獣共通感染症の病原体となり得ることが知られるようになりました。さらに、同じグループの病原体であっても自然界で病原体を保有している動物種の違いによってわずかずつその性質が異なる場合もあります。このため、きわめて多数の種類の病原体が人獣共通感染症の原因となり得ると言えます。現在では200以上もの人獣共通感染症を数えることができますが、その中からほんの一部を表1にあげてみます。

3 人獣共通感染症の自然界での保有宿主
 人獣共通感染症の病原体は本来は動物が持っています。このため人獣共通感染症には自然界での保有宿主の種類ごとに特徴を見いだすことができます。この特徴には例外も多く、必ずしも明確ではない場合もありますが、簡単にまとめると表2のようになります。

ペット
 人獣共通感染症の保有宿主の一つはペットです。代表的なペットであるイヌやネコは何百年、あるいは何千年もの時間をかけてヒトとの共同生活に必要な安全性が確立されてきました。そのため人とペットは非常に密着した距離で生活することができますが、このことがペット由来人獣共通感染症の特徴にも反映しています。ところがここ数年、生活や価値観が多様化してきたのに伴って従来のペットとは異なるいわゆるエキゾチックアニマル、特に熱帯・亜熱帯を原産とする動物をペットとして飼育する人が増えています。しかし長時間をかけて安全性が認められてきたイヌやネコでさえ、時として彼ら特有の感染症を人にうつすことがあります。エキゾチックアニマルと密着生活をすることによって、これまで知られていない未知の感染症をも含めてどのような感染症がうつる可能性があるのか、ほとんど何も分かっていないと言っても過言ではありません。

家畜
 人間は牛や豚などの様々な種類の家畜を食用目的を始めとして畜産製品として利用しています。したがって乳や肉、およびそれらの製品などが人獣共通感染症の原因となる可能性があります。食用の家畜は通常よく管理が行き届いて安全性が保たれているものです。しかし、国や地域によってはその管理が行き届かなかったり、乳や肉やそれらの製品等の流通経路に問題をかかえている場合もあるでしょう。そうした場合には家畜由来の人獣共通感染症がうつる危険性は否定できませんし、実際にそのような事例は多数経験されています。食品以外に、家畜の皮や毛からうつる人獣共通感染症も知られています。

野生動物
 野生動物は本来は人とは異なる生活圏内で生きているために直接人に感染症をうつす機会は少ないと思われます。しかし、世界中で森林の伐採や耕作地の拡大が行われており、こうした人間の営みはただちに野生動物の生活圏への侵入につながります。これによってそれまで人間の世界には存在しなかった新しい感染症と遭遇する可能性があります。野生動物の多くは世界の限られた地域に棲息するものが多いために、それぞれの土地に特有な風土病的な性格を持つ人獣共通感染症が次第に明らかにされつつあります。また、上に述べたエキゾチックアニマルは本来は野生動物であり、それらがどのような感染症を持っているかは明らかではないことにも重ねて注意しておきたいと思います。

都市型野生動物
 さて、野生動物というと草原やジャングルにいる動物を思い浮かべがちです。しかしここに、私が都市型野生動物とよんでいる動物たちがいます。ネズミ、ハト、カラスなど、人とほぼ同じ生活空間を共有しながら独自の社会を作っている動物たちです。これらの動物は人に管理されていないという意味では野生動物のライフスタイルを持っています。しかし一方では彼らの食と住生活は人間社会に強く依存しており、集団の密度も他の野生動物に比べて高い都市型であります。このため動物本来の感染症に加えて、人の感染症の増幅媒体となる危険性を有していると思われます。このような都市型野生動物は世界各地の都市で見ることができます。

筆者注)この記事はシリーズでお送りします。記事に関するご質問やご相談はFax:03-5285-1179またはE-メール:kamiyama@nih.go.jpでお寄せ下さい。ただし、このシリーズは治療法や診断法の解説は目的とはしておりません。また参照した論文や成書の出展は、スペースの関係で省略しています。